22 岩石(地層)に生える苔とその友達〈シダ〉
 
        岩石(地層)に生える苔とその友達〈シダ〉
 
〈シダとはどんな植物か〉
 普通に「シダ」といっている植物は学問上はシダ植物というグループの総称です。こ
のグループは大きくいって,次のような四つの仲間に分けられます。
 1 マツバラン類:マツバランがあり,シダ植物のなかでも最も原始的なものといわ
れます。
 2 ヒカゲノカズラ類:ヒカゲノカズラ,カタヒバなどがあり,この仲間は今から3
〜4億年昔の古生代という地質時代に地球上をおおっていた仲間で,今日見る大木のよ
うになっていました。
 3 トクサ類:スギナ,トクサがあり,古生代にはヒゲノカズラ類と同じく大木にな
っていました。
 4 シダ類:ワラビ,ゼンマイ,ベニシダなど,一般的に「シダ」と呼ばれる仲間で
す。
 上記1〜3の仲間は葉が小さく,中肋が1本通っているだけで,うろこ状になります
(又は葉がほとんどなくなっています)。この仲間のことを小葉類と呼び,4のシダ類
の,葉が大きく,葉脈が分かれている大葉類と区別しています。
 シダ植物はすべて胞子で殖えていきます。このことはコケ類と同じですが,植物体に
水分や養分の通路となる維管束がよく発達していて,茎,根が丈夫にできています。ま
た,シダ植物の体はコケ類の胞子体と同質のもので,コケ類では胞子体が大きくならな
いのに,シダ植物ではこの胞子体がよく発達しています。
 コケ類とシダ植物(以下本稿ではシダ類といいます)は,よくひとまとめにして造卵
器植物とも呼ばれます。このように,この二つの植物はよく似た植物群ですし,生えて
いるところも ,お互いによく似たところを好みます。空中湿度の高い,半日陰地や日
陰地に多く生えます。しかし,コケ類のようには寒い地方は好まず,暖かい地方に多く
の種類が見られます。
 
〈シダ類の体のつくり〉
 シダ類の体はすべて根,茎,葉の三つの部分からできていて,葉状体になるものはあ
りません。
 根は細く,植物体がごく若いときにはっきりしたものが見られますが,ある程度大き
くなったものには,茎のあちこちから出てくるものが(不定根といいます)あります。
サンショウモやアカウキクサのように,水に浮かぶものでは葉が変化して,根のような
形になったものがあります。
 シダ類の茎は横に這うものや,塊状になっているものなどがあり,特に根茎といわれ
ます。ヘゴやマルハチは茎が直立し,数mの高さになりますが,この場合は茎と呼ばれ
ていて,その表面に根が沢山出ます。
 葉は柄と葉身の部分に区別されます。シダ類の種類分けのときに最も大事な部分にな
ります。
 柄は根茎から出ますが,柄の表面にはうろこ状の鱗片や,種類によっては小さな毛が
見られます。鱗片の形,色,大きさなどはシダ類の種類によってだいたい決まっていて,
よい特徴になります。
 葉身はヘラシダやノキシノブなどのように1枚だけで分かれないもの(単葉といいま
す)と,1〜3回分かれるもの(羽状複葉といいます)があります。複葉といっても,
単に葉が深く切れ込んでいて,裂片がそれぞれ独立したものです。したがって,切れ込
みが弱いと複葉にならないこともあります。
 1回羽状複葉の場合,分かれてできた小さな葉のような部分を羽片といいます。2〜
3回羽状複葉の場合は,この羽片がさらに分かれることです。こうしてできた羽片を小
羽片といいます。
 シダ類の葉は裏側を見ると,さまざまな形をした小さな胞子嚢群が見られます。胞子
嚢群の形や,つく部位は種類によって決まっています。胞子嚢群は小さな,シャモジ形
をした胞子嚢(この中に胞子ができます)の集まりで,表面が包膜という薄い膜状のも
ので覆われています。
 
〈シダ類の一生と殖え方〉
 シダ類では胞子嚢の中に胞子ができます。胞子嚢の上のふくらんだ部分に細胞壁が厚
くなった環帯と呼ばれる部分があり,これが空気が乾燥すると縮んで,細胞壁の薄い口
辺細胞を引き破り,中から胞子をはじき出します。
 胞子は湿ったところに落ちると,しばらくして芽を出し,小さな原糸体が出ます。
この原糸体は発達して,やや心臓形をした前葉体と呼ばれる,小さな緑色の植物体にな
ります。前葉体は大きなもので直径1pぐらいです。前葉体の基部の方にはひげ根のよ
うな仮根(コケ類と同じです)が沢山出,根前葉体の腹側には,上の方に小さな造卵器,
下の方に球形をした造精器がつきます。すなわち前葉体は雌雄同株ということになりま
す。
 造精器は雄の精子をつくり,これが造卵器の中にある卵と一つになり授精します。こ
こでは有性生殖が行われているわけで,コケ類の植物体でみられると同じことになるわ
けです。
 授精した卵は大きくなって若いシダの植物体になります。1p前後の若いシダが生え
ているようなところをよく見ると,その根元に薄緑色をした前葉体が見られます。この
シダの芽が大きくなって,普通に見るシダ類の体がつくり上げられるのです。
 こうしてみますと,コケ類の植物体はシダの前葉体に相当し,コケ類の胞子体はシダ
類の植物体に相当する部分になっていることが分かります。
 シダ類は前述のように有性生殖とともに,栄養生殖で殖えていくものもあります。コ
モチシダの葉の表面には,ときどき沢山の無性芽がてきています。クモノスシダ,ヌリ
トラノシダなどでは,葉の先が地面に着いて,そこに葉をつくり,新しい植物体をつく
り出します。しかし,シダ類の場合にはコケ類にみられるようには頻繁にはこの栄養生
殖はありません。
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