11a 森林の土を掌に〈土壌の理学的性質〉
 
〈土壌の個体部分〉
 △土壌粒子の粒径区分
 土壌の固体部分は細土,礫,根から成り立っています。土壌学では粒径2o以上の粒
子を礫,2o以下の粒子を細土として区分しています。細土はさらに細かく区分されま
す。
 
   国際法による土壌粒子の粒径区分
 
    礫        2o以上
    細土 砂 粗砂  0.2〜2.0
         細砂  0.02〜0.2
       微砂    0.002〜0.02
       粘土    0.002o以下
 
 これらの各粒子のなかで,砂及び微砂は母材の機械的な風化によって次第に細かく破
砕されて生成された破屑物が主体です。しかし,粘土はさらに化学的な風化作用が加わ
って二次的に生成された粘土鉱物(二次鉱物)と呼ばれる化合物です。
 粘土は砂や微砂と異なり,土壌中では腐植と結合して有機・無機コロイドを形成して
います。コロイドは微細な粒子のために,単位重量あたりの表面積が極めて大きく,そ
れによって生ずる表面活性によって,他の物質の吸着,膨潤,凝集など,砂や微砂では
みられない特性を有するために,土壌の物理的な機能に大きな役割を果たしています。
 
 △土性(機械的組成,粒径組成)
 土壌の機械的組成(粒径組成)は細土の鉱物部分を形成している砂,微砂及び粘土を
それぞれ重量%で示したものです。これらの機械的組成の相違による土壌の区分を土性
と呼んでいます。
 わが国の森林土壌の土性区分は次のとおりです。
 @重埴土,A軽埴土,B埴質壌土,C壌土,D微砂質壌土,E微砂質埴壌土,F微砂
質壌土,G砂質壌土,H砂質埴壌土,I砂質壌土,J壌質砂土,K砂土
 
 △土壌構造
 土壌の鉱質部分を構成している砂,微砂及び粘土は,それ以上分離できない最小の粒
子であり,これらは一時粒子と呼ばれます。実際の土壌では一時粒子が単独で存在する
場合(未熟土,砂丘など)は極めて少ないです。一般の土壌では一時粒子が互いに結び
ついて塊となっています。このような塊を二次粒子,又は団粒と呼びます。
 団粒の形成には,粘土などの無機コロイド,土壌有機物に由来する有機コロイド,土
壌動物の虫糞,土壌微生物の糸状菌,土壌の乾湿の繰り返し,凍結や融解などが関与し
ています。
 土壌の構造はこのような一時粒子及び二次粒子の配列の状態を示すものです。
 
〈土壌水(液相)〉
 △pF価
 土壌の水湿状態,すなわち湿り具合は同じ土壌であれば当然含水量に比例しますが,
異なった土壌では必ずしも関連性を示しません。例えば,土壌の含水率が30%の場合は,
砂質な土壌では湿った状態といえますが,埴質な土壌や腐植の多い土壌ではかなり乾い
た状態といえます。
 このような相違は各土壌の孔隙の状態が異なるために,水を保持する力が異なること
によるものです。したがって,土壌の水の状態や性質は土壌の孔隙が水を吸着保持する
力を基準にすると便利です。このために用いられる基準がPF価です。PF価は土壌の孔
隙が水を吸着保持している力の強さを水柱圧で表示したものです。
 
        PF価
 
  PF価  単位水柱高p  気圧概数
   1     10       0.01
  2     10^2      0.1
  3     10^3      1
  4     10^4      10
  5     10^5      10^2
  6     10^6      10^3
  7     10^7      10^4
 
 例えば,飽水した土壌(PF価0)に水柱圧100p(約0.1気圧)の張力(吸引圧)を
加えると,PF2.0以下の力で土壌の孔隙中に保持されている水は土壌から離脱します。
次に水柱圧1000p(約1気圧)の張力を加えると,PF2.0〜3.0の力で土壌に吸着され
ている水は離脱します。それぞれのPF価に対応する張力によって離脱する水を測定し
ますと,PF価と土壌の含水率,含水比,水分率との関係を知ることができます。
 
