11a 水辺に想いを寄せて〈水草の世界〉
 
〈水草の光合成と呼吸作用〉
 ここで水草の光合成,呼吸作用と魚の関係につき,心配されがちな点について触れて
おきましょう。夜間消灯してアクアリウムやテラリウムが一斉に休眠状態に入ると,暗
闇の中で水草群は光合成(炭酸同化作用)を止め,逆に呼吸作用(魚と同様酸素を呼吸
して二酸化炭素を排出します)を行うため,水中の余剰酸素が急激に減少し魚を窒息死
させるのではないかといことです。魚の多過ぎる屋外の養殖池で植物性プランクトンが
濃密に発生している場合,現実にこの問題は起こり悲惨な結果を生むことがあります。
しかし我々の水槽ではグリーンウォーターとなる程の濃密な植物性プランクトンは考え
られません。なぜならは我々は魚を観賞することのできない程のグリーンウォーターは
嫌って,水替えや光や餌のコントロールを行いそれが発生しない環境を作るからです。
しかも水槽に植える水草などの量はいかに多くとも過密なグリーンウォーターの量には
及びません。澄んだ水に水草を植え,適度の数の魚を飼育し,エアーレーションを続け
ておれば水槽の水には絶えず空気中の酸素が溶け込んでいきます。その間魚たちも休眠
しますので,酸素の消費量は極めて少なく,翌朝,水草が再び光を得て光合成を開始す
るまでの酸素は,充分に残存する筈です。従って我々は安心して水草栽培を行ってよい
訳であるばかりか,水草が生々として生育できる条件の中でこそ,魚たちの生活条件も
また充分に備えられている筈です。
                                                                              
〈水草とエアーレーション(又はフィルティング)〉
 水草を植える水は,絶えず清くなければならないのは前述のとおりですが,そのため
に強く水を撹拌しない程度のフィルティング(濾過作用)は必要です。また自然界では,
降雨,流水等により自然に水の循環,交換が行われて水草の生育条件を作っているので
す。この自然での適当な水の移動を人工的に行うのがエアーポンプや揚水ポンプ等によ
るエアーレーションやフィルティングなのです。これは魚や水草にとってはぜひ必要な
条件の一つです。しかし注意すべきは過度なフィルティングにより折角の程良い栄養水
(栄養分を含んだ水)をダメにしたり,強すぎるエアーレーションで,水草が光合成に
必要な適度の二酸化炭素をその水中から追い出してしまわないことです。つまり自然が
常に持っているバランスを崩さないようにしなければなりません。
                                                                              
