06a 野菜「根菜類−直根」
 
◎ダイコン 大根
 アブラナ科 原産地:地中海沿岸,華南高地,中央アジアなど諸説あり
 プロフィール:ダイコンの野菜としての歴史は古く,古代エジプトにおいては,ピラ
ミッドを造る奴隷等が栽培されたダイコンを食べていたと云われています。現在世界の
ダイコンは,大別してヨーロッパダイコン,中国ダイコン,日本ダイコンに分けられま
す。日本ダイコンの歴史も古く,日本最古の書『古事記』にも記載され,仁徳天皇陵か
らはダイコンの種子が発見されたことでも裏付けられています。わが国には中国から渡
来し,各地に分布しています。その土地土地の風土に適合した品種となって,現在にお
いても多くの地域的な品種が見られます。
 ダイコンは春の七草の一つの「すずしろ」として古くから親しまれ,わが国の食文化
形成に大きく貢献して来ました。ダイコンと云う名になったのは,室町時代以降と云わ
れています。冷害などの飢饉対策の作物として,特に東北地方においては重宝されまし
た。
 ダイコンには数多くの品種がありますが,一部の特殊な品種を除いて日本ダイコンの
草姿は,切れ込んだ葉を持ち,根は白く肥大し円錐形若しくは円筒形,と云うのが一般
的です。
 根にはジアスターゼと云う消化を助ける成分が多く含まれている他,ビタミンCも多
い。
 
 △ダイコンの主な品種
 @青首アオクビ:現在主流となっている青首と称されるダイコンは,愛知県春日井市宮重
  の青首宮重アオクビミヤシゲを中心に育成されました。
 A亀戸カメイド:春に出荷される四十日ダイコンの一種で,東京亀戸が産地で,近年は生
  産が激減しています。肉質は細かく,糠漬け用に適しています。
 Bみの早生:根の長さは40p程度で,その4分の3程までは同じ太さです。暑さに強
  く栽培しやすい。多汁で辛味のある品種です。
 C三浦ミウラ:昭和初期に練馬ダイコンが三浦の在来種と自然交雑して出来た冬ダイコン
  です。長さは50〜60p,中膨れで太く大型です。
 D理想リソウ:肉質が柔らかく沢庵タクアンを始め漬物に適しています。同系の品種として練
  馬ダイコン,類似品種に西町理想や都西があります。
 E守口モリグチ:世界最長のダイコンとされ,標準の大きさは太さ2.5p,長さ120p,長
  いものは150pを超えます。
 F桜島サクラジマ:鹿児島県桜島の火山灰によって育つ世界最大のダイコンです。カブの
  ような形の丸い冬ダイコンで,太さ40p,15〜20sにもなります。
 G親田辛味オヤタカラミダイコン:信州地ダイコンの一つで,長野県伊那郡下條村の特産品
  で,太さ6p前後で辛味があります。卸して焼魚や蕎麦の薬味として用います。
 H赤筋:東北地方の地ダイコンで,根に薄紅色の横縞の入るのが特徴です。漬物や煮
  物に用います。
 Iヨーロッパダイコン(ラディッシュ):極早生で二十日ダイコンとも呼ばれます。
  国内栽培される唯一のヨーロッパダイコンです。小型で重さ10〜15g,丸形の品種が
  多いが,円筒形,長円筒形のものもあります。色は赤,白,紅白です。
 J貝割れダイコン:品種ではなく,ダイコンの芽を15p弱まで延ばしたものの呼称で
  す。四十日ダイコンの双葉が使われていましたが,最近は貝割れ専用種もあります。
 
 △食べ方と効能
 春ダイコン,夏ダイコン,冬ダイコンなど年中出回っていますが,矢張り冬から春先
にかけて出回るものが,甘くて瑞々しく,最も美味しい。根は白く,張りがあって瑞々
しく,萎びていないものを選んで下さい。また毛穴が目立って深いものや尻尾シッポの長
いもの,首の黒ずみが酷ヒドいものは避けて下さい。葉は根の肩からピンと付いていて,
切り口にスの入っていないものが新鮮です。
 冬場の保存は,新聞紙に包んでベランダなどに置きますと1週間は保ちます。ただし
水分の蒸発が激しいので,風が直接当たらないように,また気温が0℃以下の処は避け
て下さい。葉は1〜2日で萎びるので,茹でて冷蔵保管か,冷凍にします。
 白首ダイコンは,首の部分に甘味がありますので,上部は生のサラダや卸しに,辛味
の少し出る中程は煮物に,辛味と苦味のある尻尾は炒め物に用います。青首は白首と逆
で,首に近い部分を煮物に,下部は卸しにします。
 根の部分は水分が約95%,栄養素はビタミンCや鉄,食物繊維などです。卸した場合,
ビタミンCは時間の経過と共に急減しますが,卸したら直ぐに酢を加えますと,ビタミ
ンCは壊れにくくなり,辛味も和らぎます。その他澱粉の消化酵素であるジアスターゼ
が含まれているため,澱粉食品の消化を助けます。雑煮にダイコンを入れたり,卸しに
餅を絡めて食べるのは,昔の人の智恵と云えましょう。
 
