16 そのまた小さなコドモ達〈菌類の種類/子のう菌綱〉
 
       そのまた小さなコドモ達〈菌類の種類/子のう菌綱〉
 
〈子のう菌亜門〉
 子のう菌類の特徴は,
 @細胞の核の融合と減数分裂とが行われる細胞としての子のう(嚢)を持つこと。
 A子のうの中に通常8個の子のう胞子をつくること。
です。子のう菌には,子のうが1膜性の種類と2膜性の種類があり,子実体(子のう果
ともいいます)をつくるグループとつくらないグループとがあります。子実体をつくる
グループでは,子実体の構造の上で,いくつかの型が区別されます。これらの特徴によ
って子のう菌の分類が行われます。
 △半子のう菌綱
 この綱の菌類は,子のう果及び造のう(嚢)糸をつくりません。コウボ菌の多くは,
この菌のエンドモセス目サッカロミセス科に分類されます。また,サクラの木で異常に
多く枝分かれした子枝がよく見られます。これは半子のう菌綱,タフリナ目,タフリナ
科のサクラのてんぐ巣菌綱の寄生による病気です。
 △不整子のう菌綱
 この綱の菌類の子のう果は,閉子のう殻と呼ばれる開口部のない中空の小さな球状の
組織です。その中空の部分に造のう糸と子のうができます。子のうは1膜性です。この
綱には,子のう果が閉子のう殻である菌類をとりあえず集めています。というのが実状
で,類縁関係のよく分かっていない種類がかなりあります。多くは植物体に着生します
が,土壌からも沢山分離できます。
 この綱の菌類には,アオカビやコウジカビの完全時代のユーロチウム目ユーロチウム
科があります。また,植物の葉などに寄生して,白い粉がふいたようなウドンコ病の病
斑をつくるウドンコカビ(ウドンコ目ウドンコ科)や,植物の葉が煤ススを被ったように
なるスス病菌(ウドンコ目スス病菌科)もこの綱の病菌です。
 △核菌綱
 子のう果は子のう核(被子器ヒシキともいいます)と呼ばれる中空のツボで,開口部が
あります。開口部は突出している種類が多いです。子のう核は1o足らずの大きさです
が,子座シザ組織が発達して10pに及ぶ棍棒コンボウ状のキノコをつくる種類もあります。
子座の外形は棍棒状のほかに,平板状,半球状,球状などさまざまです。子のうは1膜
性です。種類の大変多い綱で,目や科の設け方について決定的な説はまだありません。
 近年は,子のう殻の中の子のう果中心体の構造や発生の様式を重視して分類が行われ
るようになってきました。 子のう果中心体とは,具体的に子のうや側糸ソクシや側糸状
物や分裂組織,あるいは造のう糸などのまとまりのことです。この綱の菌類は,植物病
菌以外はあまり研究されていません。この綱の多くの菌は,植物体に寄生又は腐生しま
すが,他の菌類や地衣類,昆虫,動物の糞などにも付きます。遺伝学の研究として有名
なアカバンカビ(タマカビ目ソルダリア科ノイロスポラ属)や,近年シイタケの病害菌
として問題になっていますボタンタケ属及びその不完全型のトリコデルマ(肉座菌目肉
座菌科)あるいは昆虫や地中生チチュウセイ菌のツチダンゴなどから生える冬虫夏草トウチュウカソウ
(バッカク菌目バッカク菌科ノムシタケ属)などがこの綱の菌類です。
 △盤菌綱
 子のう果は,大半の種類では円板状や茶碗状の子のう盤です。子のうは1膜性で子の
う盤上に裸生します。この綱も種類の大変多いグループです。わが国の分類学的研究は
立ち遅れています。地衣類を菌類の分類体系に組み入れて扱う研究者もいますが,その
場合,大半の地衣類が盤菌綱に入ります。この綱の菌類には,さまざまの植物に菌核病
を起こすキンカク菌属(ビョウタケ目キンカクキン科),鮮やかな黄橙色で直径1〜5
pの子のう盤を山道の縁などに群生するヒイロチャワンタケ(チャワンタケ目チャワン
タケ科)などがあります。また,この綱には茶碗状や円板状でない子座をつくる変わり
者も含まれています。フランスで食菌として珍重されますアミガサタケ(チャワンタケ
目アミガサタケ科)やターファス(セイヨウショウロ目テルフェジア科)などもその例
です。そのほか,オーストラリアや南米パタゴニアのナンキョクブナに寄生するキッタ
リア属の菌もこの綱のビョウタケ目の菌として扱われています。
 △ラブルベニア綱
 子のう果は子のう殻状で,子のうは1膜性です。菌糸を長く伸ばす種類は見つかって
いません。形態的にかなり特殊化したグループで,ほかの子のう菌類との類縁関係はよ
く分かっていません。昆虫やダニに外部寄生しています。培養に成功した例もなく,生
活史はせとんど分かっていません。
 この菌を採集するには,まず昆虫類やダニを採集し,実体顕微鏡で昆虫やダニの体の
外側をよく視て,付着している菌を見つけます。この菌がよく付着している寄生昆虫は,
甲虫類のゴミムシ,ゴミムシダマシ,ハネカクシなどです。
 △小房子のう菌綱(2膜性子のう菌綱)
 子のうは2膜性です。子のう果は,子のう子座(小房ともいいます)と呼ばれる子の
う殻に似た組織です。子のう果中心体はさまざまのパターンに区別でき,それらのパタ
ーンに基づいてこの綱の菌類の目や科が分けられています。子のう子座は,核菌類の子
座と相同の器官とみなされ,子のう殻と似てはいますが子のう殻とは別起源の組織と考
えられています。しかし,子のう殻を持ち,しかも2膜性子のうを持つ種類があるとい
う報告が少しずつですがですが出はじめており,一方で子のう子座と1膜性子のうを持
つ菌類もあるという報告が出はじめましたので,核菌類と2膜性子のうとの分類学的な
関係はこれからの重要な研究テーマです。さらに,子実体を持たない2膜性子のう菌が
見つかっても不思議ではないと考えております。
 この綱の分類学的研究の歴史は浅く,核菌類をはじめほかの子のう菌類との類縁関係
はよく分かっていません。また,綱の中の分類にも定説はありません。
 この綱の菌の多くは,植物寄生菌及び腐生菌です。植物体にいくらか潜り込んで,小
型の黒っぽい斑点状の子のう子座をつくる種類が多いです。なかには,大型の子のう子
座をつくる種類もあり,その場合には子のうができる中空部分(小房)が子座の中に沢
山できます。この綱の菌の一つに,日本や中国に産するタケノアカダンゴ病菌(シライ
キン)があります。マダケなどの小枝に寄生して,直径2p,長さ3pぐらいの肉色の
子のう子座をつくります。
 
               参考 「キノコ・カビの生態と観察」築地書館発行

[次へ進む] [バック]