03 皇居の植物(抄)その2
 
〈植生〉
 
 サクラ類 ヤマザクラは皇居には植えられたものが多い。野生又は逸出した木も生育
して,吹上御苑にはその林やヤマザクラ系の自然雑種もあり,特に広芝にはヤマザクラ
の個体が多い。吹上御苑には胸高周囲30p〜1.2mのもの636本,1.2〜2.4mの木が70本あ
ります。本種は東北地方以南・四国・九州,朝鮮に分布します。西地区ではヤマザクラ
・ソメイヨシノ・ヒガンザクラ・シダレザクラ・サトザクラなどをサクラとして記録し
ています。それに拠りますと胸高周囲1.2m以上のものが179本あり,乾門通りの並木には
ソメイヨシノが多い。東御苑では胸高周囲30p以上のヤマザクラ89本,ソメイヨシノ50
本,オオシマザクラ5本,エドヒガン4本,シダレザクラ4本があります。サトザクラ
は胸高周囲30p以上のものが,吹上御苑に147本,東御苑に158本あります。ソメイヨシ
ノ系のアマギヨシノも皇居に栽植されています。
 
 ウメ 本丸跡から二の丸跡(東御苑)に亘る梅林坂にはウメが多い。胸高周囲30p以
上の木は,二の丸跡に58本,本丸跡に5本,三の丸跡に2本あります。ウメは中国中部
の原産で,わが国には奈良時代より前に渡来しました。
 
 サイカチ 吹上御苑の防空壕跡付近には,胸高周囲3.01m,高さ約20mの皇居第一の大
木がありましたが,昭和52頃の台風により倒れました。当時の樹齢は約260年でした。サ
イカチは本州・四国・九州,朝鮮,中国に分布します。
 
 モチノキ 皇居には沢山植えられていますが,野生の木も多い。吹上御苑には胸高周
囲30p〜1.2mのもの366本,1.2m以上のもの268本,西地区には1.2m以上のもの137本,東
御苑には30p以上のもの439本あります。モチノキは本州以南,朝鮮,中国に分布しま
す。
 
 トウカエデ 皇居において最も太い木は半蔵門通りの賢所仮殿付近にあり,胸高周囲
は4mあります。「宮城風致考」には対応する木がカエデとして記録されています。半蔵
門通りの吹上一の門付近の曲り角には同3.15m(昭和47年)の木があります。吹上御苑の
寒香亭付近の木は,同3.05mで「宮城風致考」には2.75mと記録されています。吹上御所
の西に同3.13mの木もありますが,同書には記されていません。同書の作兵衛滝の北に同
2.3mのものが記録されていますが,現在はありません。「新編武蔵風土記稿」や「古今
要覧稿」に八代将軍吉宗が,トウカエデを染井の植木屋伊藤伊兵衛に与えた話が出てい
ます。上原啓二著「樹木大図説」(昭和36年)に「小石川植物園の大木は周囲3.3m高さ
10m,これは享保年間渡来したものと云われ、また伊藤伊兵衛が接木したものとも称する
」とあります。また白井光ミツ太郎著「植物渡来考」(昭和4年)には,トウカエデは享
保6年(1721)長崎に来ると記されていますので,皇居のものはその後に植えられたこ
とになります。フウと同様に当時の木が現存しているか否かは不明です。胸高周囲30p
以上の木は,吹上御苑に78本,東御苑に103本(うち同3m以上のもの1本),西地区に
は1.2m以上のものが49本あります。
 
 イロハモミジ 吹上御苑の樹木に中では最も多く,西地区にも多い。皇居では野生品
より栽植品の方が遥かに少ない。明治年間にソメイヨシノと共に植え付けられた中道潅
濠東側斜面のイロハモミジ林は,面積が広く紅葉山まで含みますので,秋の紅葉時にお
ける景観の美しさは皇居随一です。胸高周囲30p以上の木は,吹上御苑に893本,西地区
では613本,東御苑には127本が記録されています。本種は山野に普通に生育しています
が,園芸品種も多い。イロハモミジは福島県以南,朝鮮,中国に分布します。
 
