02a 松の趣〈松属の姿〉
〈クロマツ(黒松)〉
別名 オマツ,オトコマツ
@形態
常緑針葉大高木で高さ30〜35mに達し,胸高直径0.5〜1m,大きいものでは2m以上に
なります。樹皮は暗灰色で若木では薄く,老木になると厚く,亀甲状に割れ,不規則な
やや厚い鱗片となって剥離します。樹冠はやや不整の円錐形で,枝は太く,老木では水
平に開出してほぼ傘状になります。
幹が古くなってきますと表皮の内側にコルク層ができ,表皮と皮層の一部は外方から
次第に剥がれ失われ,樹皮は一般に松膚状を表します。
マツの葉の横断面内部組織は,マツを分類する上に重要な特徴になっています。中央
の維管束は1個又は2個あり,1個のものは主に五葉松類が含まれ,2個のものには二
葉松類,三葉松類があります。また樹脂道の数や位置は種類によって違いますので,種
類の識別に用いられています。
クロマツの葉は2〜3年付着し,秋から冬にかけて落葉します。一般に松葉と呼んで
いるものは短枝及びそれに付いている葉鞘と針葉を合わせて松葉と称しています。
花は4〜5月に開花し,雌花と雄花に別れて同じ株に付く雌雄同花です。雄花は新し
い長枝の下部に多数つき,1個ずつ鱗片葉に腋生して長楕円形〜円筒形,長さ2〜3p
の穂状になり,少し湾曲します。雄しべが多数あり,淡黄色で一部分紅色を帯びること
もあります。
雄花は受粉滴とともに胚珠内に花粉を取り入れ,受粉したのち,その年には大きく発
育しないで,秋には小さい楕円形で長さ1p,赤褐色で冬芽の脇に横を向いて付いてい
ます。そのまま冬を越し,翌春になって受精が済むと大きく発育をはじめ,秋に俗に松
笠と呼ばれる毬果が成熟します。
球果は種鱗,苞鱗,種子をもったものが中軸に螺旋状に配列していて,種鱗は木質化
して大きく目立ちますが,苞鱗は花のときの大きさと変わりない小さいままで種鱗の外
面基部に残っています。種鱗はほぼ長方形で細長く外面は茶褐色,内面は淡黄色で2個
の種子が入っています。
種子は倒卵形又は菱状楕円形,長さ5〜6o,幅2〜3.5o,上側に種子の3倍の長
さの翼があります。
A分布と性質
本州,四国,九州,朝鮮南部の主として海岸近くに広く分布していますが,暖地では
山地にも自生しています。栃木・群馬県には自然分布のものはありません。普通は河川
の流域や海岸地方に多く,適湿な砂地でよく生育します。乾燥にも耐え,海岸の岩上な
どの地味の悪いところにも育ちます。潮水,潮風に対する耐性はアカマツよりも強いで
す。
△品種
@樹形に特徴のあるもの
片殺カタソゲ松:葉が一方に片寄るもの
黒万代松クロバンダイショウ:葉や枝だが非常に短く,枝は密に分岐する。樹高は低く,
地面に接して扁平球形の樹形になるもの
枝垂シダレ黒松(サガリマツ):枝が長く垂れさがるもの
多形タギョウ黒松:アカマツの多形松に似て,根本近くから多くの幹が箒状に立つも
の
石化セッカ黒松:枝先が鶏冠のように帯化するもの
A樹皮に特徴のあるもの
錦ニシキ松:樹皮が甚だ厚く割れて翼状の突起ができる。瀬戸内海の諸島,沿岸,特
に香川県に多く野生,主に盆栽として栽培され珍重されている。錦松は,皮性の
ほか葉の形,色,芽吹きの状態などの変化により優良系統が選出されている。
荒皮松アラカワショウ:樹皮が厚く,皮がよくはぜ,密着しているもの
岩石ガンセキ松:樹皮にかたくて厚い盛り上がりが縦に数本でるもの
亀甲松キッコウショウ:樹皮が厚く,亀甲状の割れ目のでるもの
B葉に特徴のあるもの
黄金オウゴン黒松:葉が黄金色で,ときに緑色の葉を混生するもの
白髪シラガ黒松(霜降松):全部黄白色になった葉と黄白色の斑入りとが混生するも
の
蛇の目ジャノメ黒松:葉に規則正しく黄白色斑が入り,蛇の目傘の模様状に見えるも
の
なお,紅蛇の目ベニジャノメ黒松は,蛇の目黒松の黄白色斑が冬になると美しく紅色
を帯びるもの
虎斑トラフ黒松:葉に不規則に黄白色の横斑が虎の皮の模様状に入ったもの
黒一葉クロヒトハ松(連葉松):二針葉が合着して一本になった葉を多く混成するもの
折鶴オリヅル黒一葉松:一葉松で折り鶴のように葉先が急に折れたように曲がるもの
一葉の黒松:二針葉のうち1本が退化した葉を多く混生するもの。東京都国分寺市
恋が窪の傾城の松
三葉ミツバ黒松(三鈷松):針葉が三本あるものを混成する。幼木にしばしば見られ
る
黒旋毛クロセンモウ松:葉が螺旋状に捻れるもの。水に濡れた犬の毛に似るので,水犬松
ともいう。
旋毛蛇の目センモウジャノメ黒松:黒旋毛松の葉に蛇の目模様の黄白色斑が入ったもの
八房ヤツブサ黒松:葉や枝が非常に短く,密に生えるもので,近年石化した枝のある
黒松から分離された
C球果に特徴のあるもの
千成センナリ黒松:小形の球果が多数かたまってついたもの。これはハバチの一種の寄
生によって生ずるとの説がある。アカマツにも現れる
Dクロマツとアカマツの中間種
アカクロマツ:アカマツとクロマツの雑種で,本州,四国,九州の沿岸に,クロマ
ツ,アカマツと混生して分布している。それぞれの形質により,黒松に近いアイ
グロマツ,赤松に近いアイアカマツ,中間的なアイノコマツと呼ばれている
Eその他:
鹿島カシマ松:葉が短く,幹の丈が低く,短い枝が多くしげり,萌芽性がよいもので,
江戸時代から知られ,盆栽として観賞されていたもの
三河ミカワ黒松(三州黒松):三河地方に自生するクロマツから選ばれた葉性,皮性
の優れたももの総称で,他の産地から取り寄せたものまで性質のよいものは三河
松と称されている。盆栽に多く用いられている。
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