09 森林の土を掌に〈土壌微生物〉
 
          森林の土を掌に〈土壌微生物〉
 
〈微生物の種類〉
 △細菌
 微生物のなかの最も大きいグループは下等原生生物の真正細菌類です。その体は単細
胞からできており,大きさは0.2〜2.0μです。
 細菌の繁殖力は強く,条件次第で細胞の形や性質を変えるものも多いです。土壌粒子
にくっつき,水の中や植物の根,動物体の中まで広くゆきわたっています。緑や紅の色
素を持った光合成細菌,セルロースを分解するもの,マメ科植物に根粒を作って空中窒
素を固定するものなどもあります。
 熱に強く,硫化水素や硫黄などをエネルギー源とする硫黄酸化細菌,2価鉄を酸化す
る鉄細菌,水素や一酸化炭素を利用する水素細菌など化学合成細菌も多いです。人間や
動物の病原菌やアルコール,乳酸,酢酸発酵をする細菌なども元は土から生まれた仲間
です。
 
 △放線菌
 抗生物質を作るので名高い放線菌は,細胞でつながっていて数珠状や螺旋状になる特
徴があります。寒天培地上では細菌に比べてコロニーが硬く,表面が粉をふいたように
なります。土壌にすむものが多く,有機物の少ない痩せた土や火山灰土,乾燥地などに
多いです。細菌と同じように有機物を分解する能力が高いです。
 
 △らん藻
 らん藻は細菌に近く,単細胞か糸状になります。運動性のあるものや胞子を作るもの
もあり,葉緑素などの色素を持っているので,青緑色のものが多いです。光合成能力が
あり,空中窒素を固定したり,化学合成能力を持つものもあります。森林の土壌や樹上
などにも多いことが知られています。
 
 △変形菌
 かびに近いといわれていますが,アメーバ状になる期間もあります。子実体を作ると
きに細胞が集合する現象は有名です。その働きはよく分かっていませんが,細胞や原生
動物を捕食するともいわれています。朽木の上にブラシのようなものができ,ゼリー状
の塊が見えたりすることもありますが,これが変形菌又は粘菌の子実体です。
 
 △糸状菌
 糸状菌は俗にかびと呼ばれ,きのこと同じ真菌類に属しています。土壌微生物のなか
で糸状菌と呼ばれるものは藻菌類と不完全菌類です。下等な糸状菌,藻菌類はべん毛の
付いた游走子を作るべん毛菌と接合胞子を作る接合菌とに分かれます。このグループの
菌は菌糸に隔膜がありません。べん毛菌類には水中や湿ったところを好むものが多いで
す。接合菌類のなかにはケカビやクモノスカビ,モルティエレラなどのように落葉や土
壌,動物の糞や果実などに付いて,分解しやすいものを栄養源として暮らすものが多い
です。動植物に寄生,共生するものもあり,総じて成長は速いです。
 落葉や土壌からよく分離されるものが不完全菌類です。このグループは完全世代が不
明なものをまとめただけで,その大部分は元来子のう菌であると考えられています。ペ
ニシリウムやアスペルギルス,トリコデルマなどの土壌菌もすべて不完全菌類に属して
います。
 藻菌類と違って,不完全菌や子のう菌の菌糸には隔膜があります。分生胞子や厚膜胞
子を作りやすく,繁殖力が高いです。炭素化合物を分解する力が一般に強く,植物遺体
の多い森林土壌にはいきおい糸状菌も多いです。
 落葉や落枝などを分解するのに大きな役割を果たしいてる子のう菌のグループがあり
ます。大きな子実体を作らず,ごま粒ほどの子のう核などを作るので,これはきのこと
いうよりむしろかびの仲間と考えた方がよいでしょう。
 
