11 和三盆糖の研究
 
△和三盆糖の製造法とは
 和三盆糖の製造は,讃岐(香川県)と阿波(徳島県)において1780年頃から始められ
たと云われています。讃岐は薩摩(鹿児島県)から,阿波は日向(宮崎県)からサトウ
キビが入って来たとと云う説もありますが,定かではありません。どちらにしても農閑
期の作業として,それらの地域の農家では,家内工業的な形で砂糖を作っていたようで
す。また,それぞれの藩が財政建て直しのために,砂糖作りを奨励したのも,サトウキ
ビの栽培が盛んになった要因の一つでしょう。
 
 さて和三盆糖の元になる,糖蜜を煮詰めて冷やした「白下糖」の製造は,酒や醤油を
絞る方法からヒントを得ている,と云われます。その製造に関しては,最近は機械化さ
れている所が多いが,作り始めた当時と,殆ど変わらない製法を守り続けている所もあ
ります。ただ,サトウキビの絞りの行程において,現在は機械ですが,昔は牛を使い石
車を曳いていた点だけが異なります。では,昔ながらの製造法を守っている,その作り
方を見てみましょう。
 
 まず,原料は「竹糖」と呼ばれる,地元のサトウキビが用いられます。竹糖は沖縄県
や鹿児島県のサトウキビとは違い,茎周りが細く,背も2m足らずで低い品種です。一時
台湾産のサトウキビとの掛け合わせが出てきたこともありましたが,矢張り出来上がっ
たときの風味が全く異なったと云います。和三盆糖の独特の風味と云うのは,この原料
の竹糖の占める割合が大きいようです。
 製法は6段階に分かれます。絞り・アク抜きと煮詰め・冷却・蜜抜き(押し)・蜜抜
き(研ぎ)・乾燥です。この作業の中で,和三盆糖ならではの行程と云うのが,「蜜抜
き」です。梃子テコの原理を応用する「押し」と,熟練した職人が桜の木の研ぎ槽で,手
で水を加えつつ,押すように練る「研ぎ」を5日間繰り返し,6日目に漸く精製が完成
します。この作業で,人の力によって徐々に糖蜜を抜いて行き,含蜜糖と分蜜糖の中間
的な性質を持たせます。同時に他の砂糖にはない粒子の細かさも出します。
 この研ぎの作業は,昔は3日間だけ行い,研ぎ槽は丸い盆の形をしていたと云います。
此処から「三盆」の名前が付き,わが国独特のもの故「和三盆」になった,と云う説も
ありますが,他の様々な説もあり定かではありません。
 この製法により,人の手で作るからこそ,あの和三盆糖独特の香りと味が出るのです。
正に,人の手が生み出す傑作品と云っても過言ではありません。
 
△和三盆糖の作り方 − 岡田製作所の例
 @11月下旬,原料の竹糖の穂が出ないうちに収穫をします。此処徳島県上板町周辺は,
水捌けもよく南向きの斜面なので,サトウキビ作りには適しています。竹糖の茎を機械
にかけ,エキスを絞り出します。
 Aこの砂糖のエキスを,荒釜と呼ばれる大きな釜に入れて煮立てます。茲でアクや不
純物を取り除きます。このとき牡蛎灰(牡蛎カキの貝殻を焼いたもの)を入れます。
 B中釜で竹の棒を使い,最後の煮詰めを行い,粘りを出します。熟練した職人の方々
が,指先で具合を見ます。トロッとした煮詰まり具合になれば良い。
 C煮詰めたエキスを冷やし瓶に移し,撹拌しながらゆっくり冷やし,細かい結晶を作
ります。これが「白下糖」,色は茶色,砂糖を白く精製する前の状態と同じで,蜜がた
っぷり含まれています。
 D白下糖を麻か木綿の布に包み,押し槽に入れて,梃子テコの原理を応用して一昼夜蜜
を絞ります。この蜜を研ぎ槽に移し,手水を加えつつ,手で押しながら練ります。この
一連の作業を5日間繰り返し,6日目に精製が出来ます。これを乾燥させ,篩フルイに掛け
て出来上がります。篩に残ったものを霰和三盆糖と云います。
 
△和菓子・甘味店での和三盆糖の使い方
 和三盆糖は原材料も限られており,最後の行程が手作業のため,量産出来ず,今日に
至っても高級品として珍重されています。
 口溶けがよく,上品な香りがすることから,昔から主に打ち物などの干菓子に用いら
れることが多かった。他の砂糖と違って,和三盆糖のみを固めた干菓子もある位です。
和三盆糖だけで干菓子を作りますと,色素の乗りが悪く,形を綺麗に仕上げるのが難し
くなりますので,和菓子店では100%和三盆糖だけで作ることは少ない。他には,黒蜜を
作ったり,求肥にまぶしたり,麩煎餅に塗ったり,と用途は実に様々です。特に黒蜜に
しますと,黒砂糖の黒蜜よりさっぱりした,後口の良い,上品な甘さを楽しめます。
 最近では和三盆糖は和菓子だけでなく,蕎麦店がかえしに用いたり,日本料理やフラ
ンス料理に使われたりすることもあると云います。既成観念に囚われずず,いろいろな
業種のお店で,様々な使い方がされているようです。ただ単に甘いだけでなく,自然の
味や色や風味を生かしているだけに,今後は,今まで以上にもっと注目されるべき砂糖
であることは,間違いありません。
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