04 天麩羅「油」の上手な使い方
 
             天麩羅「油」の上手な使い方
 
                     参考:旭屋出版発行「天ぷら・うなぎ」
                       ・柴田書店発行「天ぷら」
 
【天麩羅テンプラ「油」の種類と特徴】
 
〈油にはその原料が持つ"本来の風味"がある〉
 天麩羅料理に最も欠かせないのが油です。油の中でも,天麩羅用には植物性油が用い
られますが,この植物性油にも,主に天麩羅調理に使われるものだけでも,様々な種類
があります。
 
[代表的な「天麩羅」油]
△ごま油
 ごまの種子から絞った油で半乾性油,特有の香気があり,江戸前天麩羅には欠かせま
せん。ビタミンEを比較的多く含み,更に抗酸化成分も含むため,日持ちが良く,差し油を
繰り返しても変敗臭が出ないなどの利点が多い。焙煎の度合いにより,色が濃く酷コクと
香りの強い濃口ごま油と,焙煎せずに絞った淡黄色でごま特有の香りがない大白ごま油
とがあります。
 
△サラダ油
 綿実油・大豆油・コーン油・菜種油などを原料とし,ドレッシングなど生食用に適するように
作られています。天麩羅油よりも精製度が高く,無味無臭でサラッとしています。
 
△コーン油
 玉蜀黍トウモロコシの胚芽から作られる油で半乾性油,ほのかな香ばしさがあり,味に癖クセ
がなく,色は淡黄色から黄金色です。酸化安定性に優れ,日持ちが良く揚げ物をしても
刺激臭が少ない。アッサリと仕上げる天麩羅に向きます。リノール酸,オレイン酸,パルミチン酸などの
脂肪酸を含みます。
 
△綿実油
 綿の種子から作った油で半乾性油,精製した綿実白絞油は風味に癖がなく,上品な旨
味ウマミがあり,風味の安定性にも優れています。関西方面の天麩羅店において比較的良く
使われています。リノール酸,オレイン酸などの脂肪酸を含みます。コーン油よりも少々高価です。
 
△大豆油
 大豆の種子から作った油で半乾性油,わが国では最も生産量の多い種類です。精製し
た大豆白絞油は淡色で,アッサリとした青い香りと,癖がなく,円やかな旨味を持ちます。
他の油と調合して使われることも多く,耐熱性にも優れており経済的です。リノール酸,オレ
イン酸,パルミチン酸,リノレン酸,ステアリン酸などの脂肪酸を含みます。
 
△菜種油
 菜種の種子から作った油で半乾性油,古くから作られ,日本人に最も馴染みの深い油
です。大豆油に次いで生産量が多い。精製した菜種白絞油は,アッサリとして爽やかな味が
あり,特有の香気があります。腰コシが強く,耐熱性,酸化安定性にも優れています。
 
△紅花油(フラワー油)
 紅花の種子から作った油で乾性油です。植物油の中において,最もリノール酸が多く,他
にはオレイン酸,パルミチン酸,ステアリン酸を含みます。最近ではオレイン酸含有量の多いハイオレックサフラワー
から採った油も作られています。味は円やかで,サラッとした風味があり,揚げ上がりが非
常に軽いのが特徴です。
 
△落花生油
 ピーナッツの種子から採った油で不乾性油,ピーナッツ特有の香味と酷コクがあるため,香り付
けとしてブレンド(配合)されることも多い。無色又は淡黄色,耐熱性に優れています。
オレイン酸,リノール酸,パルミチン酸などの脂肪酸を含みます。
 
△向日葵ヒマワリ油
 向日葵の種子から採った油で半乾性油,紅花油に次いでリノール酸を多く含みます。淡泊
な上品な味で,天麩羅にも向きます。
 
△オリーブ油
 オリーブの実から採った油で不乾性油,オレイン酸が多く,パルミチン酸,リノール酸などの脂肪酸を
含み,揚げ物がカラッと軽く揚がります。淡黄色で無臭の精製された淡泊な風味のピュアオリー
ブ油と,無精製で独特の酷コクと風味が特徴のヴァージンオリーブ油があります。ただし高価な
ので,天麩羅に使う店は少ない。
 
△椿油
 ツバキの実から採った油で色は黄色,オレイン酸90%からなり,オリーブ油より強い不乾性油で
す。高価ですが,味が淡白で色,香り共に美しくパリッと揚がります。
 
△榧カヤ油
 カヤの実から採った油で,リノール酸を70%含み弱い乾性油です。軽くパリッと揚がりますが,
味に渋味が残るので他の味の良い油と混ぜて使います。
 
【油の上手な使い方】
 
〈油の選択法〉
 どのような天麩羅を揚げたいかによって,選ぶ油の種類が異なります。
 まず,江戸前風の風味の強い天麩羅を揚げたいときは,濃い色のごま油を選んで下さ
い。ただし,ごま油は他の油に比べて高価なので,一般にはあまり多量には使えません。
 また濃色のごま油だけで揚げた天麩羅では,ソフトな風味を重視する最近の嗜好には合い
にくいです。このようなときは,ごま油と風味の淡い油(例えばサラダ油,大豆油,コーン
油,綿実油など)とをブレンドすると良いでしょう。ごま油は30%程加えるだけで,可成
り本格的な天麩羅の香りになりますので,これを目安にして是非試してみて下さい。
 ブレンドした油なら,癖のあるアナゴなどを揚げても,美味しい天麩羅になりますし,
淡白な天種テンダネでも香ばしい揚げ上がりになります。
 また香りの面では,落花生油を使いますと,ごま油より軽く違った風味の,香ばしい
天麩羅ができます。落花生油で揚げるとき,香りが気になる場合はごま油のときと同様,
他の油とブレンドすると良いでしょう。
 一方,素材の味を活かしながらアッサリ揚げたいときは,油の選択の幅は可成り広くなり
ます。これには,色の付いたごま油以外ならどの油でも合います。
 油の持ちの良さの面からでは,太白ごま油が最も優れています。然し太白ごま油単品
では,専門店でも高級クラスでないと採算が合わない位高価なので,現実的には太白1
種類を使うことはないでしょう。
 一般的には,サラダ油が最もポピュラーで使いやすいと云えます。少し風味を出したいとき
には,他の大豆油やコーン油を始めとする油を使うと良い。
 単一の油で揚げても良いが,専門店などでは「味噌と同じで,風味に深みが出るから
」と云って2種類以上の油をブレンドして使っています。
 
〈油の量〉
 油は使う量の多少により,天麩羅の味に違いが出ます。味の良い天麩羅を揚げるには,
タップリの油が必要です。
 温度に関しては,一般に天麩羅は高温で短時間で揚げると,味良く仕上がります。鍋
の油の温度は,天種を油に入れると一時的に下がりますが,油の量を多くしておきます
と,この油温の低下が緩やかとなります。従って,タップリの油を使って油温の低下を少な
くする程,天麩羅は味良く揚げられるのです。
 また,油があまり少ないと天麩羅の味を損ないます。少ない油では衣の上部が油の表
面から出てしまい,火の通りが均一になりません。しかも天種が鍋底にくっ付いたりし
ますと,その部分が焦げ付いてしまいます。
 ただ必要以上に油が多くても良くありません。鍋の深さの4分の3の量が適量です。
 鍋は底が平たいものが最適で,中華鍋のように鍋底が丸いものは天麩羅調理には向き
ません。
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