13 森林の土を掌に〈林野土壌図の作り方と利用法〉
 
       森林の土を掌に〈林野土壌図の作り方と利用法〉
 
〈林野土壌図とは〉
 △性格と種類
 土壌図は一般に地形図を基図とし,その上に土壌の分布の状態を色又は記号を用いて
表現したものです。
 林野土壌図は戦後大政博士によって林野土壌分類の基本が確立されてから,林業試験
場(現森林総合研究所)の技術指導のもとに全国的に作られてきました。
 土壌図は,林木の適地判定,成長予測など森林生産機能の面ばかりに限らず,最近で
は水資源のかん養,国土保全,森林レクリエーション,自然保護などの公益機能の評価
など,多方面にわたって利用されるようになっています。
 作成のし方によって,一般に縮尺,作成方法,図示単位などの違いによって区分され
ます。縮尺においては,5万分の1以上のものを大縮尺図,10万分の1以下のものを小
縮尺図と呼んでいます。作成方法では土壌調査に基づくものと,既存図を編集した編成
図や推定してつくる概査図のものがあります。図示単位の違いでは,土壌型を用いたも
の,土壌群を用いたもの,土壌統群(国土調査の土壌分類単位)を用いたものなどがあ
ります。
 △表現内容と表現方法
 林野土壌図において表現する事項を述べます。
 ・土壌の種類の表示:土壌の分布状態は土壌型・亜型の設色,細分を示す付加記号及
び土壌界線で表示します。
 ・土性の表示:土性は土性記号を用いて土壌界線内の読み取りやすい位置又は試孔点,
代表断面の右に表示します。
 ・土壌母材の表示:岩石記号,地質系統記号及び岩石地質界線を用いて表示します。
 ・地形区の表示:地形解析などにより区分された地形区は,地形区記号及び地形区界
線によって表示します。
  [M]  山地
  [H]  丘陵地
  [P]  山麓地
  [VM] 火山地
  [VH] 火山性丘陵地
  [VP] 火山性山麓地
  [VT] 火山性台地
  [T]  台地(段丘)
  [L]  低地
 ・森林立地区の表示:気候,地形,地質,植生及び土壌分布の特徴などによって区分
された森林立地区は立地区番号及び立地区界線で表示します。
 ・その他の表示:位置図,縮尺及び主要な地名などの表示には「国有林野森林図式」
を準用します。
 △図示単位
 図示単位は,単一の土壌名で定義されるのが普通ですが,2種類以上の土壌名で定義
されている場合(土壌複合区,土壌連合区及び土壌モザイク)もあります。
 △図示表現の規模と図解誤差
 土壌図は線(幅2o)で地表の土壌の分布状態を区画表示します。なお,図解誤差は
どのような地図にも存在しますし,特に小縮尺になるほど大きいです。
 △大縮尺土壌図
 地図上の最小図示幅であります2oは,縮尺5万分の1では100m,2.5万分の1では
50m,5千分の1では10mの実幅を有します。
 △小縮尺土壌図
 小縮尺土壌図は大面積の林地をカバーしてその地域の林野土壌分布の概況を表す目的
で作られます。基図には特別な場合を除いて,国土地理院発行の20万分の1地勢図及び
50万分の1地方図などの編集図が用いられます。
 △土壌図説明書
 土壌図説明書は土壌図に表現された土壌の特徴,分布状態などを補足説明します。
 a 調査区域の概況:位置,面積,気候,地質,地形
  b 調査及び分析の方法
  c 土壌の種類と性質:各種の土壌断面形態の特徴,理化学的性質,成因
  d 土壌の分布状況
  e 土壌と林木の成長,更新及び侵触との関係
  f 施業に対する意見
 
〈土壌図の作り方〉
 △準備作業
 ・作業計画の作成:一定期間内に各作業を進めるために作成されます。
 ・調査用具の準備:森林基本図,国土基本図,事業図,各種地形図,空中写真,野帳,
標準土色帳,クリノメーター,高度計,山鍬・シャベル,採土円筒,ポリ袋,移植ゴテ,
せん定バサミ,拡大鏡,包丁,折尺,カメラ,筆記用具など
 ・既存資料などによる情報の収集:@気象,地質,植生土壌などに関する既存資料,
A空中写真B地形解析などの情報収集と情報整理
 △現地作業
 ・概況調査:@主な尾根筋,水系あるいは経路に沿った土壌,植生など,A試孔によ
る土壌断面調査,B試孔による土壌型の決定,C土壌型の境界踏査など
 ・精密調査:@土壌界線の決定,図化のための分布調査,A代表断面の調査と試料採
取,B代表断面付近における環境条件の調査
 ・聞き取り調査:気象要素,地すべり,山崩れ及び土地利用の沿革などを現地で裏づ
け聞き取り調査
 △分析作業
 採取した土壌試料は速やかに実験室に送り,分析を行います。
 分析結果は,土壌の種類,土壌断面,植生及び林木の生育状況などとの関係を検討す
るとともに,既存の土壌分析データと対比してみる必要があります。
 △整理作業
 現地作業で素描きした土壌図の浄書と土壌説明書のとりまとめをします。
 
〈土壌図の利用法〉
 △大縮尺土壌図の利用法
 ・造林適地判定,収穫予想への利用:大縮尺土壌図に記載されている土壌型・亜型を
参考にすることとなります。
 ・森林立地区分への利用:森林立地区分は,森林地域を対象に自然条件が均質な区域
をくくり,各々の立地区の特徴を把握するとともに地域間相互の比較,評価を行いのに
用いられます。
 ・自然立地的土地分級への利用:自然立地因子である土壌,地質,地形要素及び植生
の状態などの組み合わせ結果から森林施業の種類が指定できます。
 △小縮尺土壌図の利用法
 ・縮尺20万分の1土地分類図の利用:林地における土壌生産力可能性を5地位級に区
分したり,全国土の土地利用可能性を8類地に分級したりして利用します。
 ・林地の重要度の評価・分級への利用:水源かん養,洪水防止,国土保全及びレクリ
エーションなど,林地におけるこれらの機能を正しく評価するために用います。
 △土壌図利用の将来
 コンピュータによる土壌データの総合的な管理利用方法としての土壌情報システムが
考えられます。
 土壌データの体系的な集積,検索及びデータ処理の手続きと操作などの機能をもつシ
ステムです。データ形式としては,ハードデータ(ポイントデータ)とマップデータが
あります。
             参考 「森林土壌の調べ方とその性質」林野弘済会発行

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