〈水草を害するもの〉
 水草の健全な生育を害するものは意外に多いです。そしてそのすべてを挙げれば,水
草作りは難し過ぎて愛好家の意欲を消失させる結果ともなりかねない程です。しかし水
草はそんな幾多の障害を乗り越えて生育していく力強さをも秘めているのです。それは
我々人間の生活にも似ています。それでもやはり注意は怠らず,水草の害となる因子は
できるだけ排除する必要があります。ここでは紙面の都合上,我々が日頃水草のために
してやることのできる事項のうち特に大切なものを選んで列記しました。
 △薬品による害
 ・水道水の場合:水道水に残存する消毒剤(塩素)は水草の新芽を侵しますので,必
ずカルキ抜き(ハイポと呼ばれるチオ硫酸ナトリウム)で中和させるか,2,3日汲み
置きして塩素を消滅させた水を使用しますと良いでしょう。
 ・魚病薬の場合:魚の病気の際,投与する薬剤の中に水草を枯死させるものを含んで
いる場合があります。使用量によっても差異はありますが,その魚病薬に付された注意
書をよく読んで使用して下さい。また病質や程度によりやむを得ず水草を害する薬品を
使用する場合は,あらかじめ水草を他の水槽に移してから投薬して下さい。水草にも付
着しているかも知れない病原菌は希薄な薬用水に浸した後,別水草に隔離し,魚病快復
後,正常な水に取り替えた元の水槽に帰してやるような注意が必要です。なお,水草を
害しないように配慮された魚病薬もありますので,販売店でよく尋ねて下さい。
 △草食性の魚類,エビ及び貝類
 これらは意外に大きな害敵となります。折角高価な水草を植えても,一夜のうちにエ
ビや貝類のため美しい緑の葉が喰い荒らされていたり,草食性の魚により大切な新芽が
台無しにされた例は数えきれません。エビ類は一部の種類を除いて殆ど水草を好んで食
べ,美しいレッドラムズホーン等の貝類も柔らかい水草を喰い荒らします。これらへの
対策としては,エビ類や草食性の魚を飼育する中にはそれらの餌とする目的でなければ
水草を植えないこと,また貝類の駆除は薬品では水草までも枯死させる虞れもあります
ので,見つけ次第他の容器に隔離するか,捕殺するしかありません。駆除の例としては,
水を濁さない位の小さな魚肉片(ダシジャコ,身欠きニシン)を入れ,一夜置いて,貝
類がこれに集まったところを引き上げて捕らえる方法もあります。フグは貝類を好んで
食します。
 なお,水草を食べる魚類には,シルバーバルブ,テフィッシュ,クラウンバルブ,メ
チニス,ミロソーマ,レポリナス類などがあり,またプレコストマスは口の吸引力によ
り水草の組織を破壊します。
 それにアストロやフラミンゴシクリッド等の大型になるシクリッド科の魚は,砂を掘
り移動させるので水草も同時に掘り起こされてしまいます。またドジョウやウナギの仲
間は砂に潜り水草の根を動かして生育を妨げます。このようなことは魚を求める際,販
売店の方によく尋ねておくことが大切です。
 △アブラ虫(アリマキ)による害
 空中葉や浮葉又は長い葉が水面に浮かぶような状態になっている場合,よくアブラ虫
が無数に着き,葉の養分を吸って組織を破壊し,美しい水草を醜くしてしまう場合があ
ります。この場合も飼育生物に害を及ぼすため薬品による駆除はできませんので,一時
的に水位を上げ,浮葉を水面下に沈めて,浮遊するアブラ虫を手網ですくい捕るかチリ
紙に吸着させて捕らえます。
 △このほか水草の生育を害するもの
 過度な高低水温,急激な水温の変化,著しい水質の変化(pH),光の不足,水の汚濁
と悪化,苔類の寄着,砂の不足,魚の過密収容,根にイトメが多くまつわりつく場合,
砂の甚だしい汚れとそれに伴うメタンガス等の発生増大,過剰塩分などが挙げられます。
強すぎるエアーレーション又は過度なフィルティングは水草の葉茎を絶えず揺すぶり活
着度を悪くさせたり,葉茎を痛めるおそれもあります。また前述してように水草が光合
成に必要な水中の二酸化炭素を無くしてしまうおそれもあります。
                                                                              
〈水草栽培に必要な器具〉
 その水草の特性,観賞目的等により異なりますが,ここにいう水草は室内栽培を目的
としていますので,そのために必要な器具を列記してみましょう。
 @透明なガラス製・アクリル(合成樹脂)製水槽
 A水盤,手水鉢,ポリバケツ,ポリ洗面器,金魚鉢(ガラス),室内用金魚池,植木
  鉢等
 B証明器具,昼光色蛍光灯,植物生育用蛍光灯(昼光色よりもワット数の大きなもの
  )
 Cエアーポンプ(水の適度な浄化と移動,光の入射を妨げる被膜の発生を防止するた
  めのエアーレーションを行う目的)
 D大磯砂,南国砂,川砂,山砂,粘土(鉢植えの場合水草によっては砂の下部層に入
  れます)
 Eピンセット(小型水草の植え込み,又は施肥用),ハサミ(枯葉の除去用)
 F苔取り器具,ガラスの側面に付いた苔を除去するもの
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