 △きのこ
 きのこ菌というのは子のう菌類の大形の子実体を作る仲間と担子菌類の大部分,いわ
ゆる高等菌類のことです。
 子のう菌の子実体はマメザヤタケのような棒状,ヒイロチャワンタケのような盃状,
アミガサタケのような変わった形など様々です。子のうの中に8個の胞子を作り,菌糸
には隔膜があります。子のう菌には子実体を作らないものも含めて,生態的役割の大き
いものが多いです。有機物を分解するだけでなく,イーストのように発酵にかかわるも
の,植物病原菌,菌根菌,動物の寄生菌などがあり,土壌中に暮らすものも多いです。
 担子菌類のなかにはきのこを作らないサビ菌などから,マツタケのような菌根菌,ツ
ガサルノコシカケのような木材腐朽菌まで数多くのものがあります。担子柄の上に4個
の胞子を作るものが多く,構造の発達した子実体を作ります。菌糸には隔膜があり,か
すがい連結を作るものが多いです。菌糸が子のう菌と同じようにアナストモーシスとい
う結合によってつながります。ナラタケの根状菌糸束にように発達した組織を作るもの
は,敵の多い土の中でも広がることができます。マツタケのように菌糸束を作らず成長
するものでは,多くの場合抗生物質や酸を出して自分の領域,すなわち「城」を守って
います。
 森林の中にはきのこ類が多く,難分解性のリグニンや,セルロースなどを分解してい
ます。また,林内では環境も安定しているので,きのこは多年性の城を作って暮らすこ
とができます。森林の土壌微生物社会を知るためにはきのこの存在を忘れてはなりませ
ん。
 
 △地衣類
 地衣類は子のう菌や担子菌などが藻類と共生してできた生物で,岩山にあるイワタケ
やハナゴケ,樹にぶらさがっているサルオガセなどがよく知られています。地衣類は酸
を出して岩石をとかし,風化を助けます。菌は養分や水を吸収し,藻類は光合成によっ
て菌を養うという完全な共生関係ができ上がっています。ツンドラや高山など極限気候
下での地衣類の働きは大きいです。
 
〈微生物の分布と微生物相〉
 微生物は,餌,温度や水,酸素,また季節や長期の季節変動などによって増殖,又は
消滅します。
 条件が悪化すると大量の繁殖体を作って分散しやすくするグループをコスモポリタン
と呼んでいます。特定の餌や共生相手を必要とし,一定のところに定住する性質の強い
ものを定住者と呼んでいます。
 
 △植物と微生物
 植物体は微生物の最大の栄養源であり,生きているときから分解されて消滅するまで
絶えず微生物に利用されています。樹木からシダ,コケの根に至るまで,あらゆる根に
多種類の微生物が取り付いて栄養をとっています。根が成長すると,土壌中へ物質が分
泌され,呼吸によって根の周りのガスが変わり,空隙に水分が多くなります。微生物が
繁殖し,生きた根を殺す病原菌や根に共生する病原菌,根粒菌などが根を覆ったり,組
織や細胞の中にまで侵入します。根が老化すると,表皮や根毛が落ち,土の中に有機物
がたまります。生きた根に付くものに加えて,植物遺体を分解する微生物が増加します。
有機物の少ない痩せた土壌の場合には根が唯一の微生物の餌となり,微生物は植物の根
にそって繁殖することになります。
 寄生,共生菌や病原菌は相手の植物を選ぶ寄生特異性が強いです。例えば多くの植物
が混交するアカマツ林の微生物種は多いですが,ヒノキやスギ林のようにきのこと菌根
を作らない樹種の林ではきのこが極端に少なく,微生物の種組成が単純化します。
 
 △土壌と微生物
 土壌の構造や土性は,土壌中の水のあり方や酸素,二酸化炭素の濃度,微生物の生活
空間などを決める上で大切です。細胞の小さな細菌や放射菌は粘土に多く,孔隙率の小
さなところでも繁殖します。糸状菌やきのこは太く長いので,孔隙率の大きい土に好ん
で繁殖します。例えば砂浜の土が菌糸でかたまったり,マツ林の尾根の表層土壌が菌糸
層に覆われることも多いです。
 この他,有機物の多少,酸性度,水分の多少などによっても微生物の種類や繁殖状況
が異なります。
 まだよく知られていませんが,土壌の母材によっても微生物は違っているように思わ
れます。石灰岩では細菌や放射菌,花崗岩では放射菌,頁岩では糸状菌が多い傾向があ
ります。
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