参考:(大正十年六月二十七日)花輪青年会編輯部発行「鹿角」
名物を紹介するとして、鹿角に於て欠くべからざるものにマルメロと其缶詰がある。
由来マルメロは野生の植物であり、我国に於ける分布の状況よりして、或は鹿角を以
て原産地と見做し得る確証もある。最も多く栽培されて居るは、郡南宮川村の山間部で
あり、古老の言に聞いて数百年も生長したと思はれる樹の、所々に見受けるも珍しくは
ない。
種類は早晩二種、如何なる地にも生育するけれど、湿潤の土地は生長・結実・収穫、
総ての点に於て良好の成績を得る。顆形は西洋梨をマルメロ形と云ふ如く、壜状にして
不整細長ではない。果実の成熟期は晩秋であって、冷気を頗る必要とするところを見て
も、原産は南国てはあるまいと思ふ。
秋霜に逢って完熟したマルメロは濃黄色を呈し、芳香馥郁、独特の然も強烈な匂ひ、
射る如く迫るものがあるから、香味原料としてはレモン水等到底及ぶところではない。
マルメロ缶詰は実に之を原料として、加工製造したものである。
今を距る三十余年の昔、花輪町東山堂主人木村徳次郎氏がマルメロの砂糖煮を試みた
るに創まり、次いで之が栽培者として有名なる同町養齢堂主人関久兵衛氏が、技術者と
して伊藤吉助氏を招聘して缶に詰め、販路を求めたるに依り名声を博し、本郡の特産と
はなったのである。
香気芳烈、甘酸其度を得、滋養に富み、殊に喫茶、酒間の好伴侶たるのみならず、病
者の嗜好に適し、啖咳の妙薬として歓迎せられて居る。
近年に至り需要殊の外多く、田中商店、浅利佐吉、関安治氏、其他宮川村産業組合に
於ても大規模の設備をなして製造し、京阪は勿論、遠く北海道方面に迄移出して、好評
を得るに至った。
最近マルメロ蜜を製造して高尚なる飲料たらしめ、販売を試みたるに、是また有望な
りと謂へば、他に尚幾多の加工製造の方法もあるべく、マルメロは実に本郡の特産とし
て誇るべきものゝの一つでなければならぬ。
因みに「マルメロ」とは
参考:北隆社発行「原色園芸植物大圖鑑」
「マルメロ」バラ科シドニア属
ペルシア、トルキスタン地方原産で17世紀前期に渡来したとされる落葉小高木。枝は
細長く葉は長楕円形で、縁に鋸歯がないことでカリンと見分ける。淡紅色の花を5月に
咲かせ、果実は生食に適さないが、ゼリー、ジャム、缶詰の原材料となる。冷涼な気候
で生育期の降雨が少なく、排水の良い肥沃地が適する。繁殖は取り木、株分が容易だが、
接木苗の方が生育が良く、植付けは落葉直後から早春発芽前に行う。11月の元肥を中心
に、褐変防止のため肥料を多量に与える。在来種は果実が小さい。果実の大きい品種「
スミルナ」がある。
マルメロ在来種
マルメロ栽培種
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