05 森の中の可愛いコビト軍団〈毒キノコ〉
 
          森の中の可愛いコビト軍団〈毒キノコ〉
 
〈毒キノコの注意〉
 キノコ狩りの趣味は食生活に大きく寄与し,自然対話の野外活動にも計り知れない未
知に対する感動が得られ,良いことづくめの感がありますが,一方で毒タケの誤食で起
こす中毒があり,これだけは未然に防止しなければなりません。不思議なことにこの原
因となる毒タケは,わずか4〜5種類,しかも天下衆知の毒タケ(ツキヨタケ,カキシ
メジ,カサウラベニタケほか)によって,同じ村や地域で繰り返し発生することです。
これは,科学的にキノコの性質や名称を覚えることにより,先祖伝来の迷信を信用して
いる証拠であり,この誤った考え方を捨てない限り,これからも痛ましいキノコ中毒が
あとを絶たないことになります。
 
〈自殺行為にも等しい誤った食・毒タケの鑑別法〉
 まずはじめに食・毒タケを見分ける法,これは夢物語で,現在も将来も開発の可能性
もなく,個体識別ただ一つということを認識したいです。
 △縦に裂けるキノコは食べられる・・・・・・事実はむしろ逆
 猛毒のドクササゴ,コレラタケ,ニガクリタケ,ツキヨタケなどは,いずれも傘と柄
がよく裂けます。反対に裂けない食タケも多いです。
 △毒タケは美しく,食タケは地味な色をしている・・・・・・これも反対
 致命的な猛毒菌であるタマゴテングタケ,シロタマゴテングタケ,ドクツルタケ,コ
レラタケ,ニセクロハツなど,いずれも地味な色彩の持ち主です。
 △毒タケは匂いが悪く,食タケは匂いが良い・・・・・・まったく根拠のない迷信
 シイタケ,マツタケ,マツオウジ,マツバハノタケなどを除き,一般の人が良い匂い
と感じるのは菌臭のことで,これは冬虫夏草を除くすべてのキノコに共通して存在し,
この菌臭の強いものが良い匂いと評されます。したがって,ツキヨタケなどの知名な毒
タケにもそれぞれ同じ菌臭があります。例外はカキシメジで,これは一種の不快臭を発
します。また食タケで悪い匂いの持ち主に,スッポンタケとキヌガサタケがあります。
 △虫が食べていれば毒タケでない証拠で人が食べても大丈夫・・・・・・これは自然界を無
  視した盲者
 「蓼タデ食う虫も好きずき」の諺コトワザがありますが,家バエの幼虫(ウジ)の食性を
引き合いに出すまでもありませんが,人間に応用できる説明とはなりません。ツキヨタ
ケやテングタケを喫食するナメクジや,多くの毒タケに集中するトビムンやショウジョ
ウバエの現実を直視したいものです。
 
〈料理法で毒を消すことができるという迷信〉
 △ナスと煮れば毒タケでも無毒となるから大丈夫・・・・・・この迷信は根づよく各地に定
  着している
 「秋ナスは嫁に食わすな」の譬タトエもあるように,この時季のナスは身がしまり,当
然山の幸,季節の贈り物でもあります。キノコ料理には活用されるでありましょう。し
かし中毒は現実に発生します。複雑なキノコの有毒成分を,もしナスが神通力?で消す
ことができるのなら,とうの昔,ナスは野菜から高貴薬に格上げされていたことでしょ
う。
 △毒タケでも油でいためれば毒が消える,又は毒タケだけが溶けてしきう・・・・・・恐る
  べき迷信
 
〈中毒の症状と応急処置〉
 毒タケには神経系統に症状が現れるものと,消化器官に作用するものと二つに分けら
れ,前者はおおむね一過性で,時間の経過とともに消化排泄されて回復しますが,恐い
のは後者で,種類により軽毒性,猛毒性の違いはあるものの,共通的に試食した際,中
毒の前駆症状(前触れ)が現れます。この初期の段階で適切な処置を採れば,仮にその
毒タケが致命的に猛毒菌であったとしても比較的軽い経過で治療することができること
をぜひ知っていただきたいのです。まず内容的にノーマルな食事では,食後,胃の存在
など意識の外にあるもので,時間の経過とともに,次第に軽快となり,やがて空腹を感
じて次の食事に移行するものが普通です。しかしもしこれが,誤って毒タケを食べた場
合,キノコの種類や食べた量,年齢,性別などにより,時間にずれはあるものの,共通
して食後10〜30分と時間の経過に伴い胃の部分に重苦しさを感じるようになり,やがて,
はっきりしたかたちでむかつき状態となります。これが前駆症状で,順序として最初は
軽い胃のもたれ程度に感じたものが,次の段階では胃圧あるいは胃の膨満感となり,こ
のような前触れに次いで,毒タケ本来の毒性や強弱による症状が現れるのです。嘔吐,
下痢,腹痛,悪寒,視力障害,脈拍異常,うわ言,脱水症状,体温の降下,けいれん,
チアノーゼ(青色症),意識不明,呼吸困難などに陥ります。なお症状の現れる時間は,
キノコの種類,食量,個人差など,同じ家族の場合でもそれぞれ異なりますが,食後3
〜7時間(前駆症状は含みません)が普通とされます。しかし猛毒のテングタケ類では
30分という症例があります。そこで遅くても食後10〜15時間内には発病するものと考え
たいです。したがって,この時間の関門を無事越えたときは,キノコ中毒の疑いから解
放されたことになります。ただしこれは,あくまでも消化器系の毒タケの場合で,神経
毒のドクササゴでは通用しません。このドクササゴでは食後数日から1週間も経過して
から発病するといった症例がいくつも報告されています。
 △中毒溶きの応急処置
 キノコ料理を食べたあと,前述したような胃のむかつき(前駆症状)を自覚しました
ら,迷うことなく毒キノコによる中毒と断定を下し,一刻も早く指先を口中深く(喉
ノド仏の部分)差し込み,食べたものを全部吐き出すよう全力を尽くし,これを何回と
なく繰り返します。この処置は食後時間が早いほど効果的であり,迷ったり,自信過剰
はこの際絶対禁物です。まずこのような応急処置を採った上で医師の診察を受けるよう
に徹底したいものです。ここで特に念を押したい点は,食べたものが時間の経過ととも
に消化吸収の順序で腸に送られ,有毒成分が体内に吸収されてしまってからでは遅いの
です。食べた内容物の全量を吐き出すのは腸に送られる前,すなわち胃の段階で手を打
つ必要があります。また自分の意志で操作できない幼児の場合は,周囲の者が手早く処
置してやることです。キノコ中毒とは自分で採り,自家料理が原因とは限りません。招
かれて他人の判断による料理を口にすることもありますので注意したいものです。そし
て消化器毒では前触れと呼ばれるむかつきの前駆症状があり,この時点で適切な応急処
置を採れば,中毒禍を最小限に抑えることができるということをぜひ一般に徹底したい
ものです。
 
              参考 「きのこ 見分け方 食べ方」家の光協会発行

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