07a 発酵の力で心身豊かに〈麹と日本人〉
 
△醤油、味噌、米酢
 わが国の伝統的な調味料には、麹から作られる醤油、味噌、米酢などがあります。
 醤油については、中国や東南アジアからわが国に醤油の原型である醤(比之保)ヒシオが
伝わったのは、2000年前の弥生時代からと云われています。比之保は原料によって、「
草比之保クサビシオ」、「魚比之保ウオビシオ」、「穀比之保コクビシオ」、「肉比之保シシビシオ」に
区別されていましたが、欽明天皇の時代に仏教が伝来(538)し、肉食が敬遠されるよう
になると、「穀比之保」が野菜の味付けとして発達し、平安時代に広く一般にまで普及
しました。「穀比之保」とは穀物を原料とした醤油で、つまり今日の醤油に繋がるもの
です。
 
 醤油の作り方は、煮たり蒸した大豆と煎った小麦に種麹を混ぜ、これを麹室に置いて
おくと麹カビが繁殖して、醤油麹が出来ます。醤油麹には、麹カビの作った蛋白質分解
酵素が多く含まれていて、これによって旨味成分である沢山のアミノ酸やペプチドが蓄
積されます。次に醤油麹と食塩、水を桶に入れて「諸味モロミ」を作りますが、この段階
で、麹に付着していた酵母や乳酸菌が繁殖して発酵が起こります。諸味は15〜18%と云
う濃い食塩を含むので、大抵の微生物は生育出来ませんが、耐塩性の酵母や乳酸菌だけ
が繁殖出来ます。この状態で約1年間発酵、熟成させると、酵母や乳酸菌などの微生物
は、アルコール、エステル類、有機酸類を蓄積して、これが醤油独特の香になります。
 
 味噌については、『大宝令』(701)に拠ると、「大膳食」に「未醤ミショウ」と云う言葉
があり、これが「未曽」、そして「味噌」になったと考えられます。未だ醤油にならな
い一歩手前の固形物が、味噌と云うことです。
 味噌は大豆と米麹や麦麹を、食塩と共に個体発酵させたもので、地域の好みによって
独自の発展をして来ました。信州味噌や仙台味噌、西京味噌は米味噌に分類さら、米麹
と大豆から作ります。麦味噌は麦麹と大豆、豆味噌(八丁味噌など)は大豆麹だけで作
ります。
 味噌は大変栄養が豊富で、蛋白質は麦味噌で約10%、豆味噌で18%もあります。また
蛋白質を構成するアミノ酸も、リジンやロイシンなどの必須アミノ酸が多く、ビタミン、
ミネラルも豊富です。
 また、毎日味噌汁を食している人は、殆ど食しない人の比べて、胃ガンなどのガンや
動脈硬化、高血圧、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、肝硬変による死亡率が低くなると云う報告
もあります。これは味噌の中の脂溶性物質であるリノレン酸エチルエステルと云う物質
の免疫性が、こうした病気を抑制するのだと考えられています。
 
 わが国で最も広く用いられている酢は、米酢です。
 酢を使った料理を記述したもので一番古いのは『万葉集』で、巻十六に、「醤酢ヒシホス
に蒜ヒル搗ツき合カてて鯛願ふわれにな見せそ水葱ナギの羹アツモノ」と云う歌があります。当時
は塩、酒、醤油、酢を「四種」と呼び、これを小さな器に盛って食膳に置きました。奈
良時代には、青菜やナスの酢漬けもあり、中世には酢飯と云う調理法も生まれ、これが
押し寿司や早寿司の原型になったと考えられます。
 
 米酢の作り方は、蒸した米に米麹と水を加え、加熱しながら撹拌カクハンします。すると
米は糖化するので、これに酵母を加えて、酒のときと同じようにアルコール発酵させま
す。次に発酵が終わったら種酢(酢酸菌)を加え、酢酸発酵させます。これを2,3ケ
月間熟成すれば出来上がりです。なおこのようにエチルアルコールが酢酸菌によって発
酵し、酢酸が出来るので、お酒は原則として長く置いておくと酢になる訳です。
 
 酢には防腐力や殺菌力があるので、昔から魚の酢漬けや酢飯などが作られていました。
最近では酢から、血中のコレステロールや中性脂肪を減らす機能や、体内の脂肪分解を
促進する物質、高血圧の元になるアンギオテンシン系酵素を阻害する成分なども見付か
りました。
 
△美白やガン予防になる米酢
 顔の皮膚に染みが出来たり日焼けして黒くなるのは、体の中のアミノ酸の一部である
チロシンやトリプトファンが老廃物として汗と一緒に出て来ると、太陽の光や空気でそ
れが酸化され、メラニン色素が出来るからです。麹菌の作る麹酸は、強い還元作用(酸
化の反対作用)を持っているので、これを皮膚に塗れば、酸性状態に陥った皮膚を還元
して、活力を取り戻すのです。また老化して弱った皮膚や毛穴などを還元して呉れるの
で、養毛剤や育毛剤にも使われています。
 米麹の持つアスペラチンは、ガン細胞の増殖を抑える効果があるとの研究発表もあり
ます。
 
[甘酒の作り方]
材料  炊いたご飯 ご飯茶碗3杯
    米麹    ご飯茶碗1杯(スーパーマーケットなどで売っている)
    水     ご飯茶碗7杯
 
作り方
 @ボウルに上記材料を入れて泡立器でよく掻き混ぜる。
 A電気炊飯器にこれらを入れて「保温」にセットし、約8時間で出来上がります。
 (これは通常の炊飯器の保温温度約75℃場合ですが、保温温度が65℃の場合はお湯を
 使用して下さい。)
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