09a 森林の土を掌に〈土壌微生物〉
△気候と微生物
マクロ的には,微生物相は北半球と南半球とでは異なります。コスモポリタンと呼ば
れるものや,人によって運ばれたもの以外には南北に共通する種は少ないです。例えば
北半球では全般にきのこが多く,南半球には少なく,種も違っています。
北半球においても,熱帯や亜熱帯には根粒菌と根粒を作るマメ科植物が多く,きのこ
と細菌を作る針葉樹や広葉樹は暖温帯以北や亜熱帯の高地に分布し,また南半球には少
ないです。
△分布の規則性
森林土壌の微生物の分布には幾つかの規則性があります。一つは平面的な分布が不均
一になりがちなことです。これは微生物の餌となる木材や落葉,植物の根などの分布が
均一でないためです。植物の種類が多いとか,地形が凹凸であるとか,落葉の分布が不
均一な天然林やアカマツ林,広葉樹の二次林ではこの傾向があります。
森林土壌の微生物の垂直分布は規則的です。一般に有機物からなるA0層には微生物
が最も多く,なかでも分解が活発に進行しているF層では種類も多いです。A層の薄い
土壌では微生物の分布域も浅いです。また地形に応じて規則的に変化していきます。
アカマツ林のきのこは,尾根から谷にかけて種類が変化し,土壌微生物の分布も尾根と
谷とでは大きく異なります。
〈分解者としての微生物〉
地表に毎年落ちてくる落葉や落枝などの植物遺体や動物の遺骸がきれいに腐っていく
のは土壌微生物や土壌動物が絶えまなく働いているためです。砂漠の遺跡の材木が何千
年も腐らず残っているのは極度の乾燥で微生物が活動できないためであり,湖や湾の底
にヘドロがたまり,寒冷地に泥炭ができるのも微生物活動が低いためです。
△落葉の分解
植物の葉は芽を出したときから様々な微生物や動物に狙われます。葉は虫に食われ,
病原菌に殺され,消費されます。緑色植物は地球上に現れて以来絶えず病虫害の洗礼を
受けてきました。そのため,葉にはクチクラ層ができ,毛が生え,タンニンやフェノー
ル系物質のような微生物が嫌うものがたまり,幹には樹皮ができ,材は分解しにくい物
質でかためられてきました。
このようにもともと腐りにくいはずの植物の葉も成長が止まると,直ちに微生物の餌
食になります。地上の老化した葉や枝には細菌や子のう菌,担子菌などが付いて腐り始
めます。地表に落ちたときには,既に微生物による一次分解や物質の変化が起こってい
ます。
クロマツの葉の腐り方
1 木の上で菌が付いている ・・・・・・・・・・子のう菌(中に胞子ができる)
↓
2 地面に落ちる
↓
3 虫が食べる
↓
4 白色腐れになり,キノコが生える / 緑色腐れ
↓ ↓
5 ----------- ヤスデやダニが食べる -----------
↓
6 噛み砕かれた断片や糞にバクテリアやカビが付き,分解して土と混じってしまう。
落葉が分解されるには,低山地帯の落葉広葉樹や山地のブナ林などでは1.5〜2.0年,
亜高山帯のカンバ林の場合は3.0〜5.0年を要します。
△材の分解
木材の分解も多くの場合,樹木が立っている間に始まります。天然林では心材が腐朽
したものや立ち枯れした樹木が多く,林床には倒木や腐朽した根株,枝などが散在して
おり,多いときには地衣の30%以上を覆っています。
植物遺体の分解と菌のサクセッション
植物体 老化した組織 | 死んだ組織
分解段階 前段階 |第1段階 第2段階 第3段階
優占する 寄生性の弱い寄生菌 セルロースより セルロース分解 リグニン分解菌と
菌群 簡単な糖その他 菌とセルロース リグニン分解物な
の炭水化物をと の分解産物を利 どにつく菌。
る第1次寄生菌。 用する第2次腐
糖依存菌ともい 生菌。これも糖
う。 依存菌に入る。
(病気) (ソフトロット)(褐色腐朽) (白色腐朽)
材の分解はほとんど木材腐朽菌と呼ばれるきのこ菌,なかでもサルノコシカケの類に
よって進みます。風によって枝折れや昆虫その他の動物のかじり跡に,成長の速いかび
が付き,ソフトロットを起こします。このあとにきのこ胞子が入り,木材成分を分解し
ていきます。
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