03 発酵の力で心身豊かに〈臭くて美味しい発酵食品〉
 
                     参考:NHK人間講座「発酵は力なり」
 
〈臭くて美味しい発酵食品〉
 
△「発酵」とは
 発酵とは、目に見えない微生物の働きです。
 この微生物にも、栄養を摂ったりそれを蓄える部位トコロや、子孫を繁栄させるための器
官、親から受け継いだ遺伝子を仕舞っておく部位などがあって、他の生物とは基本的に
あまり変わらない生き物なのです。しかし微生物はあまりに小さい(前述)ために、一
つ一つでは何も出来ないので、集団で大きな仕事を沢山やり遂げる訳です。
 例えば納豆と云う発酵食品は、煮た大豆に納豆菌が付着して繁殖する訳ですが、納豆
1gに凡そ20億個の微生物が居ます。微生物は単細胞ですので、その数は細胞の個数で数
えます。糠ヌカ味噌には、1gの中に15億個位の微生物が居ます。
 
 微生物は、二つに大別して考えることが出来ます。一つは、人間のために良い事をし
て呉れる善玉菌と、もう一つは人間に悪い事をする悪玉菌です(前述)。
 善玉菌、つまり微生物が人間のために良い事をして呉れること、これを「発酵」と呼
んでいます。人間が巧く微生物の生理作用を利用することによって、日々の暮らしを豊
かにして呉れる、そう云うものが発酵なのです。
 
△「発酵」と「腐敗」の違い
 例えば牛乳をコップに入れて置いておくと、暖かい時期なら24時間で臭い匂いを発し
ます。これは空気中から腐敗菌が入って来て、牛乳を腐らせるからです。腐ると云うの
は、匂いが悪くなるだけでなく、其処に菌が入って来て怖ろしい毒素を作るのです。腸
管出血性である病原性大腸菌O-157と云う悪玉菌は、ベロ毒素と云う強烈な毒を作り、
それを食べた人はその毒に当たって食中毒を起こし、激しい嘔吐オウトや下痢を起こし、場
合によっては死ぬことがあります。よく菌は煮沸シャフツすれば死ぬと思い勝ちですが、毒
素は煮ても壊れないので注意して下さい。
 一方、牛乳に、意識的に乳酸菌と云う発酵菌を入れてみましょう。それを、乳酸菌の
一番好きな38〜40℃位の温度の状態に置いておくと、翌日には美味しいヨーグルトにな
ります。また同じように牛乳を乳酸菌で発酵させると、チーズが出来ます。牛乳は、一
旦ヨーグルトやチーズに成ってしまうと、腐りにくくなります。
 
 発酵して出来た納豆は、冷蔵庫に入れて置くと、1〜2ケ月経っても美味しく食べら
れ、また乾燥させると何年も保存出来ます。
 滋賀県の鮒鮓フナズシや、和歌山県の秋刀魚サンマを使った熟鮓ナレズシは有名な保存食品です
が、他にも鯖サバや鱒マスなどの魚を、ご飯と一緒に発酵させた熟鮓があります。「鯖の生
き腐れ」と云われるように、鯖は常温では短時間のうちに腐りますが、乳酸菌で発酵さ
せて熟鮓にしますと、何年も保ちます。
 中国の広西壮コワンシーチョワン族自治区の農村には40年前に漬け込まれた鯉コイの熟鮓、和歌山
県新宮市には30年ものの秋刀魚の熟鮓があるとのことです。
 
△発酵食品は保存が効キく
 発酵食品の特徴は、第一に保存が効くと云うことです。つまり発酵すると腐敗菌が付
着しないからなのです。
 例えばヨーグルトの場合は、乳酸菌によって乳酸と云う酸が出来ます。乳酸はpHペーハー
(水素イオン指数)が低く(酸性に傾いている)、そのため、その領域で生きられない
腐敗菌や雑菌は入って来れません。つまり乳酸そのものが抗菌性を持っているので、腐
らない訳です。
 
 もう一つ保存の効く理由は、微生物の持つ拮抗キッコウ作用です。例えばバクテリアの好
きな培地を寒天で固めておいて、病原性大腸菌O-157を入れ、其処に同数の納豆菌を植
えて混合培養すると、殆どの場合、其処が納豆菌に支配されて、O-157は増殖出来なく
なります。また稀には異種の微生物同士が共存する場合もありますが、微生物の場合で
はどちらかが強くて、弱い方の微生物は増殖が抑えられます。強い方は特殊な物質(キ
ラー因子又は致死因子)を出して、相手の増殖を抑えるのです。
 なお、腐敗菌と発酵菌とを比べますと、大方の実験では、遥かに発酵菌が強いことが
分かっています。
 
△発酵によって高まる栄養
 発酵食品の第二の特徴は、食べ物自体の栄養を高めると云うことです。発酵微生物は、
ビタミンや必須ヒッスアミノ酸など人間にとって不可欠な物質をどんどん作って呉れるから
です。
 例えば甘酒アマザケは、蒸した米に米麹コウジと水を入れて暖かくして置くと、一昼夜程度
で出来ます。甘酒の甘味は100%ブドウ糖で、これは米の澱粉が麹菌の分泌した糖化酵素
アミラーゼの力でブドウ糖に成ったのです。
 甘酒には20%を超えるブドウ糖が含まれており、ビタミン類も豊富に含まれています。
麹菌が繁殖するときに、ビタミンB1・B2・B6、パントテン酸、イノシトール、ビオチン
など、全ての天然型吸収ビタミン群を作って米麹に蓄積させ、それが甘酒に溶出されて
来るのです。つくり甘酒は、総合ビタミンドリンクと云えます。
 
 もう一つは、甘酒は自然食品の中では、天然の必須アミノ酸を最も多く含む飲み物で
す。米の表面は蛋白質が多く、其処に麹菌が増殖すると、蛋白質分解酵素を出して分解
し、必須アミノ酸や一般のアミノ酸に変えてしまうのです。
 このように麹菌で作った甘酒と云う栄養たっぷりの発酵食品は、病院の栄養剤点滴と
同じ効果があるため、江戸時代には甘酒を真夏に飲んで、健康を維持したと云います。
また街道筋の峠の茶屋では、甘酒は欠かせない飲み物として、今日までも受け継がれて
います。
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