04 陸水散歩〈湖の場所・型・生物群集〉
 
         陸水散歩〈湖の場所・型・生物群集〉
 
〈湖の生物群集〉
 △湖の区分
 湖は,湖という入れ物の中に盛られた,沖である水の部分(水体)と,入れ物の底に
あたる湖底から成り立ちます。湖底は,岸に近く浅い沿岸部と,そこから湖の中心部に
向かった深い深底部の二つの部分に分けられます。
 沿岸部は,根のある緑色高等植物が生えている境のところまでで,水温の成層が認め
られる深い湖では,躍層の上部の表水層,深底部は躍層の下端から深い部分の底全部と
いうことになります。亜沿岸部を区別するとしますと,ちょうど躍層部の狭い面積の底
ということになります。
 △沖の生物群集
 湖の水体に棲む生物は,遊泳生物(ネクトン)と浮遊生物(プランクトン)に分けら
れます。前者は魚や昆虫のように水中を自由に運動できる大型の動物,後者は自分では
ほとんど遊泳する能力がなく,水の動くままに浮遊する生物で植物にも動物にも仲間が
あります。プランクトンにはクラゲのような大形のものもあります。小形のプランクト
ンと,生命のない微粒状の物質(プランクトンや水草の遺骸の形のくずれた小片,岩や
石の細粉,土壌の粒子など)を合わせてセストンと呼ぶことがあります。これは水に溶
けず,濾紙でこせば残留します。
 △プランクトン
 プランクトンには棲んでいる水域によって,海洋性,気水性,淡水性があり,種類も
異なります。
 プランクトンとして淡水に出現する植物は藻類が主で,ラン藻,珪藻,緑藻が多く,
動物では原生動物,ワムシ類(輪形動物),ミジンコ類(枝角類),ケンミジンコ類(
橈脚類)が主です。
 @プランクトンは一般に身体が水中に浮きやすい構造になっています。身体の表面か
ら細長い突起を出しているもの(ツノオビムシ),細胞の中に油滴や空気を含むものが
あります。春から夏にかけてプランクトンが大発生しますと,濃い色の膜(多くは緑色
)でできますが,これは水の華といって,海の赤潮と似た現象です。水の華をつくる藻
類(コナランソウ,ジュズモ科のアナバエナ,アファニゾメノンなど)にはラン藻類が
多く,珪藻のメロシラ(イトケイソウ),アステリオネラ(ホシガタケイソウ)なども
あります。
 A湖水のプランクトンは顕著な垂直分布を示します。これは主に夏の停滞期に起こる
現象で,表水層,変水層,深水層によってプランクトンの種類と量が違います。水の華
は細胞の比重によりますが,他の場合は水のPH,水温,酸素,窒素,燐酸などが,水
深によって異なりますので違った分布をします。またフサカの幼虫は夜間に水表へ,ミ
ジンコ類は昼夜又は一日の時刻によって集まる深さが違います。
 B湖水のプランクトンは季節によって出現する種類と量が違います。諏訪湖の例をご
紹介します。
 植物プランクトンでは,4〜6月は珪藻のイトケイソウ,ホシガタケイソウ,ハリケ
イソウで水は黄褐色,6月にはクンショウモが加わります。7〜9月はアオコ,ジュズ
モのアナバエナで水は黄緑色,9月はこれらのラン藻にクンショウモが混じります。10
〜11月はイトケイソウなど春と同じです。12〜3月はイトケイソウが主です。
 動物プランクトンでは,秋〜冬〜春は貧弱ですが,夏は原生動物のツボカブリ,ツリ
ガネムシ,ツノオビムシ,エダワカレツリガネムシ,ワムシのナガミツウデワムシ,ハ
ネウデワムシ,枝角類のゾウミジンコ,オナガミジンコなどが繁殖します。
 △ネクトン
 水中を自由に泳ぐ動物で,主に魚類です。魚類は沿岸部に多いです。
 △ベントス
 川や湖の水底に生活する動植物をベントス(底生生物)と呼びます。多くは底の基盤
(岩石,礫,土,泥)に付着生活を営みます。沿岸部の岩石の間には淡水海綿,カワニ
ナ,ヨコエビ,ドロムシ,カゲロウ,カワゲラなどの幼虫が見られます。底が泥の場合
の沿岸部にはヨシ,マコモ,コウホネなどの植物,動物では普通,タニシ,モノアラガ
イ,カラスガイ,トンボの幼虫などが見られます。浮遊植物ではヒルムシロ,ヒツジグ
サ,ヒシ,深いところでは沈水植物のクロモ,フサモ,セキショウモ,イバラモ,ヤナ
ギモ,ササバモ,シャジクモが生えています。沈水植物帯には貝類,甲殻類,稚魚など
が多いです。深底部の動物は種類は限られていますが個体数が非常に多く,イトミミズ,
ユスリカ幼虫,フサカの幼虫などがいます。
                                                                              
〈湖低堆積物〉
 △底泥を調べると湖の歴史が分かる
 湖の底には,湖が誕生したときの岩や玉石などの表面に,川や湖辺からの流れ込んだ
砂利,砂,粘土,ゴミあるいは湖内で生産されたプランクトン,水草,魚や貝などの遺
体が沈んで堆積した底土の層があります。これら構造の違った層の積み重ねを層理(バ
ルブ)といい,これによって樹木の年輪のように地層の年齢を推定したり,過去の生物
群集の繁栄の変遷を知ることができます。
 △底泥中の有機物の分解
 プランクトンや水草の死骸は湖底に沈みますと,大形のものは魚貝類によってまず形
が崩され,次に微生物によって分解し,その量が多いときは軟泥(ヘドロ)になります。
しかし植物の繊維質やリグニンは微生物に対して抵抗力が強く,完全に分解して無機化
するには数十年を要するといわれています。
 △底泥の成分
 貧栄養湖の底土には有機物も窒素も燐酸も乏しいですが,富栄養湖ではこれらの成分
が大量に貯蔵されています。珪藻の増殖が盛んな湖では,死骸の殻片が多量に底泥中に
含まれますが,このような底泥を骸泥と呼びます。
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