12 そのまた小さなコドモ達〈生物界での菌類の位置づけ〉
そのまた小さなコドモ達〈生物界での菌類の位置づけ〉
〈生物界での菌類の位置づけ〉
キノコ・カビ・コウボは,それぞれ外見がひどく異なるのに,なぜ菌類としてまとめ
られるのでしょうか。また,外見や,物質分解を行う点で菌類とかなり似た生物と思わ
れる変形菌や細菌(放線菌を含む)は,菌類と合わせて微生物と呼ばれることがありま
すが,どうして菌類と区別されるのでしょうか。ここで,これらの生物の分類のことを
説明しておきましょう。
生物は植物と動物とに大別できます。というのが普通に教わる生物の分類法です。植
物には運動器官がなく,光合成(自養)を行う種類が多く,細胞には細胞膜の外側に細
胞壁があります。一方,動物には運動器官があり,捕食型の他養で,細胞には細胞膜し
かありません。このような特徴で,植物と動物は一応区別できますが,例外も多いです。
例外的な生物としてよく知られているのは,葉緑体を持っていて,しかも運動し捕食す
るミドリムシ(ユーグレナ)や,変わった生活史を持つ変形菌などです。変形菌には,
アメーバ細胞になって動き回り,バクテリアを食べる時代があります。そのアメーバ細
胞が集合してキノコやカビのような体をつくり,胞子をつくります。そして,その胞子
から再びアメーバがはい出してくる,という生活史を持った生物界きっての変わり物で
す。これらの例のように,生物は単純に植物か動物かに分けることはできません。
菌類や細菌はかつて植物として扱われることが多かったですが,緑色植物と違ったと
ころが有り過ぎます。そこで,今日では,以下に説明しますような考え方に従って生物
を分類し直した学者がおり,その分類法は大変合理的であると一般に認められ始めてい
ます。まず,生物は進化してきましたが,その進化のもとになった生物を辿って行けば,
その生物は動物とも植物ともいえない原始的な生物であったにちがいありません,と考
えましょう。そのような原始生物は,多細胞の複雑な組織をつくるような生物ではなく,
細胞の1個1個が独立した生物個体であったでしょう。そしてまた,細胞の中も,核や
ミトコンドリアのような部分が十分には分化していない原始的な状態であったに違いあ
りません。
以上のような,細胞の中の分化発達の程度や,多細胞の個体の組織の発達の程度など
に基づいて,さらに光合成を行うか,他養であるか,動物的他養であるかをも考慮して
生物を分類することができます。生物はまず,細胞を持たない原始的な生命形態から細
胞型の生物へと発達してきたと考えられています。細胞型の生物は当初は,はっきりと
分化した核やミトコンドリアなどを持っていなかったに違いありません。すなわち,細
胞内の核が膜に包まれて,ほかの原形質成分と区別されている生物は,核膜がなく,核
の成分がほかの原形質成分と混じり合っているような生物よりも進化していると考える
ことができます。この特徴は生物の分類にとって大切な性質と考えられます。核に相当
する成分があっても核膜のない生物を原核ゲンカク生物(無核生物ともいいます)と呼び,
この仲間にはラン藻や細菌があります。
ウイルスは生物でないと考えている人もいますが,生物として扱うときは,原核生物
に入れます。これに対して核膜を持った生物を真核生物(有核生物ともいいます)と呼
びます。真核生物は,1個の細胞で独立して生活できる単細胞生物と,細胞が集まって
組織をつくり,1個体の生物として生活する多細胞生物とに区別されます。真核単細胞
生物には,アメーバのような動物的な生物,光合成を行う緑色植物型の生物,及び植物
的な体の造りを持ち,物質分解・還元を行う菌類型の生物があります。これらの生物は,
ミドリムシや変形菌のような中間的な性質を持った生物たちで互いに結び付けられては
いますが,光合成植物,他養植物(菌類)及び動物の3大生物群の方向への分化が認め
られます。そして,それぞれの生物群の中で独立して多細胞生物への進化の道を辿って
きたと考えられます。
以上のような生物の特徴を捉え,それに基づいて分類を行うと,菌類は真核生物で,
単細胞生物から多細胞生物までを含み,植物的な体の造りを持っていますが,ほかの生
物の体や生産有機物の分解によって生活エネルギーを得ている生物の1群(分類群とも
いいます)です,ということができます。これに対して,変形菌は真核生物で,単細胞
生物から多細胞生物につながる微妙な位置にある生物です。そして,この生物は菌類に
かなり類縁が近いようにみえますが,捕食を行うアメーバ時代を持つ点で菌類とはっき
り区別されます。
また,細菌類は原核生物である点で菌類とは全く別の生物です。細菌類の中には,有
機物の分解によって生活エネルギーを獲得する種類だけでなく,ある種の光合成を行っ
たり,無機物の化学反応を利用して生活エネルギーを獲得する種類もあることが知られ
ています。これらのことから判断して,細菌類は,原核生物のレベルでさまざまの分化
を遂げた生物の一群であるといってよいでしょう。
参考 「キノコ・カビの生態と観察」築地書館発行
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