03c 松の趣〈盆栽づくり〉
 
 〈八ツ房について〉
 
 マツ類にも八ツ房というものがあって,珍重され,人気を得ています。
 八ツ房とは,1カ所から八ツも芽でる,多芽性です。このような八ツ房は,葉性が短
くて色艶もよく,よく胴吹きをかけるものを指し,言い換えれば極矮性種ということで
す。アカマツにはありません。
 主な八ツ房のものを挙げてみました。
 @クロマツ
  三河産に八ツ房性があります。香川県鬼無でも「寿」という優良種が培養されてい
 ます。
 Aニシキマツ
  広島県己斐コイで,「鶴松」という八ツ房性のものが培養されています。
 Bゴヨウマツ
  非常に品種が多く,「右大臣」「留房リュウホウ」「玉粧姫ギョクショウヒメ」「雪月花セツゲッカ
 」「思恩シオン」「春高楼シュウコウロウ」「桃山」「関山カンザン」「九重ココノエ」「瑞祥ズイショウ」
 「一の瀬」「八雲」などの愛好者が多いです。
 
 〈マツ類の繁殖法〉
 
 △樹種によって異なる方法
 盆栽の苗木をつくり,また殖やす方法には,山取り,実生,接木,取り木,挿し木,
株分けなどがありますが,マツ類は株分けはしません。
 樹種毎に繁殖方法が異なります。
 クロマツは山取りと実生が主で,挿し木や取り木なども行われています。ニシキマツ
は山取りはせず,主として接ぎ木か挿し木です。アカマツは実生が主で,山取りもしま
す。ゴヨウマツはほとんど実生によります。八ツ房のものは接ぎ木によります。
 △山取り
 以前は,深山幽谷の高い岩場の一角に,僅かな砂礫地に自生し,激しい風雪と闘いな
がら生命を支え,いかにも盆栽に好適な形に矮生化ワイセイカしたものを,それこそ必死の
思いで採取して,根づかせし整姿して名木としました。
 しかし最近では,自然を保護しようとする機運が高まっていますので,山取りはハイ
キングなど身近なところで採取します。
 山取り木を原木ゲンキと呼んでいますが,形が鉢植えできるほどに小さく,根元がしっ
かりして,木振り枝振りが面白いことが目安です。その上,葉性がよければ申し分あり
ません。
 山取り時期は,東京以南は3〜4月頃,それより以北,又は高山地帯では5〜6月頃
がよいでしょう。
 @根元周辺の雑草を刈り取り,不要な枝や伸びすぎた枝先は予め切り取って下さい。
 A根元の2〜2.5倍程度の大きさの円を描いて,その周りを掘ります。
 B掘る深さは,その樹の高さのおよそ1/3程度が目安です。
 C途中,太い根や直根に当たったら,鋸などで切って下さい。
 D掘り取りましたら,剪定鋏で余分な根を切り,お碗状にします。
 E水を含ませた水苔を当て,古新聞紙か菰コモなどで梱包して,防水用のビニール袋に
 入れ,運搬中も丁寧に扱って下さい。
 F持ち帰った後は,根周りの土を1/3程ふるい落とし,余分な根も今一度剪定して
 下さい。
 G仕立て鉢の底に大粒の赤玉土を敷き,少量の中粒土(赤玉土と桐生砂の半々混合土
 )を薄く撒いて,根株を据え付けます。必要によりさらに根を切り詰めて下さい。
 上や周囲に中粒土を万遍なく入れます。幾分深植えにして下さい。
 H充分潅水し,2週間程半日陰で,荒い風を避けて管理して下さい。根元にはよく日
 光をあて,時々潅水して下さい。
 I新芽が動いてきましたら,棚上に出します。
 J1カ月ほどで完全に根づきますので,はじめは少量を施肥し,秋には量を増やしま
 す。
 K引き続き施肥はしますが,2年間程度は整姿はしません。
 △実生ミショウ
 種子は市販のものもいいですが,自ら採取するのも楽しいものです。親木が,葉が短
く癖がなく密生し,枝打ちがよく,幹肌のはぜるものから採取しましょう。
 秋10月中下旬,日当たりにある枝から,よく成熟した球果をもぎ取ります。球果は日
光に当てて乾かし,円い容器に入れて,棒でかき混ぜますと,種子が出てきます。痩せ
ていないものを選んで,空瓶などに入れて冷暗所で保存します。
 3月中旬〜4月中旬頃が播種ハシュの適期です。
 @種子は一晩水に浸け,下に沈んだものだけを使用します。
 A長方の仕立て鉢の,底にゴロ土,上に細粒土を入れて苗床を作ります。ゴロ土は,
 クロマツでは赤玉土,他のマツは赤玉土と黒土の半々混合土がよいでしょう。
 B種子は1列2〜3pの間隔でおき,その上に細粒土を種子の高さの2〜3倍(種子
 が隠れる程度)の厚さにかけ,静かに如雨露ジョウロで水を注ぎます。
 C風当たりの少ない,日当たりのよいところに置いて,鉢土が乾かないように潅水し
 ますと,2〜3週間で発芽します。
 D芽が出て殻を破り,双葉が開いてきましたら,抜き取って,剃刀カミソリで根部を少し
 残して切り,改めて土中に軽く穴をあけて植えます。そうしますと根張りのよい木が
 得られます。この方法はクロマツとゴヨウマツに効果があります。
 なお,クロマツやアカマツでは,松笠蒔きの方法も採られています。これは,松笠を
石付きに似た姿を観賞するわけですが,浅鉢に土を盛り,松笠を斜め横に寝かせて尻の
方を土中に植え込むものです。時々潅水し,日当たりのよいところに置けば発芽します。
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