04 飲食のこと
参考:吉川弘文館発行「古事類苑」
飲食は又「食物」と称す、食物は、邦語之を「たべもの」と云ひ、或は「をしもの」
とも、「くひもの」とも云ひ、又単に「け」とも云へり。而して食物中、其味の甜美テン
ビなるものを「多米都物タメツモノ」と云ふ。中古以後、魚鳥の類を美物ビブツと称するは、
蓋し蔬菜に比して、其味の優美なるに因れり。上代は常に獣肉を食したるものにて、天
皇の御膳にも上りしが、仏教渡来の後、殺生は彼教に於て厳禁する所なるを以て、仏教
の隆盛なるに至りて、法令を以て獣肉を食することを禁止せしことあり。其後、仏事は
固より神事にも、獣肉を食するを禁じ、之を犯したるものは、触穢ショクエの制を以て之を
律せり。然るに徳川幕府時代に至り、蘭学の徒、窃に之を食するものあり。世人も亦之
を嗜好し、獣肉を粥ヒサぐもの漸く増加せり。
凡そ常食の度数、古は朝夕の二回にて、之を「朝食アサケ」、「夕食ユフケ」と称し、高貴
の人に在りては、「朝御膳アサミケ」、「夕御膳ユフミケ」と称す。武家時代に封禄を給与する
に、米五合を以て一人扶持と定めたるも、朝夕二合五勺宛の分量を以てせりと云ふ。然
れども、農夫、工人等、総て労役に従事する者は、朝夕の二回のみにては、其事に堪へ
ざるを以て、労動の多少、昼夜の長短に依りて、一回或は数回の間食を為せり。古に謂
ゆる「昼養ヒルカヒ」も亦間食の一なり。後世之を「昼飯」、或は「中食」と称し、独り労
動者のみならず、一般に日々之を食することとなれり。又朝、昼夕の外に、「硯水」と
称して、酒餅の類を給して、労を慰するものあり。或は之を「小昼飯」とも、「小昼ヲヒル
」とも云ふ。佛家には之を「点心」、又は「茶ノ子」と称す。又夕食の後に食するもの
を、「夜食」とも「夜長ヨナガ」とも云ふ。長夜の饑ウヘを医イヤせんが為に之を食すればな
り。
[次へ進む] [バック]