03a 皇居の植物(抄)その2
 
〈植生〉
 
 アカガシ 皇居の木は大部分が野生と思われます。胸高周囲1.2m以上の木は,吹上御
苑に65本,西地区に19本,東御苑には同30p以上のものが25本あります。アカガシは宮
城・新潟県以南・四国・九州,朝鮮南部,中国に分布します。
 
 アラカシ 皇居の木は殆ど野生と思われますが個体は少ない。胸高周囲1.2m以上のも
のは,吹上御苑に16本,西地区に3本,東御苑には同30p以上のものはありません。わ
が国の暖帯においては普通に見られる優占種です。アラカシは宮城県以南,済州島,中
国,ベトナム,ビルマ,アッサム,ヒマラヤに分布します。
 
 シラカシ 皇居の木は野生が多い。胸高周囲1.2m以上のものは,吹上御苑に6本,西
地区に26本,東御苑では同30p以上のものが10本あります。シラカシは福島県以南,済
州島,中国中部に分布します。関東地方においては生け垣や防風樹として普通に栽植さ
れています。
 
 コナラ 皇居には窮めて少なく,吹上御苑では胸高周囲30m以上のものはありません。
西地区にも同1.2m以上のものはありません。東御苑の二の丸に胸高周囲30p以上のもの
が34本ありますが,植えられたものです。コナラはわが国の暖帯の二次林に多く,武蔵
野の雑木林においても他の樹種に比べて著しく多い。コナラはわが国,朝鮮,中国に分
布します。
 
 クヌギ 現在,吹上御苑に胸高周囲30〜60pのものが159本ありますが,このクヌギ林
は武蔵野の雑木林を再現させる目的を以て,昭和天皇が植えさせたものです。このほか
に同60〜90pのもの11本,90〜120pのもの11本,1.2〜1.9mのものが5本あります。西
地区には1.2m以上のものが4本,東御苑には同30p以上のものが6本あります。かつて
武蔵野のクヌギ林も薪炭用に栽植されました。クヌギは岩手・山形県以南,朝鮮,中国
からネパールまで分布します。
 
 スダジイ 皇居には栽植した木もありますが野生も多く,大木があります。桜田濠土
塁上の胸高周囲5.4mの木は,江戸時代からのものです。同1.2m以上のものは吹上御苑に
201本,西地区に218本,東御苑に36本,合計455本あります。若木もありますが幼苗は少
ない。スダジイは暖帯の優占種で福島・新潟県以南,朝鮮に分布します。
 
 ケヤキ 皇居において最も太い木は二重橋濠奧の山里門近くにあります。昭和62年の
調査では胸高周囲が5.52mあり,幹の下部は空洞になっていました。江戸時代から存在し
たものです。大道に沿った吹上御苑の東縁を経て生物学研究所の北側に至る路には,ケ
ヤキの並木があります。この並木は往時に比べて著しく減少して疎らになりましたが,
胸高周囲3m以上の木が6本あります。「宮城風致考」では槻ツキ(ケヤキの意)並木に同
3m以上のものが15本記録されていますが,うち9本は吹上御苑にあります。従って他の
6本は,賢所と生物学研究所との北側です。十数年前に吹上御苑のケヤキ並木で周囲3.3
mの風倒木の年輪が約290ありましたので,五代将軍綱吉の時代に植えられたことになり
ます。なお,この並木では周囲4.77mの木が最も太いので,その時代より前に並木が栽植
されていたことも考えられます。皇居においては吹上御苑に胸高周囲30p以上の木が51
本,西地区に同1.2m以上が67本あります。東御苑に同30p以上が52本,うち同3m以上の
木が三の丸跡に1本あります。皇居においてはケヤキの幼苗は殆ど見られません。ケヤ
キは本州・四国・九州,朝鮮,中国に分布します。
 
 ムクノキ 皇居の木は大部分が野生です。紅葉山の養蚕所の近くにある胸高周囲4.7m,
高さ15mのものが皇居では最も太く,「宮城風致考」には3.52mと記録されています。胸
高周囲1.2m以上のものは吹上御苑に120本,西地区に110本,東御苑に8本(うち3m以上
のものが三の丸跡に2本)あります。吹上御苑には若木も多く生育しています。ムクノ
キは都市や村里に多く,関東地方以西,朝鮮,中国山東省に分布します。
 
 エノキ 皇居の木は殆ど野生です。胸高周囲3mを超える大木は,大正10年に西地区に
9本ありましたが現在はありません。吹上御苑には胸高周囲30p以上のものが222本あ
り,大部分は1.2m以下です。西地区では1.2m以上のものは26本,東御苑では30p以上の
もの159本となっています。大木は都市や村里に多いが,皇居には少ない。エノキはわが
国,朝鮮,中国,ベトナム,タイに分布します。
 
 クスノキ 皇居において最も太いものは,本丸跡の薬部南側(東御苑)の胸高周囲
4.55mの大木です。現在,東御苑において周囲3mを超える17本のうち,12本は「宮城風
致考」に記録されています。「皇居東御苑毎木調査」に「宮城風致考」の14本について,
当時と昭和56年との太さの対比があります。それに拠りますと60年間の年平均胸高周囲
の増加は22o,その中の最大は同42oです。皇居には栽植した木の種子から野生化した
ものもあります。しかし関東地方には,西日本にあるような巨木は少ない。クスノキは
東海地方以西,済州島,中国中南部,ベトナムに分布します。
 
 タブノキ 「宮城風致考」にはヤマグスの名で記されています。皇居の木は多くは野
生であると思われます。紅葉山の養蚕所南側の木が最も太く胸高周囲5.2m,高さ12mです
が,「宮城風致考」には同5.7mと記録されています。従って後者の数値には疑問があり
ます。本種は暖地の海岸地方に多く,本州以南,朝鮮南部,中国山東省以南,フィリピ
ンバタン諸島に分布します。
 
 フウ 吹上御苑の覆馬場跡のものは胸高周囲3.11m,高さ16mです。生物学研究所付近
のものは分枝していて根元の周囲は,昭和62年に4.9mでした。吹上御苑の白鳥堀(弁天
堀)付近に胸高周囲2.93m(平成元年に2.99m),吹上御所の西側に同2.7m,同御苑の作
兵衛滝付近に2.73mなどの大木があります。「宮城風致考」には広芝の田舎茶屋跡(温室
跡)と馬場跡との間に胸高周囲3.93mのものを記録しています。当時はこれが最大ですが
現在はありません。フウは中国中部と台湾とに野生します。江村如圭に拠りますと享保
キョウホウ12年(1727)に中国の商船が持って来たと云います。平賀源内の「物類ブツルイ品隲
ヒンシツ」(1763)に,御園及び日光両三株に過ずとあります。日光東照宮に現存する「御
番所日記」には,享保12年1月17日に境内に植え付けたことが記録されていると云いま
す。従って江戸城の1〜2株もその頃栽植されたものでしょう。しかしながら吹上御苑
に当時の木が存在しているか否か不明であり,日光東照宮には既に在りません。吹上御
苑の大木では,秋の紅葉が美しい年には樹冠が橙紅色や紅色となります。
[次へ進んで下さい]