06 発酵の力で心身豊かに〈漬物・ヨーグルトの整腸作用〉
 
                     参考:NHK人間講座「発酵は力なり」
 
〈漬物・ヨーグルトの整腸作用〉
 
△漬物の歴史と原理
 漬物が歴史に登場する最も古い記録は、天平年間(729〜749)の木簡で、ウリや青菜
の塩漬けのことが出ています。平安時代になると、漬物の記述は文献中に多く見られる
ようになります。平安時代初期の『延喜式』には、醤ヒシオ漬けや未醤漬け(発酵中か発酵
後の、搾っていない醤油や、柔らかい味噌に漬けたもの)、糟カス漬け、酢漬け、俎(草
冠+俎)ニラギ(青菜や筍、セリなどを楡ニレの樹皮と塩で漬け込んだもの)、須須保利
ススホリ(青菜やカブなどを塩、大豆、米で漬け込んだもの)、荏裹エヅツミ(ナスやカブ、シ
ョウガなどを荏ゴマの葉で包み醤に漬けたもの)などの漬物が出て来ます。またこの時
期には、肉や魚、野菜、香辛料などを味噌に漬け込んで熟成させた「嘗ナめもの」が売ら
れていました。これは今で云う鰹味噌、鳥味噌、時雨シグレ味噌、生姜ショウガ味噌などの類
です。
 
 全国各地に浸透して来たわが国の漬物は、二つに大別して考えることが出来ます。そ
れは微生物が直接関与する「発酵漬物」と、微生物の作用のない「無発酵漬物」です。
白菜や野沢菜などの塩漬けや沢庵などの糠ヌカ漬け、京都の酸茎スグキなどは発酵漬物で、
梅干しやラッキョウの酢漬け、醤油漬けなどが無発酵漬物です。
 
 空気がないと生きて行けない菌を「好気性菌」と云い、空気がなくても生きられ、然
も食塩に耐え、糠床や漬け味液の栄養でどんどん繁殖する菌を「嫌気性菌」と云います。
乳酸菌や酵母などは嫌気性菌です(勿論、これらの菌は空気中にも浮遊しています)。
 乳酸菌や酵母は嫌気環境の中で、糖類や蛋白質、ビタミン、ミネラル、脂質などを食
べて、代謝物として乳酸や漬物特有の匂いの成分を作るのです。この乳酸は漬物に風味
を与えるばかりでなく、漬物のpHを下げるので、pHが低いと生きて行けない腐敗菌は漬
物に付かなくなり、保存が効くと云う訳です。
 
△ビタミン、ミネラル、食物繊維の豊富な漬物
 生野菜のビタミンは加熱すると壊れますが、漬物にすると加熱しないので食べるので
壊れず、その上発酵菌が様々なビタミンを生成して蓄積して呉れますので、漬物は実に
巧みなビタミン摂取法です。また漬物は水分が抜けて食物繊維主体の食べ物になってい
るので、少し食べただけでも食物繊維の摂取量は多くなるのです。
 漬物は、カルシウムなどのミネラルも豊富です。
 食物繊維は体内に入ると水を吸収して膨らみ、腸の中をゆっくり通過しながら、異常
発酵菌や悪玉菌、ニトロ化合物などを吸収して排泄されます。
 
△漬け汁の効用
 乳酸菌は熱湯で死滅しますが、水か温るま湯では大丈夫です。江戸時代の文献に「漬
け床を水か温るま湯に溶いて飲めば、年中病気は防げる」旨の記述がありますが、理に
適ったことです。
 くさやの発祥地伊豆七島の新島辺りでは、下痢や便秘、風邪などのときは、発酵した
くさやの漬け汁を薬として温るま湯に溶いて飲んでいました。
 滋賀県琵琶湖周辺の人達は、下痢や便秘のときは、鮒鮓の漬けご飯を食べて治したと
云います。
 
△ヨーグルトの整腸作用
 ヨーグルトの作り方は簡単です。牛乳又は脱脂粉乳に、蔗糖ショトウと寒天、ゼラチンな
どの硬化剤を混ぜ、加熱して溶かし、其処に純粋培養した乳酸菌を加えて、一定の温度
で発酵させればヨーグルトになります。牛乳だけのものをプレーンヨーグルト、蔗糖な
どの硬化剤を加えたものをハードヨーグルトと云います。
 
