09c 森林の土を掌に〈土壌微生物〉
 
 △根粒
 マメ科植物の根にリゾビウムと呼ばれる細菌が共生して,根粒をつくり,空中窒素を
固定することはよく知られています。農作物や草本性のマメ科植物だけでなく,森林に
あるアカシア類,ハギ類,クズ,ネムノキ,コマツナギなども根粒を持っています。こ
れらの植物は砂丘や河原,崩壊地,荒地など陽のよく当たる未熟土壌地帯に繁殖しやす
く,古くから土壌を肥やす肥料木草として利用されてきました。
 マメ科植物の根粒は一般に春にできて,秋には枯れます。土壌中にいるリゾビウムは
根毛から侵入し,側根の成長を促して根粒を作らせて繁殖します。根粒の頭はヘモグロ
ビンのために赤く,細胞のなかに入った細菌は小さな袋に入ったバクテロイドと呼ばれ
る状態になります。ヘモグロビンが関与する複雑な代謝系が働き,共生的な状態ではじ
めて空中窒素が固定されます。植物は細菌に光合成した炭水化物を与え,根粒からタン
パク質やアミノ酸を得ています。マメ科根粒の寄生特異性やその根粒形成条件及び窒素
固定のメカニズムはかなりよく知られており,マメ類の栽培種に根粒菌を接種するなど
の利用も図られています。
 非マメ科の根粒植物としてハンノキ,ヤマモモ,モクマオウ,ドクウツギ,ヤシャブ
シ,ナギ,ソテツ,イヌマキなどがあります。
                                                                             
 △外生菌根
 森林の樹木にとって大切なのは,かびやきのこの仲間が根に共生する菌根です。きの
こ類が樹木の細根について根を菌糸で覆い,表皮や皮層の細胞間隙に入って共生するの
を外生菌根といい,病原菌に類似した場合は擬根菌といいます。日本の天然林や二次林
のほとんどはきのこの豊富な森林,つまり外生菌根樹種林です。スギ,ヒノキの人工林
は内生菌根樹種林です。
                                                                             
             菌根菌と植物との対応
                                                                             
○マツタケが付く植物
 アカマツ,クロマツ,ハイマツ,ツガ,コメツガ,エゾマツ,アカエゾマツ
                                                                             
○アカマツに付く菌根菌
 マツタケ,マツタケモドキ,シロシメジ,カキシメジ,キシメジ,シメジ,キツネタ
 ケ,ウラムラサキ,アミタケ,ヌメリイグチ,チチアワタケ,クロアワタケ,オウギ
 タケ,クギタケ,ケロウジ,アオロウジ,ショウゲンジ,ヒメカムリタケ,ホウキタ
 ケ,テングタケ,ツチカブリ,キチチタケ,ハツタケ,ショウロなど
                                                                             
 △内生菌根
 根の表面には菌糸が少なく,菌鞘もなく,菌糸は植物の細胞のなかに入って消化吸収
されます。これを内生菌根といいます。細胞に入った菌糸がのう状や樹枝状に変形する
ものをVA菌根と呼びます。この菌根は接合菌類のエンドゴンという仲間によって作ら
れ,植物界に広く分布しています。
                                                                             
〈おわりに〉
 微生物の活動が定常的で高いほど,物質の分解と循環がスムースに進行し,土壌は肥
沃になり,植物もよく繁茂します。
 岩石が風化し,砂や粘土ができ,それが土壌となる過程にも多くの微生物が働いてい
ます。動植物のない状態でも独立栄養生活をする微生物が有機物を蓄積し,植物が育つ
ための地ならしをします。植物を殺して餌とする一方で共生して根を包み,養分を送り,
植物の成長を助けます。植物にも動物にも寄生,共生し,その体や排泄物を分解して無
機化します。物質循環の過程のなかで,炭素,リン,ミネラルのどれを取り上げてみて
も微生物が係わらない過程はないといえるほどです。微生物は分解者というだけでなく,
生産者であり,消費者でもあります。
                                                                             
             参考 「森林土壌の調べ方とその性質」林野弘済会発行

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