05 竹文化〈竹文化〉
 
              竹文化〈竹文化〉
 
〈祭られる竹〉
 △神の依代ヨリシロ
 かつて天照大神が天の岩戸に閉じ篭られましたとき,八百万の神々の代表として天鈿
女命アメノウズメノミコトが天の香具山カグヤマに生える笹葉をとって舞い踊られ,その楽しさの騒
ぎに誘われてついに岩屋から大神をお連れ出すことに成功しました。これが神楽の始ま
りです。神楽を舞うときの「ささ・ささ」というかけ声を神楽声ササゴエと呼び,万葉集
には神の枕詞に神楽浪ササナミというところからみますと斎小竹イワウササ,すなわち笹を神聖
なものと考えた証左とみることができます。笹は神の言を人に伝える呪力を持つものと
して,巫女が笹の枝を持ち,村里に現れて神楽を演じたのが能楽,舞楽の始まりになっ
たといわれています。
 このように笹は神の依代ヨリシロとして,一番神がのりうつりやすく,悪魔を追い払おう
として何千年後の今日まで神聖なものとして地位を守り続けています。例えば地鎮祭で
は,祓所の四方に斎竹イミタケを立て,注連縄シメナワで張り渡し,不浄を防ぎます。
 近畿地方の新盆の家では,新葉をつけた4本の竹を軒下に組み,中程に青竹か笹葉で
小屋を組いで位牌をお祭りします,霊魂の昇天のためのアラタナ行事があります。
 中国地方から北陸での頭屋カシラヤの神宿では,1年生のマダケかハチクの青竹の先に御
幣や神符をつけてお祭りする頭屋神事が行われています。
 豊年を祈願する田植祭りでは,皇太神宮の竹取神事や,田んぼの水口に笹を立てて神
々に祈る神事,1年生の青竹に新苗を立てて清めたり,神田に立てて穢れるものの触れ
ることを禁じる神事,笹を畑に立てて野菜の虫除けする神事などがあります。
 四国石槌山のイシヅチザサで無病息災や作物の防虫の祈願,七夕には青竹に願いごと
の短冊をつけたり,お正月には松とともにマダケを門口に並べて立てて新春の寿ぎと無
病息災の祈願などもあります。
 竹をご神体とする笹神様や竹神様,竹箭をご神体とする矢祭神社,箆宮ヘラノミヤ神社な
どがあります。神社の境内に熊笹の神事,又は湯立てがあります。青竹に注連縄を張っ
た中で神事が進みますと,大釜に沸かした熱湯に神主又は巫女が熊笹の小枝を束ねたも
のを入れて,その湯だまを軽快な囃にあわせて,参詣人の善男善女に振りかけます。そ
の湯がかかった人はその年は無病息災で過ごせるといわれています。
 秋田県仙北郡のマタギの留守家族は,無事と豊猟を祈って,「コヤマダケ ネザサ 
サネノタマリミズ ワガミニサンド アブランケン ハカ」と唱え,笹葉を水に浸して
体にかけて清める笹垢離ササゴリをします。愛知県では笹垢離をすると,灯火による火災
を免れると伝えられています。
 このほか前述の笹舟信仰などもあります。
 
 △清涼殿の竹(呉竹と河竹)
 兼好法師の「徒然草」に,”呉竹クレタケは葉細く,河竹カワタケは葉広し,御溝ミカワに近き
は河竹,仁寿殿の方によりて植えられたるは呉竹なり。”とあります。
 この河竹は,御溝竹ミカワタケの前略で,この竹はいつまでも竹の皮を落とさないところ
から皮竹から派生した名前で,メダケのことです。
 現在の呉竹はホテイチクですが,これは中国渡来のものでその後に植え替えられたも
のです。当時は筍を貴重とし,また観賞価値からハチクであるとは明白です。
 
〈文化財として〉
 △竹紙
 正倉院文書などに竹幕紙チクバクシが使われています。これを再現してみました結果では,
マダケなどの皮の下部の軟らかく白い部分を漉いて作りますと,黄色で染紙ソメガミのよ
うに仕上がります。
 
 △物差作り
 兵庫県氷上ヒカミ郡山南町は物差しの産地です。マダケの直径8p以上の3〜4年生の
ものを使用することになっていましたが,最近ではモウソウチクが使われています。
 
 △うちわと竹
 団扇ウチワは,始めは各神社の神官の内職に作られた高位高官の使用するものでした。
江戸時代以後からは庶民も使用するようになり,香川丸亀で主に作られています。マダ
ケの青竹を用い,骨は32本と決まっています。
 扇は滋賀県安曇アド川町が有名です。団扇は寒伐り,竹稈の下の方1〜2mのところを
使いますので高くつきますが,扇は薄く剥ぎますので伐る時期を問わず,稈も細いとこ
ろまで使えます。
 
 △名作―柄杓
 茶の湯のときの柄杓ヒシャクは,マダケの稈を用います。通常,湯を汲み入れるために柄
がついていますが,その繋ぎ目を合ゴウといいます。ここが一番力の入るところですの
で,竹材の最も硬いところへ柄を挿入することとなります。この一番硬いところは芽の
ある位置(芽溝部)になり,竹筒の内側を見ますとかすかに上から下へ突きだした線が
ありますので,その部分に柄を取り付けます。
 
 △麻雀碑パイ
 麻雀碑の裏打ちしてある竹は,無施肥のマダケ薮から4〜5年生の太い傷のないもの
を冬期に伐り出します。モウソウチクは2級品で,かつ音が冴えないです。
[次へ進んで下さい]