 △土壌水の区分とその性質
 土壌水に働く作用力に基づく土壌水の区分は次のとおりです。
 ・吸湿水:水蒸気で飽和している空気中に土壌を置いて平衡状態に達したときに,土
壌粒子の吸着力によって表面に吸着されている水で,その量は極めてわずかですので,
植物は利用できません。
 ・膨潤水:土壌粒子に含まれている膨潤性の物質によって土壌の水和・膨潤現象など
に伴って保持される水で,PF4.2〜5.5に相当し,植物は利用できません。
 ・毛管水:土壌の孔隙中で,いわゆる毛管孔隙と呼ばれる細かい孔隙中に,毛管張力
によって保持されている水で,PF1.8〜4.2に相当します。毛管水の一部は土壌の孔隙
内をいろいろな方向にゆるやかに移動します。植物は利用できますが,易効性と難効性
があります。
 ・重力水(非毛管水):土壌の粗大孔隙中に保持される水で,飽水後比較的短期間(
1〜2日)に主要な根系の分布域外に重力の作用によって流出する水です。PF0〜1.8
に相当し,植物は利用します。
 植物による吸収利用の面からみた土壌水の区分は次のとおりです。
 ・重力流去水:PF0から圃場容水量に相当するPF1.8までの水で,常時土壌中に存
在するものでなく,植物が利用し得る程度も低いので,有効水分には入れません。
 ・全有効水分:圃場容水量のPF1.8から永久萎凋イチョウ点のPF4.2までの水で,植物に
よる吸収の難易により次の二つに区分されます。
 ・易効性有効水分:圃場容水量のPH1.8から初期萎凋点のPF3.8までの水で,植物は
萎凋現象は見られません。
 難効性有効水分:初期萎凋点のPF3.8から永久萎凋点のPF4.2までの水で,植物は枯
死しませんが生育の低下は著しいです。
 非有効水分:PF4.2以上の水で,土壌に強く吸着されていますので,植物は吸収利用
できません。
 
 △土壌の水分恒数
 ・飽和容水量:最大容水量と同じで,土壌の保水力の目安となります。
 ・圃場容水量:多量の降雨ないし潅水によって,土壌が重力水を有する状態に達した
後に,重力水の下方への移動がほぼ終わった時の含水状態を示します。
 ・水分当量:多孔質のカップに飽水した土壌を入れて,重力の1000倍の遠心力を与え
て脱水した時に残存する含水量を含水比で表した価です。水分当量に対応する含水量は
PF2.7に相当します。
 ・萎凋点:土壌の水が植物による蒸散,又は地表面からの蒸発などによって次第に減
少していくと,ある時点から植物は水を吸収できなくなるために,膨圧を維持できなく
なって萎凋し始めます。植物の萎凋が始まったときの含水比を初期萎凋点,あるいは一
時萎凋点といいます。この時点で土壌に水を補給すれば,植物の根の吸水が行われて回
復します。しかし,さらに土壌の含水量の減少が進みますと,植物は土壌に水を補給さ
れても回復し得ない状態になります。このときの含水比を永久萎凋点といいます。初期
萎凋点はPF3.8,永久萎凋点はPF4.2です。
 ・吸湿係数:10%の硫酸上における蒸気圧(相対湿度は94.3%,25℃)の空気中に土
壌を置いて,平衡状態に達したときの吸湿水量を吸湿係数と呼んでいます。
                                      
 △土壌のpF価―水分曲線
 土壌の含水量とそれに対応するPF価との関係を求めたものがPF―水分曲線です。自
然状態における土壌のPF価―水分曲線は孔隙の形状によって影響されますが,同時に
孔隙の大きさは土壌構造と密接な関係を有しますので,土壌構造の相違によってそれぞ
れ特徴がみられます。その範囲はPF0〜2.7とされています。
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