03 和菓子と菓銘のこと
 
              和菓子と菓銘のこと
 
                     参考:新潮社発行「和菓子の楽しみ方」
 
〈和菓子と菓銘のこと〉
 
 「山路の秋」「春の錦」など,和菓子の銘(菓銘)は優雅で奥ゆかしいものです。虎
屋の記録に拠りますと,江戸時代の貞享ジョウキョウ年間(1684~88)から花鳥風月に因んだ
銘を見ることが出来ます。また元禄ゲンロク6年(1693)刊の『男重宝記』にも「村雨餅」
「秋の野」「濱千鳥」など文学性のある菓銘が記されており,このような銘の工夫は17
世紀後半頃から,京都を中心に各地の菓子店でも広まって行ったようです。
 元々茶会においては,茶杓や茶碗に和歌に因んだ銘を付けており,菓銘もその流れを
汲むものと云えます。『源氏物語』『古今和歌集』などが教養の書として親しまれてい
たことも菓銘が浸透して行った背景と云えるでしょう。
 
 菓銘を大別しますと,①植物(寒紅梅,菜種の里),②動物(鶉餅,鯨餅),③自然
現象(春霞,薄氷ウスラヒ),④材料・製法(栗羊羹,柚饅頭),⑤名所(嵐山,高雄),
⑥謡曲(桜川,菊慈童),⑦人物(利休饅頭,織部饅頭),⑧風景(都の春,初日の出
),⑨中国の故事にあるもの(粽,猩々),⑩生活用品(茶巾餅,砧巻),⑪衣装に関
連のあるもの(重絹カサネギヌ,唐衣)などが挙げられます。
 四季折々に表情を変える和菓子の意匠は,菓銘によって,一層味わい深いものになっ
ています。外国人から和菓子が「食べる俳句」「食べる芸術」と称される所以でしょう。

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