05 松の趣〈病虫害の予防と駆除〉
 
            松の趣〈病虫害の予防と駆除〉
 
 〈マツのコブ病〉
 マツのコブ病は,サビ病の一種の寄生によって起こります。枝や幹に発生し,初期に
豆粒大,のち年々肥大して直径数十pになることがあります。
 マツのコブ病はサビ病菌の通性として,季節によって宿主を替えます。コナラやクヌ
ギの落葉上で冬越した冬胞子は,春に発芽して,伝播用の小さな胞子を形成し,それが
近くのマツに飛散して病巣(コブ)をつくります。コブの中の黄色のサビ胞子は,風で
飛散して,またコナラなどに戻り,黄色の夏胞子を形成,冬が近づくと冬胞子をつくっ
て越冬に入ります。
 被害部は小さいうちに切り取り,傷口は石灰硫黄合剤かコールタールを塗布します。
 
 〈マツのハフルイ病〉
 7月中旬〜9月中旬頃発病し,針葉に淡緑褐色の病斑が形成されます。秋冬には病勢
はほとんど進展しませんが,翌春,病気は急速に進行し,落葉が甚だしくなります。褐
変した病葉には,光沢のある黒色楕円形の,中央に縦に裂け目のある菌体(子のう盤)
が形成されます。
 ハフルイ病菌は,それほど病菌性は強くありません。水分条件や栄養条件の悪い山地
に植林した場合,苗が衰弱して本病が発生することもあります。しかし,海岸の砂丘や
断崖の岩石地に自生しているマツは,樹体を小さくし,根を土壌深く張って水分欠乏を
起こさないようにしていますので,本病が大発生することはないようです。
 防除法は,施肥して土壌を改良し,樹勢をつけます。地上に落ちた病葉を集めて焼却
します。高木のマツ林であれば林内の落葉広葉樹の潅木を植栽し,病葉からの胞子飛散
を防止します。低いマツであれば,春から夏にかけてボルドー500倍液を数回散布して殺
菌します。
 
 〈ススハガレ病〉
 5月下旬から6月にかけて針葉が変色してきます。その年に伸びた新葉の中央部から
先の部分がまず褐色になり,のち灰褐色に変わって乾燥収縮します。健全部との境界が
明瞭なことが本病の特徴です。灰色に変色した病葉部分には,黒色スス状の微粒点が列
状に多数形成されます。
 被害葉は翌年,新葉が伸びる頃までに脱落します。5月頃には旧葉は落ち,新葉だけ
がボソボソ生えていて,貧相な感じとなります。被害はアカマツにおいて激しいです。
 薬剤による防除は難しく,原因は大気汚染によるとみられています。
 
 〈子苗の立枯病〉
 子苗が地上部に現れますと,まもなく地際に近い茎及び根が侵されます。被害部が糸
のように細くなり,地面に倒伏し,腐敗消失します。
 酸性土壌に硫酸アンモニアを施しますと,本病が発生しやすいので,石灰窒素又は尿
素を用い,燐酸を腐植肥に混ぜて施して下さい。
 苗畑の排水や通気をよくし,厚蒔きや厚い覆土も避けて下さい。
 
 〈マツカキカイガラムシ〉
 マツのあるところでは必ず本種の寄生がみられ,都市部や周辺の庭園の被害が目立ち
ます。クロマツでは葉身全滅に,アカマツでは針葉基部の葉梢の中に潜り込んで寄生し
ています。被害部分は葉緑素が抜けて白っぽくなります。
 本種は年2回発生します。越冬した雌成虫は4月中旬〜6月上旬に介殻の中で産卵,
間もなく孵化した幼虫は介殻の下から這い出し,定着すべき針葉を求めて移動します。
この間,1週間から10日かかるといいます。幼虫は定着すると介殻を形成し,移動しま
せん。二令幼虫を経て成虫になります。2回目の成虫の産卵は8月上旬から9月上旬に
みられます。
 孵化幼虫が移動する5月と9月にスミチオン,ペスタン,デナポンなどの乳剤1000倍
を散布します。冬季にマシン油乳剤30倍を散布します。
 
 〈マツノコナカイガラムシ〉
 日本三景の一つ,天の橋立の幼木にマツカキカイガラムシとマツノコナカイガラムシ
が被害を与えています。
 本種は年2回発生,幼虫及び成虫で越冬します。孵化幼虫は4月中旬〜5月上旬と,
7月中旬〜9月中旬です。
 幼齢木の新梢を好んで寄生し,普通,1本の新梢で20〜30頭の集中寄生がみられます。
被害部の針葉にはスス病が併発して黒く汚れることが多いです。主として関西以西にみ
られます。
 孵化幼虫の現れる5月と9月にスミチオン,デナポン,ペスタンなどの乳剤の1000倍
液を新梢部を中心に散布します。冬季にマシン油乳剤30倍を散布します。
 
 〈マツモグリカイガラムシ〉
 年2回発生,成虫は4月中旬から5月上旬までと,9月下旬から10月中旬までの間に
出現します。雌成虫は産卵場所を求めて移動します。定着しますと白い綿状物を分泌し
て体全体を覆い,卵嚢を形成し,その中で産卵します。このため新梢が白く汚れたよう
になります。卵は10〜20日位で孵化します。
 孵化幼虫は新梢の針葉の付け根や樹皮の隙間に潜り込みます。
 二令幼虫は球形,無脚で長い口針を持ち,雌は二令幼虫から有脚の成虫となり,雄は
三令幼虫を経て有翅の成虫となります。幼虫態で越冬します。被害はアカマツに多いで
す。
 孵化幼虫の現れる5月と10月に新梢を中心にスミチオン,デナポン,ペスタンなどの
乳剤の1000倍液を散布,冬季にマシン油乳剤30倍を散布します。
 
 〈マツカサアブラムシ〉
 マツの若木の幹や枝や新梢に,直径3o位の白い綿屑のようなものがつきます。
 幼虫で越冬した雌は4月〜5月頃成虫になります。
 孵化幼虫の出現する4月〜5月,7月〜8月にマラソン,スミチオン乳剤の1000倍液
を散布します。土壌にはダイシストン粒剤などを施用します。
 
 〈マツオオアブラムシ〉
 本種は,針葉上に産下された卵及び胎生雌虫で越冬します。翌春3月頃卵は孵化し,
また胎生雌虫も活動を開始します。
 アカマツの新梢部に群がって寄生し,クロマツには少ないです。アブラムシの寄生を
発見するには,アリが盛んに枝や幹を上下し,針葉がススで黒く汚れていることに注意
して下さい。
 マラソン,スミチオン,エストックス,ジメトエート乳剤の1000〜2000倍液を散布し,
土壌にはダイシストン粒剤を施用します。
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