03a 発酵の力で心身豊かに〈臭くて美味しい発酵食品〉
 
△発酵食品は特有の匂いを持つ
 発酵食品の第三の特徴は、あの独特の匂いです。匂いは、食の文化においてはとても
大切な要素です。鼻で匂いを嗅ぎながら、舌の上の味蕾ミライと云う部位トコロで、美味しさ
の善し悪しを判断するのです。
 世界の「臭み」ベスト11は、次のとおりです。
@スウェーデンのシュール・ストレンミングと云う、魚の缶詰
A韓国のホンオ・フェと云う、魚のエイを発酵させたもの
Bニュージーランドのエピキュアーチーズと云う、缶詰チーズ
Cカナディアン・イヌイット達の食べるキビヤックと云う、アザラシの腹中に海燕に一種
 アパリアスを数十羽詰め込んで、地中で三年程発酵させたもの
D焼きたてのくさや
E鮒鮓
F納豆
G焼く前のくさや
H沢庵タクワンの古漬け
I中国の臭豆腐
Jニョクマム(魚醤)
 
△発酵食品の匂いは人間の匂い
 このようなはっ発酵食品の匂いは、全て発酵微生物の作用によるので、それぞれの発
酵食品によって匂いを構成する成分は異なっています。
 例えば納豆の匂いの主要成分はテトラメチルピラジンと云う物質、醤油はγメチルメ
ルカプトプロピルアルコール、チーズは2-ヘプテノン、プロピオン酸、2-ノナノンなど
です。
 何故微生物がこのような特殊な匂い物質を作るのかと云うことはよく分かっていない
が、これは因果的なもので、微生物が物質(牛乳とか米とか大豆などの食物)を資化す
る(食べて行く)ときに、代謝物質として排泄しているのだ(排泄物=糞)と考えるこ
とが出来ます。
 
 では何故我々はこのような臭い発酵食品を、魅力的と感じるのでしょうか。魚醤
ギョショウであるベトナムのニョクマムや、タイのナム・プラーは、そのままでは強烈な臭さ
を持っていますが、調味料として料理に加えることで、実は凄く食欲を増すものです。
 人間そのものは昔、「不精香ブショウカ」と云う匂いを持っていました。不精香とは、怠
けて身体を洗わないでおくと生ずる匂いのことです。成人一人は大体100兆個の微生物と
共存しているので、不精にしていると段々匂って来ます。そう云う臭い匂いを、自分の
固有の匂いとして長く学習して来た人間は、必ずしも発酵食品のような臭いものが厭で
はなくなって来たのです。
 ペットや野獣があちこちにマーキングして、縄張りを主張することと同じことである
とも云えます。
 
△主食で異なる嗜好の違い
 発酵食品の持つ匂いに対する好き嫌いが、民族によって異なります。例えば山羊のチ
ーズは日本人からは嫌われますが、このチーズを好んで多食するイタリアやギリシャ、
トルコ、アフガニスタンなどの人々は、わが国のくさやとか、鮒鮓などは寄せ付けませ
ん。
 次は主食の調理法によっても、好き嫌いが異なります。民族は、粒食民族と粉食民族
とに大きく分けられます。
 日本人など粒食民族の調理法は、「煮る」ことです。例えば炊きたてご飯や煮物の蓋
を開けた瞬間に出る硫黄系の匂い、また沢庵漬けに代表される漬物の匂いも硫黄系です。
 粉食民族の調理法は、「焼く」ことです。焼くときに出る煙の匂い、つまり香ばしい
焦げる匂いです。例えば豆を燻して作るコーヒー、スモーキーフレーバーのウイスキー
や肉を燻製クンセイにするハムやベーコンなどは、全て燻した匂いに対する嗜好性から生ま
れたものです。
 このような主食の調理法による違いが、匂いに対する好き嫌いに影響しているのです。
 
 もう一つは、気候風土によっても匂いに対する嗜好は変わります。
 カビを使った発酵食品は、わが国には味噌、醤油、米酢、鰹節など10種類位あります
が、ヨーロッパなど乾燥地帯では、カビが生えないので、カマンベールチーズとブルー
チーズ位しか見当たりません。
 日本人を含め、東アジアや東南アジアの人々は、その地域は湿気が多く、そのため発
酵食品が非常に多く生まれたので、発酵食品の匂いが好きであると云えるのです。
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