21a 岩石(地層)に生える苔とその友達〈コケ〉
 
〈コケ類の生態的特徴〉
 昔から「コケ類は日陰地の湿ったところに生える植物」と言われてきました。事実,
このようなところを好んで生えますが,多くの種類が,直射日光の当たるようなところ
(当然このようなところは乾きやすいです)に生えます。ヒジキゴケ,クロカワキゴケ,
ハマキゴケその他がこのような種類です。
 ヒカリゴケなどは,逆に光がごくわずかしか来ないようなところにしか生えません。
 水分は,コケの体の表面から大部分のものが取り込まれます。したがって,コケ類の
生えるところは空気中の湿度が高いところということになります。南日本から熱帯など
に行くと,森林の中に,ところ構わず,樹の幹,枝,葉の上など,いっぱいにコケ類が
生えていて,うっそうとした密林のようになっているところがあります。コケ林と呼ば
れていますが,このようなところは年中雨が多く,空中湿度も高くなっています。
 コケ類は地球上,砂漠と海中以外にはほとんどどこにでも見られます。南極大陸にも,
ヒマラヤにも生えています。富士山の頂上にも多くのコケ類が生えています。このよう
に,湿度の低い地方でも生える一方,熱帯にも多くの種類が見られます。大体,気温が
20〜25℃ぐらいで,空中湿度が60〜80%ぐらいの,直射日光の当たらないようなところ
は,コケ類にとって最も適したところといえます。コケ林はこのようなところに発達し
ます。
 コケ類は土の中から養分を吸収することがほとんどありません。自分の体の中で,空
気中から吸収した水分を使って光合成を行い,コケの体に必要とする養分を自分で造っ
ているわけです。土の中の養分は,ほんのわずかしか吸収しないので,岩の上とか樹の
幹など,他の植物が生えないようなところにも,コケ類は生えています。
 
〈コケ類の栽培〉
 春から夏にかけて,朝露や雨に濡れたコケ類の姿はまことに綺麗で,これにひかれて,
コケ栽培を試みることも多くみられます。コケ類を庭や鉢に植える方法には,次の方法
があります。
 1 蒔きゴケ法:前述しましたように,コケ類の体は,小さな断片からも再生して,
新しいコケの体をつくります。このメカニズムを利用したものです。
 コケの体を少し乾かし,手揉み又は小刀などで小さなみじん切りにし,これを土と混
ぜ合わせます。この土を敷き詰めておき,土の表面が乾かないように覆いを掛けておき
ますと,3ケ月ほどでコケが生えます。
 2 移植法:自然に生えているコケ類を掘り取ってきて,植え込みする方法です。移
植した後はコケが活着するまで,直射日光の当たらないように,また乾燥し過ぎないな
いようにします。
 なお,次の点に注意して下さい。
 @水分をやり過ぎないこと。コケが利用する大部分の水分は,空気中に水蒸気になっ
  ている水分です。土が少し湿った状態に保たれていればよく,細目の如露で,コケ
  の表面から潅水します。
 A直射日光を当て過ぎないこと。園芸に利用されるコケ類は大体が直射日光の当たる
  ようなところには生えない種類です。直射日光を避けるために,庭などでは木陰を
  つくります。
 B肥料をやり過ぎないこと。コケ類は養分を土の中からほとんど摂取しません。かえ
  ってコケに肥料をやると,コケが腐る原因になります。
 
〈コケ類の分類〉
 コケ類は世界中に約2万種類が知られており,わが国には約2千種が生えています。
 コケ類を分類する場合,最も重視されるものは胞子体のつくりです。次の三つに大別
されます。
 1 セン(蘚)類:胞子体には帽を持っていて,胞子嚢には蓋があるものがほとんど
です。また,原糸体がよく発達して,原糸体の上に二次的につくられる芽が大きくなっ
て,コケの体がつくられます。
 蘚類はさらにクロゴケ類,ミズゴケ類,マゴケ類の3群に分けられます。クロゴケ類
はわが国には2種しかなく,ミズゴケ類はわが国にミズゴケ科に50種ほどが知られてい
ます。蘚類のほとんどのものがマゴケです。
 2 タイ(苔)類:胞子体の柄が柔らかく,胞子嚢の上には帽がありません。胞子嚢
には蓋もなく,原糸体も発達してなく,原糸体の先に1〜数個の芽ができて,コケの体
に発達していきます。苔類の中には葉状体になるものと,茎葉体になるものがあります。
 茎葉体になるものはウロコゴケ類の仲間で,葉状体になるものはゼニゴケ類,フタマ
タゴケ類の二つがあります。種類の数は多くありません。
 3 ツノゴケ類:種類の数はごくわずかですが(世界中に100種内外しかありません
),棒状の胞子体をもつ特殊なグループです。植物は葉状体で,体の細胞の中には大き
な葉緑体が1個しかありません。苔類や蘚類では葉緑体が数十個,細胞の中に入ってい
ますので,ルーペで覗くとすぐ区別できます。
 
                   参考 「原色コケ・シダ」家の光協会発行

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