14 森林の土を掌に〈林木の成長と土壌との関係〉
森林の土を掌に〈林木の成長と土壌との関係〉
〈土壌条件と成長〉
△好ましい土壌
土の深いことは林木の成長にとっては好ましい条件ですが,林地では土壌層の深さだ
けが必ずしも成長の良否と関係するとはいえません。
林木の成長はA層がよく発達し,深くまで通気・透水性のよい土壌が優れています。
このような土壌は崖錐や山腹下部の適潤性,弱潤性土壌に見られます。すなわち,わが
国の山地では土壌中の水分は地形的な条件などの影響を受ける場合が多いです。
△根の動き
林木の根の重量は全樹体重量のおよそ20〜25%とされていて,地上部重量と密接な関
係を保って成長しており,土壌条件や樹種によって根の土壌中での垂直分布や形は異な
ります。
根は樹体を支えるとともに成長のために必要な養分・水分の吸収の器官であって,落
葉層,表層土,下層土のいずれの層にも発達し得ますが,特にA0層もしくは表層土に
多いです。根の養分吸収を助ける菌根は吸収根に共生し主として表層土に分布します。
養分や水分を吸収する役割を根が十分に果たすためには適度の水と空気,養分と固体部
分とが常に存在しているだけでなく,土壌中の水分量と空気量とがある均衡を保ってい
る必要があります。特にスギにように内生菌根を形成するものは酸素の供給を必要とす
るので土壌構造がよく発達していることが第一条件で,次いで水分と腐植が必要です。
水耕栽培による通気実験では,酸素の要求度合はカラマツ>アカマツ>ヒノキ>スギ
の順です。
スギの根が土壌深く十分に伸長すれば,アカマツに次いで乾燥に耐える性質が強いで
すが,深くまで根を伸ばせないときはヒノキより乾燥に弱いです。
〈土壌の性質と根の成長〉
△土壌の深さ
根の伸長できる深さを有効深度といいます。ヒノキは浅根性,スギは深根性です。B
層までの有効深度が十分にあって細根が発達しても,それ以下が礫層とか,堅密な固結
層とか,停滞水のカベ状な土層ですと根がそれ以上伸びれないので,林木の成長が良く
なる可能性は少ないです。
△土層の硬さ
火山山麓には火山から噴出した火山灰,火山砂礫で厚く覆われている広い緩傾斜地が
よく見受けられます。これらの堆積物は,硬い固結なもの,隙間の多い礫層,腐植に富
む湿潤な層などいろいろ性質の違うものがあります。スギなどの根は,固結な層がある
と伸長を妨げられて成長が悪いです。しかし,固結な層の下にいろいろな層が重なって
おり,あとから侵入したアカマツの根がいったん硬い層を突き抜けると,スギを追い越
して成長します。このような火山山麓では,水平に伸びる根は,二段に層をなして成長
します。
△土壌の湿りぐあい
BA,BB型土壌のような乾燥した土壌や,過湿なグライ層では根は表層付近に密に分
布します。適潤性土壌では根は深く分散して生育伸長します。
〈根の生育・活動に必要な条件〉
林木は,固体・水・空気(酸素)がなければ生育できません。
土壌中に固体・水・空気の体積割合%
土壌 層位 固体 水 空気
乾性土壌(BA,BB) A 26 22 52
B 32 30 38
適潤性土壌(BD,Blp) A 24 44 32
B 30 46 24
湿性土壌(BF,G) A 25 62 13
B 30 60 10
林木の根や土壌中の生物の呼吸によって発生する二酸化炭素の量は予想以上に多く,
1日1u当たり7gと推定した例があります。深さ50pまでの土壌に含まれている空気
量を1u当たり100〜150gとしますと,土壌中の空気と大気とのガス交換は非常に重要
です。通気の良い土壌とは土壌中の孔隙量の多いこと,その孔隙が水に満たされておら
ず外気とつながっていて通気性のよいことが重要です。
粘土の多い土壌でも腐植が混じった団粒状構造が発達しますと孔隙率が大きくなりま
す。孔隙率が大きくなれば当然に透水も良くなります。新鮮な有機物を与えるとミミズ
などの土壌動物はこれを速やかに分解して,団粒状構造を生成します。
〈土壌型と林木の成長〉
スギ,ヒノキは褐色森林土に広く造林され,その成長は土壌型に密接に関係していま
す。もっとも日本の土壌分類は土壌の乾湿の水分環境を基礎にして分類したものですか
ら,水湿を好むスギの成長は土壌型と密接な関係を示しやすいです。
代表的なスギ林業地において,その成長への関与について方位,土性・石礫,土層堅
密度,A層厚,地域,標高,地質,地形,傾斜,腐植含量,土壌型などの諸要因の偏相
関係数について推定しますと,土壌型が群を抜いて大きな影響力を持っていることが分
かります。
〈林木の成長とその予測〉
林木の成長への関与は土壌の良否が重要ですが,このほかにも気候(気温・降水量),
地形(標高・傾斜・方位),地質なども重要です。カラマツの例では,@土壌別A1層
厚,A有効深度,B腐植含量,C堆積様式・礫,D土壌構造,E標高,F方位,G傾斜
の8項目の要因について,それぞれをいくつかのカテゴリーに分け,点数範囲と偏相関
係数を計算して成長を予測するこどできます。
〈土壌生産力の地域性〉
土壌型とスギ,ヒノキの成長とは密接な関係があることから,将来のおおまかな成長
予測が可能です。しかし,同一土壌型でも地域によってスギなどの成長にかなりの差が
あります。これは母材に起因するものではなく,むしろ地域気候によるものと推測され
ます。
〈地位〉
主要造林樹種については地方ごとに林分収穫表が作られていて,成長の良否を判断す
る基準として,一等地,二等地,三等地もしくは上,中,下などの区分があります。こ
れを地位と呼び,その土地にそなわっている生産機能を示すための指標に使われていま
す。収穫表の地位は林齢と樹高成長を基準とし,樹高成長によって林地の生産力を評価
するものです。これは地域内の成長を比較するもので,この地位を相対地位といいます。
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