11 水辺に想いを寄せて〈水草の世界〉
水辺に想いを寄せて〈水草の世界〉
水草と水槽,水槽の中で人々に憩いを与える水草に
ついて,緑書房発行「水草の世界」の掲載記事を参考
にさせていただきました。 SYSOP
〈水草の仲間(水生植物)とは〉
全体又は一部が水中にあって生育する植物,さらに湿地に生育するものを含み,これら
を水生植物と呼んでいます。これらの幅広い生育形態の水生植物は次のグループに分け
られています。
△浮遊性植物
ホテイアオイ,ウォーターレタス等のように植物体が水面に浮かび,水底に根を定着
させずに,漂って生育するもの
△浮葉性植物
スイレンのように,根は水底の泥土に定着し,葉を水面に浮かべ生育するもの
△沈水性植物
アナカリス(オオカナダモ)やフサモ(ホーンワート)のように,常に全植物体が完
全に沈んでいるもの
△抽水性植物
クワイ,オモダカ等のように,植物体の半分が水中に残り,半分が空中に出て生育す
るもの
△湿地性植物
ハナショウブ,セキショウ(アコルス)等のように陸上植物と同様の生え方をし,湿
地を好んで生育するもの
〈水草の適応性〉
前述のように水生植物には,さまざまな生活形態がありますが,ここで扱う水生植物
は,いわゆる水草として室内のガラス水槽等の容器の水で魚類や他の生物と共に育てる
ことが主たる目的です。
だからといって沈水性植物のみに栽培対象が限られているかといえばそうではありま
せん。水草の特性として,殆どのものが本来の生育環境以外の条件にも適応し,仮の姿
(空中葉から沈水葉に変化するようなこと)に変化して生育し得る能力を持っています。
例えばアマゾンソードプラントは,その沈水葉の美しさはよく知られています。しか
し,水深の浅い野外では巨大な抽水型植物となり,極端な場合は,湿地状の環境にもよ
く生育します。また抽水性や浮葉性の植物も環境の変化に伴い,沈水葉をつくり長期間,
水面下においても生活し,繁殖さえ行うものもあります。つまり殆どの水性植物は,前
述の生活形態の枠をはみ出し,他の領域の条件下においても,我々の思いもかけぬよう
な形に変化し適応し得るものです。そのためその植物が本来,浮葉,抽水,沈水のどの
型に属するものであるかを判別することは大変困難な場合が多いです。その判別の学問
的論議は学者の先生方におまかせして,我々はこの水草の仲間の,それぞれの持つ適応
性を,如何に我々のアクアリウムやテラリウムに活用するかを,読者と一緒に考えなが
ら水草栽培を楽しんでいきたいと思います。従ってここで取り扱う水草は沈水型から湿
地まで全てにわたることになります。
〈水草栽培の目的と効用〉
水草栽培の目的は,水草自体の美しさを求めることは勿論のこと,その繁茂するなか
で可愛く美しい魚類や他の水棲生物を自然に近い形で飼育し,植物と水棲生物との調和
を楽しむことであると思います。しかし,もう一つの重要なことは,その外観的条件づ
くりばかりではなく,飼育される魚類や水棲生物の生理的条件を満たすため,水草作り
はぜひ必要だということです。
つまりよく活着した水草は,明るい光の下では,光合成を行い、二酸化炭素を吸収し,
酸素を放出します。これは水中の酸素を吸収して生活している水棲生物たちに対して,
最も重要な恩恵を与えていることになります。また水草は,魚の残餌や,排泄物による
水の汚濁の原因となる要素を肥料として吸収し,酸性に移行しようとする水質を,良好
な状態に保ち続けていきます。つまり殆どの水棲生物の健康生活のための良い条件を作
り,これを保持していく役割を果たす訳です。このようなことから水草栽培と観賞魚を
始めとして,その他の水棲生物飼育は,同一水槽内で行われるのが最良であると考えて
います。そしてこの両者が同一水槽内で互いに生々として自己を主張するのを見るとき,
始めて我々の心にも真の安らぎが得られるものと信じています。
〈水草と条件(水温,光,水質)〉
野外で見る水草の大半は,芦(ヨシ)などの他の植物群の陰にある場合が多いです。
1日のうち,ある一部の時間帯だけ直射日光を受け,あとは間接的な日射を受けるとこ
ろの水草は,日焼けもなく苔類にも害されず,美しい緑を繁栄させています。この事実
が教えることは,水草類は,短時間の直射日光と日陰の明るさの程度を好むということ
です。長時間の直射日光はは,夏期の場合,水草類の好んで生える沼や池のような,浅
く水の移動の緩慢なところの水温を極度に急上昇させてしまうことがままあります。極
端な場合,夜間との温度差は15℃〜20℃以上に及ぶことがあり,その中で生育する水草
には堪えられない条件となってしまいます。このことから水草が日陰を好むというのは,
水温はやや低目でいつも安定し,日射も植物体に苔を定着させない程度の条件というこ
とになります。このようなことを基に我々の室内水槽内での水草栽培を考えてみると,
以下のようなことが挙げられます。
△水温の急変について
熱帯魚用保温器具(サーモスタットやヒーター)によりコントロールできます。また
盛夏期の水温過上昇については直射日光を受けないところに設置する等の配慮により,
これを防ぐことができます(適温18℃〜28℃)。
△光の問題について
設置場所を選定するほか,自然光線を受ける量また時間の長さを遮へい物により調節
することが可能です。
人工光線の場合は容器の大きさ,深さにより光源の大小また移動により光の強弱を調
節し,苔が植物体に寄着せず,水草の光合成の可能な条件を作り出すことができます。
具体的にいえば,60p×35p×30pの水槽では,昼光色の蛍光灯20Wを概ね満水の水面
上約7pくらいから1日約8時間以上照射すれば,18℃〜28℃の水温の中では殆どの水
草は生育することができます。
この場合水深や水の汚濁状況による透明度の問題は,水草の生育に大きな影響を及ぼ
すことになります。蓋等の曇りや,水面に繁茂しすぎた浮草などが,上部からの光線を
妨げ,水槽に付着した苔類が側面からの光を遮ることがあります。このほかいくら水草
が水を清潔にする働きを行うといっても魚の数量が容器の持つ収容能力を遥かに超える
場合,又は投餌量が多過ぎる場合の残餌や排泄物による水の汚濁は,限られた水草の力
ではどうすることもできないばかりか,汚濁水は光を浸透させず水草の光合成を阻止し
て水草を弱らせます。最悪の場合は水草を枯死さしめ,遂には魚類までも死滅させる結
果ともなります。そのような不幸を招かぬよう飼育魚数や給餌量の点にも注意しなけれ
ばなりません。
△水質について
塩素を消滅させた水道水,飲料に供することのできる地下水ならばよいです。pHは
6.5〜7.2位の水であれば問題はありません。そして殆どのものは軟水を好みます。つま
り熱帯魚や金魚が健康な状態で,旺盛な活動をしている水ならば一応良い筈です。この
ように我々は水草が好む環境をいつでも充分に作る手段を持っていますので細心の配慮
によって,それらの要求を満たしてやらなければなりません。
[次へ進んで下さい]