12 太古の面影探索への誘い〈化石採集〉
 
          太古の面影探索への誘い〈化石採集〉
 
                   蒼林の下に眠る悠久の大地。その大地たる地
                  層を形成する因子の一つに化石があります。化
                  石もまた,大地の懐に抱かれて太古から眠り続
                  けているのです。
                   ときとして地層中で発見される化石に興味を
                  感じましたので,その採集ガイドについて,朝
                  倉書店発行「化石鑑定のガイド」を参考にして
                  記述してみました。         SYSOP
 
〈化石/はじめに〉
 化石というのは,大昔の生物の死骸や生活した跡が残ったもののことです。大昔に生
きていた生物が死んで,その残したものが海や湖などに積もり溜まった泥,砂,礫の中
に埋もれます。泥・砂・礫などは次々に堆積し,後に固まった地層となり,陸の上に持
ち上がります。そういう地層の中から掘り出された生物の遺物が化石です。
 化石ができるまでの間には短くても数千年,普通には1万年以上の月日が経っていま
す。我々の一生を仮に70年としてみると,一つの化石ができるまでにかかる時間は,少
なくとも人間の100人分か200人分の一生を繋ぎ合わせただけの時間がかかっているのが
通例です。それどころか,何億年も昔の化石も少なくありません。
 化石ができていく有り様を説明してみましょう。
 @大昔の海底の泥の中に首長竜の死体が横たわります。
 Aその上に砂や泥が次々と積もり,アンモナイトの死んだ殻も横たわります。
 Bさらに砂や泥が重なり積もって長い年月が経つうちに,砂は砂岩となり,泥は泥岩
  となります。死んだ動物や植物は化石となります。
 C地中で地層が褶曲シュウキョクを受けたりします。
 D地層が地上に現れて,川などで浸食を受けたりします。首長竜やアンモナイトの化
  石が,陸の上の崖や川岸などで発見されます。
 それでは一体,化石はどうしてできるのでしょうか? 生物の体の中で固いところ,
つまり骨や歯や,角・殻などは,固いため腐らずに残りやすいのでしょうか? なるほ
ど,そういえば,私たちがよく見る化石は,貝殻とか動物の歯や骨であることがしばし
ばです。しかし,もし固いということが化石のできるための第一義的な理由であるので
したら,よく例に引かれるように,地球の表面はいつも大昔に棲んでいて死んだ獣や鳥
の骨でいっぱいで,海底には貝殻が敷き詰められているということになりそうなもので
ありましょう。
 では,古生物の残したものの中を,鉱物や岩石で置き換える働きが重要なのでしょう
か? だが,化石のなかには,クラゲの化石とかイカの化石とか大昔の動物の這ったあ
となどの化石もあります。そりばかりか,体が軟らかくて,骨も殻も持っていない動物
ばかり出る時代の地層もあります。しかも,その時代は6億年も昔の時代なのです。こ
のように,特別の鉱物で置き替わってなくとも化石ができている例は沢山あります。
 そうしますと,化石ができるための最も大切な条件は,きっと,大昔のある時代には,
ある動物や植物が栄えていて,その生物の個体数がとても多かったので,その生物の化
石が沢山産出するということなのでしょう。
 化石は,古生物が生きていたときと同じところに埋まっているものは少なく,死骸が
水で運ばれる途中,礫や砂や泥と同じように,重さや大きさでふるい分けられ,積もり
やすいところに,多少なりともまとまって積もるものだといわれます。礫や砂や泥は,
普通礫層とか砂層とか泥というような地層として固まります。同様に,化石も化石ばか
り集まった化石層として発見されることが少なくありません。
 また,古生物の残したものが,壊れたり無くなったりしないで化石として残りやすく
なるためには,水底でも陸上でも,遺物が早く泥や砂で覆われてしまう必要がありまし
ょう。それから,化石はなにもカチンカチンの石になったものばかりではなく,シベリ
アで発見された氷漬けのマンモスや毛サイのようなものも含みます。
 次に,化石を勉強することの意味について考えてみましょう。今から300年ほど前に,
イタリアに住んでいたデンマーク生まれの学者ステノは,「次々に重なった地層では,
もともと下にあった地層は,上にある地層よりも古い時代にできたものだ」と言い出し
ました。これは,地質学の公理的原理とみなさる地層累重の法則です。もう一つの原理
があります。それは,「一つの地層には,その地層にだけしか産しないような化石が含
まれていて,その化石はそれより上の地層にも下の地層にも含まれていない」というの
です。化石による地層同定の法則です。今から170年ほど前のことです。イギリスの測
量技師ウイリアム・スミスは,ある日仕事の合間に集めた化石の整理をしていたとき,
たまたま,チェックする場所ではどこでも,地層ごとに独特の化石の書類を産している
ことに気がつきました。逆にいいますと,どの地層の露頭も,出ている化石の種類によ
って,同じ地層の続きかどうかをあてることができるのではないかと思いつかれました。
スミスは,友人の化石収集家リチャードソンを訪ね,リチャードソンの集めた沢山の化
石の産地をあててみせて,彼を驚かせました。リチャードソンは当時の主な地質家に手
紙を書いて,スミスの考えを宣伝しました。この考えは,やがて地質家の常識となって,
実際に地質家の野外調査で実証・活用されてきました。こいして化石を使って地層の時
代を決め対比する方法が重要なものとなりました。その後20〜30年間に多くの学者が地
層と化石を研究して,生物や環境が大きく変わったところで時代を区切っています。こ
れが地質時代の区分けです。
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