04 松の趣〈庭木づくり〉
 
             松の趣〈庭木づくり〉
 
 〈庭木としてのマツの選び方〉
 
 庭木に用いられる主なマツは,クロマツ,アカマツですが,植える場所の現況によっ
て選び方が違います。
 庭の形式に合わせて,例えば庭をどのように利用するか,目的をはっきり決めること
が必要です。
 △和風の庭
 和風の樹木は通常自然のまま生長した樹形ではなく,いわゆる庭木造りのマツが選ば
れます。茶庭や築山林泉,枯山水,廻遊式などの手法に基づいて,いろいろなデザイン
の庭ができますが,昔からの日本庭園にみられます庭造りもいいですが,現代風に見直
してみてもいいでしょう。
 日本庭園にマツは必須ということはありませんが,庭の要所に植えて,その庭の景色
の強調,調和,添景などの役目を果たす役木にマツが多く使われ,重要視されています。
 @正真木
  庭園の中心になる主木で,この木を補う他の木を添えて景色の核心になるように植
 えるものです。正真木は庭の植栽木の要めですので,なるべく大きな立派な木を選び
 ます。
 A景養木
  池の島に植える木で,庭の景趣を養い保持するための木として,枝振りのよいもの
を選びます。
 B流枝松
  池や流れの水辺に,枝が覆いかぶさるように植えるもので,さし枝が優美に伸びた
 ものを選びます。
 C灯篭控えの木
  灯篭の後又は脇に植える木で,マツを用いることがあります。
 D鉢囲いの木
  庭の中の家に近いところで,縁先きに設けるつくばいや手水鉢に添える木で,マツ
 を用いた場合,根締めにササ,オモト,シャガなどの低い植物を添えて植えます。
 そのほか,橋の袂に植えて,枝葉が橋の上や水面に差し出して影を落とすようにする
橋本の木,滝の周囲を飾る滝囲いの木,灯篭の前に植えて灯篭が枝葉に隠れて露出しな
いようにする灯障りの木などにマツを使うことがあります。
 元来マツは枝葉の優美さや皮肌の感じが和風の庭,特に庭石,池,流れなどの配置に
調和しますので,昔から好んで使われており,庭木の王様ともいわれています。
 △洋風の庭
 通常,芝生を中心とした明るい感じの洋風の庭は,周囲は常緑高木で囲んで中央は芝
生か池などの平面的な形を採ることが多く,そして幾何学的な構図となりますので,植
栽木は仕立て物より自然に生育した姿のものが選ばれます。
 ソテツ,シュロ,ユッカなど洋風の庭に適するものがあり,それらを点在させる手法
が採られますが,マツも洋風に調和しない訳ではなく,芝生とマツだけでも配植によっ
て立派な庭になります。タギョウショウなどは洋風の庭にもよく適合します。
 
 〈植え場所に合わせて〉
 
 △前庭
 前庭とは,門を入ってから玄関までの通路の周辺ですが,主庭と隣り合わせになると
ころが多く,通常主庭との間に区切りをつけて,前庭として独立した機能を持たせるよ
うに工夫します。
 前庭に植える木は,まず訪問する人にその家の格式を感じさせるものが選ばれます。
伝統的に門冠り松といわれるものがあります。門に覆いかぶさるように大きな枝を差し
出しているもので,マツやイヌマキが使われます。幹が傾いて門の上に差し掛かってい
るものが選ばれます。
 そのほか,門の近くに立派な木を植え,玄関脇にもう一つのポイントになる植込みを
作ります。前庭は家の風格を表すところから,よい種類の木を選んで植えるのが普通で
すが,マツを門冠りに用いた場合,重複して更にマツを植えることは少ないようです。
 △主庭
 主庭はその家の庭の中心になるもので,面積的にも最も広い庭になります。設計様式
も好みによって和風,洋風,両者折衷風などいろいろの形式のものが考えられ,庭の局
部の構成は,使用する材料の種類,組み合わせによって多様となり,庭のプランは百態
千様のものとなります。また家族の希望によって,砂場や花壇などいろいろな施設が作
られることがあります。
 各種の施設が庭の主要部にある場合は,庭木はこれらの施設を庭の中で美しく飾る役
目を持っています。庭木自体が主役として観賞の目的となる場合もあります。日本庭園
のように一つの形式の中で,ある目的と役割りを以て植えられることがありますが,庭
の持っている条件に合わせて,マツの特徴を生かした庭作りをしたいものです。
 庭に木を植える場合には美しい庭となるように植えなければなりません。マツの木一
本だけでも庭はできますが,木自体は大きさ,幹,枝振り,根張り,色などマツの観賞
要素がすべてよく揃った品質を備え,庭の広さや環境によく調和することが大切です。
 マツと庭石だけも庭はできますが,他の広葉樹を混え,庭木相互の位置関係,木の高
低,色彩明暗など景観美の構成を考えて配置するのが通例です。
 常套の植栽法としては,中核となるマツの正真木を植え,一本だけでよい景観が得ら
れないとき高さの低いもう一本の添木(副木)を植えます。それでも景観が整わないと
きは,さらに落葉広葉樹モミジなどを対象的に添えて植えます。
 なお,潅木などを前面に植えて植栽の体裁を整備して下さい。この植栽群を中心とし
て主庭の全面に植栽配置を展開してゆきます。池,流れ,築山など,マツの植栽によっ
て美しさを発揮します。
 また,緑の芝生やササ,コケ類,その他の地被で覆われたところや化粧砂利,敷石,
砂などともマツはよく調和します。
 さらにマツと石組との構成は日本庭園の重要な特色の一つですが,灯篭,つくばい,
手水鉢,塔などのほか,四阿アズマヤや亭などの工作物にマツを添えて特別の趣きを醸し出
すことはよく使われる方法です。
 マツを主役として主庭を作るにしても,ほかに広葉樹や潅木,下草などを用いて,庭
全体の景観を整えることはいうまでもありません。
 △中庭
 中庭は建物や塀に囲まれた庭で,面積が狭く,日当たりがよくないので,複雑なデザ
インを避け,日陰に強い樹種を選びますが,マツを使う場合には,陽光を受けやすいよ
うに樹冠の発達した高い木を選んで下さい。
 枝下の空間は日陰に強いカクレミノ,ヤツデなどで修景し,下水や下草にも耐蔭性の
センリョウ,マンリョウ,ヤブコウジ,キャラ,ササなどを群状に植えて下さい。
 主木のマツは本数を控え,木振りのよく,木肌の美しいものを選びます。下水のほか
庭石を配置し,化粧砂利で地面を覆うこともよいでしょう。
 △裏庭(勝手周り)
 普通,マツを植えるのは少ないようですが,裏門が立派であったり,裏庭に余地があ
る場合は,正門に準じてマツを植えることもあります。
 △屋上庭園
 荷重に耐えるか,排水・潅水の設備があるか,完全な防水設備であるかを考慮して下
さい。
 マツは樹形が低く,枝振りよく仕立てられたものを選んで下さい。
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