 オニイタヤ 「宮城風致考」にサトウカエデ,「吹上御苑毎木調査」においてイタヤ
カエデとして記録されている木本です。皇居のものは栽植品とその逸出品で,胸高周囲
30p以上の木が6本ありますが,そのうち2本は同3m以上の大径木です。吹上御苑の花
蔭亭の南側に同3.44mの木があり,その樹下や付近に幼苗も生育しています。また同苑の
梅林西側の木は,同3.14mで「宮城風致考」のサトウカエデ(同2.39m)と対応します。
オニイタヤは北海道南部〜九州に分布します。
 
 ヤブツバキ 吹上御苑には胸高周囲30〜60pの木が126本,60〜90p35本,90〜120p
14本,1.2〜1.5m2本,1.5〜1.8m1本あります。このように若木が多いのは,野生又は
逸出に基づいています。西地区に同1.2m以上のものが8本あり,東御苑には同30〜60p
113本,60〜90p13本,90〜120p2本あります。皇居にあります胸高周囲1.2m以上の大
木は,江戸時代から生育しているものでしょう。ヤブツバキは本州・四国・九州,朝鮮
に分布します。
 
 イイギリ この木は吹上御苑に多く,胸高周囲30p以上のものが150本も記録され,そ
のうち同1.2m以上のものは24本あります。しかし西地区には,同1.2m以上の木が2本し
かありません。皇居の木は植えられたものや野生化したものでしょう。イイギリはわが
国,朝鮮,中国に分布します。
 
 ミズキ 皇居のミズキは吹上御苑に断然多く,胸高周囲30p以上の木が341本も生育し
ています。西地区では同55本,東御苑には同3本あります。最も太い木は吹上御苑千里
センリの薮ヤブの北にある胸高周囲3.34mのものです。この木は「宮城風致考」では太さが記
述されていません。吹上御苑のミズキは若木が多いので野生でしょう。ミズキはわが国,
朝鮮,中国,インドシナ,ヒマラヤに分布します。
 
 モウソウチク 半蔵門に近い吹上一の門付近には,八代将軍吉宗の時代に植えられた
と云う千里の薮が約12アール存在しています。これは皇居の中に現存する江戸時代からの唯
一の竹林です。「宮城風致考」に拠りますと,吉宗の時代に現在の千里の薮から植木門
(現在なくて,代官町通り筋の土塁のうち,やや乾門寄りの処に存在)に至る土塁とそ
の内堤とに竹類を植え「竹の裡山ウラヤマ」と称しました。この竹林は明治時代から次第に
衰えたので取り除き,前記千里の薮のみ残存しています。この薮には現在,鹿児島市に
ある旧藩主島津家の庭園において播種ハシュ・育成したモウソウチクの苗から生長した竹も
植えられています。モウソウチクは中国中部の原産で,元文ゲンブン元年(1736)に薩摩
藩に渡来しました。
 
△皇居の盆栽
 皇居には前述の巨木・名木と並んで盆栽の名品があります。江戸時代から伝わる皇居
の盆栽は,吹上御苑東側の大道オオミチ庭園において管理していますが,新しい盆栽を含め
約600鉢が栽培されています。昭和51年に日本盆栽協会が「皇居の盆栽」を発行して,そ
の代表的なものを初め数多くの盆栽を図説しています。
 皇居の盆栽の中において,特に貴重と思われるもの数鉢を挙げると,次のようなもの
があります(樹齢は前掲「皇居の盆栽」による)。
 
 三代将軍遺愛の松 これはゴヨウマツで家光縁りの品と伝えられます。明治維新後,
宮城外に出ましたが伊藤己代治から寄贈されて皇居に戻りました。樹齢500年と云われま
す。
 
 槙柏シンパク このミヤマビャクシンは四国石槌山産と伝えられ,明治時代から大道庭園
にあったと云います。樹齢400年と云われます。
 
 鹿島松カシママツ クロマツの一型で,樹齢350年と云われます。
 
 杜松トショウ これはネズ(ネズミサシ)で,樹齢200年と云われます。

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