04a 天麩羅「油」の上手な使い方
 
〈油の温度〉
 天麩羅調理において最も難しいのが,油の温度調整です。
 天麩羅調理では,一般に温度の高い油で揚げる方が味良く仕上がります。このため200
℃に近い温度で揚げる店もありますが,これは油を贅沢に使える専門店だからできるこ
とで,一般には180℃前後で揚げます。ということは,油の温度が200℃以上になります
と,急激に酸化が進むからです。
 材料別においては,魚介類は比較的高温で,野菜類は低温で揚げるのが良いとされて
います。
 油温の計測は,油に衣を振り入れて温度を確かめます。
 150℃以下では,衣が底に沈んだままなかなか浮き上がって来ません。
 150〜160℃では,一旦底に沈んでからゆっくり浮き上がって来ます。
 170〜180℃では,衣は底に沈まず,途中から浮き上がってきます。
 200℃では,衣は沈まずに油の表面に留まります。
 ただし以上の目安は,毎日衣を作って天麩羅調理をするプロには向きますが,一般人で
は難しいことです。ということは,衣の固さや粘り具合(水分の多寡)によって,油に
入ったときの衣の変化の違いが現れ,また衣の状態によっては40℃前後の差が出ること
もあります。このため一般には温度計を活用して下さい。
 
〈揚げる天種の量〉
 天麩羅調理の場合,油の量に対する天種の量も味を左右します。
 前述のように,天種を入れますと油温が下がるため,一度に多くの天種を入れますと,
味良く揚がりません。沢山の天麩羅を揚げるときのポイントは,時間差をつけて鍋に入れる
ことですが,それでも入れる天種の量は油の表面積の半分を占める程度に留めて下さい。
 鍋は,数多く揚げるようなときは口の広い平たい鍋が良いですが,油は空気に触れる
面の大きさに比例して劣化して,いわゆる油切れが悪くなります(「腰コシがなくなる」
又は「疲れる」と云います)ので,あまり大きな鍋は経済的ではありません。揚げ数が
少ないようときは,底の深い縦長の鍋が適しています。
 
〈油を傷めないコツ〉
 天麩羅を揚げるとき,一寸した配慮によって油の寿命は長くなります。
 それにはまず,天種の処理法や衣の付け方から注意して下さい。
 水分の多い貝類は,揚げている間に出た水気によって,油が直ぐに痛んでしまうので,
水気を良く取り去って揚げます。
 また青魚の脂分は油を傷めやすいので,衣を満遍なく付けます。
 衣の固さも重要な因子です。固過ぎる衣は天種に熱を遠しにくいので,揚げ時間が通
常より長めになります。その分だけ油の「疲れ」も早くなります。また天麩羅調理では,
天滓テンカス(揚げ玉)が沢山出る位の衣の方が美味しく揚がります。
 出た天滓はその場で直ぐ掬スクうことが大切です。天滓を取らずに油に残して置きます
と,調理している間に焦げてしまい,油の風味を悪くする要因になります。
 
〈油の継ぎ足し〉
 油は,天麩羅を揚げているうちに減ってきます。そこで油の継ぎ足し(差し油)が必
要になります。油が減ってきましたら,鍋の天種を全部揚げた後,火を止めて油を継ぎ
足し,火力を上げて良く掻き混ぜ,適温になったら再び揚げ始めます。
 油の継ぎ足しの目的は,鍋の油を適量に保つためだけでなく,油を常に新しい状態を
維持することにあります。揚げ油は,新しいもの程揚げる力が強いからです。特に酸化
しにくいごま油を使うときは,継ぎ足ししながら使い続けますと,人気の高い専門店で
は油を取り替えたり捨てたりする必要がなくなります。
 継ぎ足しの量は少量ずつでは効果がなく,また継ぎ足しが面倒であるとして多めの油
で揚げるのは,天麩羅の味に良くありません。
 
【油の保存法】
 
〈油の劣化の大きな原因は「高温」と「酸化」〉
 揚げ油は,劣化が進んだ後も更に使い続けますと,粘りが出て細かい泡が立ち,煙が
出るようになります。通常このようになった油は取り替える必要がありますが,こうし
た「劣化」は,どのようにして起こるのでしょうか。
 油の「劣化」には,三つの側面があります。この三つの異なる性質の劣化が起こって,
それが重なり合うのです。
 一つは鍋底付近で起こる変化です。これは加熱によって熱重合・熱分解が起こるので
す。
 次は鍋の中全体で起こる変化で,特に天種近辺では,天種からの水分と高い温度によ
って加水分解が起こります。
 三つ目は油の表面で起こる変化です。空気中の酸素と高い温度によって熱酸化が起こ
ります。
 こうした変化は,油の温度が200℃を超えると急激に起こります。油が着色し,粘度が
高まり,細かな泡が発生し,泡は消えなくなり,更に煙が出て来ます。
 
〈専門店と家庭とでは,劣化の要因も対処法も異なる〉
 専門店の場合は油は毎日使い続けるものなので,天麩羅調理しているときに劣化する
ことが多く,閉店後の保存中の劣化はあまり留意しなくても良い。このため劣化への対
応策は,自店に合った鍋の形や大きさと油の種類を選びます。更に営業中における油の
継ぎ足しや,油温の調整,天滓の処理をこまめに行うなど,油の使い方に重点を置いて
下さい。
 一方家庭においては,専門店程頻繁に揚げ物をしませんので,昨今では油は3〜4回
使ったら捨ててしまうことが多いようです。家庭では,揚げた後の保存方法の如何によ
って,油を長持ちできます。
 
〈油を保存するときは,光と空気を遮断する〉
 油は一旦開栓しますと,使わなくてもその時点から劣化が始まります。この場合,油
の表面から酸化が始まりますので,極力空気中の酸素との接触を絶つような容器に保存
して下さい。しかも油は熱や光にも反応して劣化しますので,冷暗所に保存して下さい。
このようなことのために,油の保存容器は口の細い瓶とか,光の入らない缶状になって
いるのです。
 天滓も酸化の原因となりますので,熱いうちに目の細かい網やキッチンペーパーを使って,
漉して下さい。熱いうちに漉すと云うことは,油は熱いうちはサラサラしていますが,冷め
ると粘りが出,また粘りが出ると漉すのに時間がかかり,そのうち空気と触れて酸化が
進みます。

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