10b 和菓子の甘味科学
〈和菓子・甘味の各論〉
△和菓子・甘味の特徴と魅力
和菓子,甘味とも種類が多く,その特徴や魅力も多岐に亘ります。そこで段表的な菓
子や甘味について,特徴を述べてみましょう。
[生菓子]
上生菓子はしっとりした風味に仕上げることが必要です。これに対し半生菓子の場合
は,さっくりした口当たりが求められます。従って,その水分がどのように保たれるか
の工夫が必要で,当然材料が大きくものを云います。特に求肥のようなものは,砂糖と
白玉粉の関係が重要であり,白玉粉の品質が仕上がりを左右します。山芋は主として上
生菓子の饅頭など皮に使用される場合が多い。材料のところで説明したように山芋の質
がポイントです。
[羊羹]
羊羹には練り羊羹,蒸し羊羹,水羊羹の3種類がありますが,砂糖の量は練り羊羹が
最も多く,蒸し羊羹,水羊羹へと順次砂糖の量が減ります。また,水分も練り羊羹が最
も少なく,蒸し羊羹,水羊羹へと水分が増加します。
砂糖は保水性を持つ重要な材料で,この使用量が少なくなるに従って離水リスイを起こし
やすい。普通水の滲み出しやすい食品は,砂糖を加えますとしっとりとしていながら水
が分離しません。水の出ることを離水と云いますが,離水した水羊羹はベタベタして美味
しくありません。水羊羹では非常に離水しやすいため,寒天だけでなく,アイリッシュ
モスから採ったカラギーナンと呼ぶ海草摘出物も併用することが多い。
砂糖を食品に多く加えますと保存力が高まります。羊羹や餡なども砂糖の防腐作用を
利用した食品です。砂糖の濃度が高くなりますと,浸透圧が強くなるため水分を吸い出
します。同時に,砂糖は保水力が高いため,一旦吸収した水分はなかなか離しません。
微生物は一般に水分がないと繁殖出来ません。砂糖の濃度が高いと,砂糖がしっかりと
水を抱え込むため,微生物は発育出来ないこととなり,このため食品は腐りにくくなる
のです。
さて砂糖の使用量が多いと保存性が高まりますが,それによって甘味度が強くなり過
ぎるのを防ぐ必要があります。砂糖の甘味はその純度によって大きく差異があります。
最も純度の高いのは白ザラメで,これを用いることによって多量の砂糖を加えても,仕
上がった和菓子はくどい甘さにはなりません。また,砂糖の量は材料に含まれる水分を
十分に抱える量を上回りますと,結晶状となって析出セキシュツします。特に練り羊羹にはこ
れが起こりやすい。このようなものはよくありませんので,味にとってはマイナスです。
従って砂糖の使用量,練り上げ方など十分に吟味する必要があります。なお,通常の気
温で水に対する砂糖の溶解限度は2倍です。
[饅頭マンジュウ]
饅頭は外側に皮がありますが,この皮の厚みは生菓子と半生菓子ではかなり差があり
ます。生菓子では中の餡の味を主として味わうのが楽しめるポイントですので,皮は出
来るだけ薄い方がよい。半生菓子では皮の風味が可成り大きく美味しさの中に地位を占
めますので,皮の比重を大きく取る必要があります。
[干菓子]
干菓子は水分が少ないので,口に入れたとき,材料の粉の粒度と砂糖の関係が味覚に
大きな影響を与えます。
落雁の種は本来糯米ですが,その他の穀物の粉を各種使用することが多い。粳米,玄
米,大麦,小麦,大豆,小豆,蕎麦ソバ,栗と云ったものがよく用いられます。落雁は,
まず打ち抜いた形を楽しみますが,口に入れたときに何時までも砕けずに欠片カケラが残っ
ているようでは美味しいとは云えません。唾液,或いは共に飲む茶の水分によって全体
が滑らかに崩壊し,うっすらとした風味が口一杯に広がるようなものが良いものです。
そのため材料に用いる穀物の粉末の処理,焦がし方,粒土と云ったものが大きく味を支
配します。
[団子]
団子には,みたらし団子のようにタレをまぶすものと,餡をまぶすものがあります。
他に団子そのものに副材料を加えて風味付けをし,団子そのものの味を楽しむ場合もあ
ります。特にみたらし団子のようにタレを表面に付ける場合には,団子の硬さが味に影
響します。つまり,餅の外にタレを付けた感じが求められます。餡をまぶすような場合
は中の餅が硬過ぎては違和感があります。餡と中の団子との硬さに大きな差がなく,餡
と共に中の団子が噛み切れるような硬さに調整する必要があります。
[餅菓子]
大福餅を始め,各地に名物の餅菓子がありますが,それらの魅力はその地で採れる材
料をうまく利用している場合が多い。また,季節によって使用する材料も異なり,それ
がまた魅力となっています。餅菓子の美味しさは餅の弾力と歯切れ,また口中での噛み
切れる状態が味に大きく影響します。従って,材料の餅米の粉の選択や砂糖の混合量や,
餡など他の材料との状況と合わせながら,物性的にあまり違和感のない状況に仕上げる
ことが必要です。
[ぜんざい・汁粉]
本稿ではぜんざいとは汁状の粒餡,汁粉とは汁状の漉し餡を云います。食べ物の味は,
その素地テクスチャーによって大きく左右されますが,この場合,口当たりと,それに伴う甘
味の濃度と云ったものが味に影響します。どちらかと云いますと,ぜんざいは甘味の強
い方が,汁粉は柔らかな甘味の方が心地よさを与える傾向があります。ぜんざい,汁粉
には餅や白玉団子を入れることが多いが,これを間に食べますと,甘味のしつこさが緩
和されます。つまり,味覚休めの働きを持つものでしょう。従って中に入る餅や白玉団
子は甘味の付いていない単純なものがよいでしょう。
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