◎ニンジン 人参
 セリ科 原産地:アフガニスタン
 プロフィール:ニンジンは非常に品種の多い緑黄色野菜です。ヨーロッパ型とアジア
型とに大別されます。ヨーロッパ型は西へ,アジア型はシルクロードを通じて東へ伝達
しました。わが国へはアジア型が江戸時代初期に中国から渡来しました。暫くは主要野
菜の一つとして全国において栽培されていましたが,江戸時代後期にヨーロッパ型が渡
来,更に明治時代以降多くのヨーロッパ型品種が入り,食生活の変化と共に次第にアジ
ア型が減少し,ヨーロッパ型が普及しました。アジア型は現在金時ニンジン(京野菜の
項参照)だけです。
 ニンジンは渡来当初は菜ニンジン(胡蘿匐)と云う中国名で呼ばれていましたが,朝
鮮人参と外観が似ていることから,何時しかニンジンと呼ばれるようになったと云いま
す。
 肥大した根を食用とし,その色は一般的にオレンジから紅色ですが,ヨーロッパにお
いては中世まで黄がかっていたようです。現在のようなニンジンになったのは,17世紀
前後ではないかと推測されています。根の頂上部から長い葉柄の羽状複葉の葉を多く付
け,白い五弁の小花を傘状に付けます。
 
 △ニンジンの主な品種
 @五寸ニンジン:ニンジンとして広く市場に出回っているタイプ,15〜20pの長円錐
  形で,尻が詰まっています。収量が多く栽培も容易です。五寸ニンジンの中に,三
  寸ニンジン,四寸ニンジンなど多くの品種があります。
 Aパリジェンヌキャロット:ヨーロッパ型の小さいニンジンで,直径3〜4pの丸型,
  主にフランス料理の付け合わせに用いられます。ミニキャロットには長形のものも
  あります。
 B大長ニンジン:長さ50〜60pにもなるヨーロッパ型,以前は主流でしたが,栽培に
  手間が要かるため正月料理用として少量のみ作られています。
 C金時ニンジン(京ニンジンとも):今やわが国においては貴重になった,アジア型ニン
  ジンの代表種です。鮮やかな紅色は,リコピンによるものです。
 
 △食べ方と効能
 ニンジンは旬を感じさせない野菜の一つです。年中安定して供給されていますが,敢
えて美味しい時期と云いますと,夏蒔き栽培のものが収穫出来る秋から冬にかけてが,
旬と云えましょう。
 色が鮮やかで表皮がすんなり滑らかなもの,茎の切り口が小さなものが美味しい。切
り口の大きなものは芯の部分が大きく,味は落ちます。また切り口が茶色に変色してい
るものは古いもの,緑色に変色しているのは日に当たったためで堅くなっています。そ
のほか髭根ヒゲネの痕の溝が深いもの,皹ヒビ割れているものは避けて下さい。
 湿気に弱いので,水気を拭き取ってから冷蔵保管し,また入手したままビニール袋に
入れた状態で常温に置きますと,蒸れてとろけてしまいます。
 ニンジンはサラダ,カレーやシチュー,グラッセ(バター煮)など,単品よりも他の
素材と合わせて用いることが多い。このため料理は,彩りも豊かになる効果があります。
 根にも葉にもカロチンをたっぷり含んだ,緑黄色野菜の代表です。カロチンは油と一
緒に摂りますと吸収が良く,サラダやグラッセはぴったりの料理です。カロチンは表皮
の直ぐ下に最も多く含まれていますので,皮は薄く剥いて下さい。葉にはビタミンCや
カルシウムも多い。根にはアスコルビナーゼと云う酵素が含まれ,ビタミンCを酸化さ
せてしまうので,紅葉卸しを作るときは,ダイコンとニンジンを別々に卸して,食べる
直前に合わせますとビタミンCの損失が少ない。
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