 ヨーグルトが何故身体に良いのか。
 まずヨーグルトの原料牛乳は、良質の蛋白質やビタミンB2、カルシウムが豊富に含ま
れています。
 次に、乳酸菌による発酵で牛乳成分の消化吸収が良くなります。
 次に、豊富なカルシウムが、乳酸菌の発酵によって生成された乳酸と結合し、乳酸カ
ルシウムとなり、これが実によく体内に吸収されて、骨格を強くします。
 
 ヨーグルト1gには、8〜12億個もの生きた乳酸菌が居ます。
 我々の体内に居る菌は互いに拮抗しています。胃の中はpH1.2〜2位の酸性になってい
ますが、此処で殺されずに巧く通過するのが、乳酸菌や納豆菌です。乳酸菌は自分で酸
を作りますし、納豆粒の中にまで入っている納豆菌は胃液にやられることなく腸まで辿
り着けるのです。
 腸の中には、このようにして胃を通過して来た乳酸菌や納豆菌、悪さをしない大腸菌
や酵母、酪酸菌などが沢山居ます。
 また腸の中にはこのような善玉菌だけでなく、異常発酵菌と云う悪玉菌も居ます。悪
玉菌は有機物を分解してガスを出したり、老廃物を次々と作ったり、その強い酸化能力
で顔に染みが出したり、髪の毛を抜けやすくしたりし、そして腸に多量に発生するとい
ろいろな刺激物を作って下痢をも起こします。異常発酵菌によって作られた物質は、腸
の運動を阻害して、よって便秘にしたりもします。
 乳酸菌は、この異常発酵菌を追い出して呉れるのです。
 
 乳酸菌は数百種あり、例えばヨーロッパのヨーグルトはラクトバチルス・ブルガリク
ス、わが国のヨーグルトや発酵乳酸飲料はラクトバチルス・ヨグルティーです。また乳児
の腸内から分離されるラクトバチルス・アシドフィルスと云う乳酸菌は、腸の中でよく繁
殖して他の悪い菌の生育を抑えるので、整腸剤に利用されています。
 
△ガンなど生活習慣病の予防になる乳酸菌
 肉の主成分の蛋白質の一般式はアミノ酸のn乗((R-NH2)n)で、即ちn=約300で
すからアミノ酸約300個がくっ付いて連なった蛋白質です。肉を食べると、胃の消化酵素
でその蛋白質がバラバラに分解され、アミノ酸(R-NH2)が沢山出来ます。そのとき、
腸の中に腐敗菌や異常発酵菌が沢山居ると、この菌達は酸化能力が強いので、そのアミ
ノ酸を酸化します。酸化すると云うことは、水素(H)を取って酸素(O2)を付ける訳
ですから、(R-NH2)が(R-NO2)になるのです。この(R-NO2)はニトロ化合
物であって、ガンを起こす成分の一つと考えられています。
 毎日肉を食べている人は、肉に多く含まれている窒素も一緒に摂りますので、窒素(
N)を好む酸性悪玉菌がどんどん入って腸に棲み着き、アミノ酸を酸化してニトロ化合
物にしてしまうのです。毎日肉ばかり食べている人は、大腸ガンに成りやすいと云われ
るのは、こう云うことなのです。
 そこで、善玉の乳酸菌が大量に腸に入ると、悪玉の異常発酵菌はどんどん追い出され
ると云うことになります。
  
 また、納豆や味噌などに含まれるアンギオテンシン変換阻害酵素と云う物質が、血圧
を正常にして呉れるので、ヨーグルトにもこの物質が見付かっています。
 アフリカのマサイ族は、牛や山羊の乳を発酵させてヨーグルトに似た発酵乳を飲んで
いるので、血中の中性脂肪やコレステロールが極端に少ないと云われています。その発
酵乳から血圧を下げる働きを持つ物質を生産する菌を分離して、その菌を使った発酵乳
酸飲料は、好評発売されています。
 生まれたばかりの赤ん坊は一年間位は病気に罹らないのは、母乳に含まれているラク
トフェリンの免疫力によると云われていますが、このラクトフェリンを、牛乳を原料に
して乳酸菌に発酵生産たヨーグルトも発売されています。
 このように、ヨーグルトや発酵乳の保健的機能が注目されています。
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