14a そのまた小さなコドモ達〈菌類の働き〉
 
〈その他の特徴〉
 △ヘテロタリズムとホモタリズム
 生物学辞典では,ヘテロタリズムのことを異株性,ホモタリズムのことを同株性と訳
してあります。似た言葉に雌雄異株,雌雄同株がありますが,この言葉は顕花植物やシ
ダ・コケ(シダ・コケの場合は,顕花植物の場合と意味内容が少々異なります)のモノ
エシズム,ジオエシズムの訳語です。顕花植物では,単性花をつける植物のうちで,イ
チョウやソテツのように,雌花と雄花を別の個体に生じる場合を雌雄異株と呼びます。
また,単性花をつける植物で,カボチャやキュウリのように,雌花と雄花が同一個体上
に生じる場合を雌雄同株と呼びます。これらの用語は,単花性をつける植物だけに用い
られ,両性花をつける植物で,自家不和合性などが認められても,雌雄異株としては扱
いません。
 ところで,菌類におけるホモタリズムとは,一つの胞子から伸びた菌糸の枝同士の間
で有性生殖が行われ,接合子をつくることができる場合をいいます。
 これに対して,ヘテロタリズムとは,雌雄に相当する別個体の菌株の間でなければ有
性生殖が行われない場合をいいます。これにはさまざまなタイプが含められ,顕花植物
における雌雄異株の用い方とはかなり異なっています。ヘテロタリズムの1型は,形態
的にもはっきりと雌株・雄株が区別できる場合です。もう一つの形は,不和合性が関与
する場合です。一つの胞子から伸びた同一菌糸上に雌雄性の生殖器官ができても,自家
不和合性のために,ほかの菌株との間でなければ有性生殖が行われない場合もヘテロタ
リズムとして取り扱われます。さらに,分化した雌雄性の生殖器官が無くても,菌糸間
に不和合性や和合性が認められる場合も,ヘテロタリズムの1型です。この場合を特に
生理的ヘテロタリズムともいいます。
 
 4極性の場合の和合・不和合因子の組み合わせ
 
  遺伝子 AB Ab  aB   ab       −は不和合,+は和合
  AB   −  −  −  +
  Ab   −  −  +  −
   aB   −  +  −  −
   ab   +  −  −  −
 
 担子菌の中には,不和合性・和合性に関与する遺伝子が1対だけでなく,2対あるい
はそれ以上認められる場合があります。例えば,和合性の遺伝因子としてAaという対
があり,AAやaaの組み合わせになる個体間では不和合であるとすれば,この菌は2極
性であるといいます。和合性の因子として,AaのほかにさらにBbという遺伝因子があ
る場合を考えてみましょう。減数分裂の結果できる遺伝因子の組み合わせはAB,aB,
Ab,abとなり,これらの因子間の組み合わせのうち,AaBbとなる場合だけが和合性
で,その他は不和合性になります。このような性質を持つ菌を4極性であるといいます。
4極性の菌は,四つの性を持っているのと同じです。このような性質は菌類以外ではあ
まり知られておりません。
 △パラセクシュアリティ
 パラセクシュアル・サイクルの訳語として,準有性生活環という言葉が用いられます。
したがって,パラセクシュアリティの訳語としては,準有性遺伝子組み換え法がよいで
しょう。菌類で発見され,現在盛んに研究されている遺伝の仕組みです。コウジカビや
完全時代のみられないフザリウム(フザリウム,オキシスポルム)などは,有性生殖の
際の減類分類のときでなくても,遺伝形質の組み替えを行う機構を持っています。この
ことをパラセクシュアリティといいます。その機構に次のとおりです。
 @和合性の遺伝子型の異なる菌糸が接合して,核が混じり合い,1個の細胞の中に二
  つの核が入った異核接合体(単相2核性菌糸)になります。
 A上記@でてきた複雑性の単相2核性菌糸の中で,ごく少数であるが複相核がつくら
  れます。
 B単相核及び複相核の増加が複雑性菌糸の中で起こります。
 C異核接合によっててきている複相核の有糸分裂が行われます。有糸分裂の4分染色
  体期(4-strand stage)に染色体の交叉が行われます。
 D上記4で染色体の交叉を行った複相核の単相化が起こります。単相化は,複相核で
  2n-1,2n-2のような染色体数の少ない核が,染色体数nになって安定するまで染色
  体を失う結果によるといわれます。
 このような準有性遺伝子組み替え法によって,減数分裂の際に行われるのと同様の遺
伝子の組み替えが行われることになります。有性生殖の際の減数分裂で行われる染色体
の交叉では,組み替えられる遺伝形質の量も多く,しかも交叉した染色体は事故がない
限り,安定した単相の核に含まれます。これに対して,準有性遺伝子組み替え法では,
ごく一部の遺伝子の組み替えしか行われない場合が多く,その上に,単相2核の複相1
核化及び遺伝子の組み替え後の複相核の単相化は,偶然に起こることになりますので,
このような遺伝子の組み替えの起こる度数は極めて少ないとされています。
 この現象はまだ十分に解明されていませんが,菌類によくみられる特殊な遺伝現象と
して注目されています。最も,菌類だけにしかみられない現象とはいえません。例えば,
ショウジョウバエでも有糸分裂のときに遺伝子の組み替えが起こるという報告が既にあ
ります。
 
               参考 「キノコ・カビの生態と観察」築地書館発行

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