06 森林の土を掌に〈土壌分類〉
森林モリの土を掌テノヒラに〈土壌分類〉
〈わが国の自然環境〉
△気候
わが国はアジア大陸東縁部の太平洋に面して北緯45度30分から24度まで,約2,500q
に及ぶ北東から南西へ細長く弓なりに連なった諸島から成ります。そのために,南北の
気候差はかなり大きいです。
平均気温は,北海道では南部の渡島半島を除く大部分は8℃以下で亜寒帯に属し,九
州南部の南西諸島は18〜24℃で,亜熱帯に属しますが,その他の地域は温帯に属します。
温帯地域でも,山地の配列や高さの相違によって,中部地方以東の東日本は近畿地方以
西の西日本に比べると全般的に低く,地域的に変化が大きいです。
わが国の年平均降水量は網走の870oから尾鷲の4,120oに及び,ヨーロッパや北米大
陸の約600o前後と比べると著しく多く,世界的にみても温暖多雨な地域といえます。
冬の季節風による裏表の積雪量の違い,南北によって影響差の大きい夏季の梅雨,台
風などがあります。
わが国においては,降水量よりは気温の方が成帯性土壌の分布に強く影響しています。
亜熱帯地域(南西諸島)では黄色土が広く分布し,温帯地域では褐色森林土によって占
められています。
△地質
日本列島の地質は極めて複雑です。地質時代の最も古い時代から造山運動による地殻
の隆起と沈降による海進・海退が繰り返されてきました。日本列島が大陸から離れてほ
ぼ現在に近い形をなしたのは地質学的にはごく新しい時代に当たる第四紀の初め(約
200万年以前)です。それ以前の第三紀の初め(約2600万年以前)からアジア大陸の東
縁部に大規模な激しい断層運動が繰り返され,ほぼ日本列島の原形が打ち出されたとい
われています。同時にこれらの深い断層に沿って激しい火山活動が行われ,地下の溶け
た岩石(マグマ)の噴出によって,各種の火成岩の堆積をもたらしました。また,一方
では地殻の沈降による大規模な海進が行われ,海底に新しい地層の堆積が行われました。
さらに,これらの火山活動に伴う造山運動に伴って,これらの地層の陸化や著しい褶曲
運動による山地の形成が行われました。
わが国では火山灰が土壌の母材として重要な位置を占め,また洪積世の堆積物が赤・
黄色土やその類縁の土壌,未熟土などと関係が深いです。
△地形
わが国の国土の3/4は山地です。本州の島軸に沿って走る脊梁山脈が裏表の気候の
相違をもたらします。山地は大部分が非常に細かく谷に刻まれ,急竣で複雑な地形をな
していますが,これは激しい地殻変動や火山活動及びその後の侵蝕作用を受けたことに
よるものです。
わが国の森林土壌は大部分が山岳地の急竣な地形にあることは,わが国の森林土壌を
考える場合に極めて重要です。このような地形では土壌の水の動きは平坦地における垂
直方向の上下の動きよりも,傾斜面に沿った動きを重視しなければなりません。また,
このような水の動きと傾斜の影響による表面侵触も,土壌の生成や性質の相違に大きな
影響を及ぼしています。
△生物
わが国の森林帯は亜寒帯針葉樹林帯,温帯落葉広葉樹林帯,暖帯常緑広葉樹林帯に区
分されます。これらの区分は気候の相違に基づくものです。これは大まかにみると,緯
度と海抜高の組み合わせによる気候帯の区分とほぼ一致します。亜寒帯針葉樹林帯は北
海道のエゾマツ,トドマツ林,本州はシラベ,アオモリトドマツ,コメツガ林によって
代表されますが,気候的には亜寒帯に属します。これらの森林下の土壌は本州ではポド
ゾルが主として出現しますが,北海道ではポドゾルは本州ほど多くはありません。温帯
落葉広葉樹林帯はブナ林によって,温帯常緑広葉樹林帯はシイ,カシ林によって代表さ
れますが,気候的にはいずれも温帯に属し,主として褐色森林土によって占められてい
ます。
その他,生物の影響として人為による森林破壊の影響も見逃すことができません。例
えば北九州,瀬戸内海沿岸,京阪神地方は古くから文化が開けた地域です。古代の農業
は森林の火入れによる焼畑農業であったとされていますが,この繰り返しによって森林
の荒廃がもたらされたことは想像に難くはありません。さらに,瀬戸内海沿岸部では江
戸時代に製塩の燃料として森林の乱伐が繰り返されたことは,この地域の森林土壌せき
悪化に拍車をかけたといえます。これらの地域は深層風化を受けた母材に覆われていま
すので,母材の影響はあるとしても,わが国における代表的なせき悪林地帯をなしてい
ます。
〈わが国の森林土壌の分類について〉
△あらまし
現在世界各国で行われている土壌分類は,近代土壌学の父といわれるロシアのDOKU-
CHAIJEVが1860年に発表した「土壌は気候,地形,母材,生物などの環境諸因子の影響
によって生成し,時間の経過に伴って進化したものである」という土壌生成過程に基づ
いた自然系統分類方式が採用されています。すなわち環境諸因子が同じであれば,同じ
土壌生成作用が行われて,同じ土壌が生成されるということです。
わが国においては,森林土壌を植生を通して形態的に区分を行う研究,温帯・亜寒帯
のブナ林土壌の生成論的に分類の研究,そして国有林土壌調査,民有林適地適木調査,
沖縄など亜熱帯地域の森林土壌調査などの成果に基づいて「林野土壌の分類(1975)」が
とりまとめられました。
△森林土壌の分類の方式
前述の自然系統分類方式に準拠して,土壌群,土重亜群,土壌型,土壌亜型の順に,
順次低位のカテゴリーに区分する方式が用いられています。土壌亜型よりさらに低位の
分類については,カテゴリーによらず母材,堆積方式,土性,化学性などによって細分
することとしています。
・土壌群:主な土壌生成作用が同じで,土壌断面に見られる特徴層位の配列と性質の
類似した土壌の集団です。
・土壌亜群:土壌群の細分で,土壌群を標微する性質を有する典型的なもの(典型亜
群)のほか,他の土壌生成作用の加わったもの,及びある土壌群から他の土壌群へ移行
的な性質を帯びたものを区分して亜群とします。
・土壌型:土壌群,土壌亜群の構成単位です。特徴層位の発達の程度,ないし土壌構
造などの相違によって区分します。土壌型は地形の複雑なわが国の森林土壌を区分する
のに適し,また大縮尺の土壌図の作図単位として用いられます。
・土壌亜型:土壌型のなかで変異の幅が広いために実用上細分を必要とするものにつ
いて,土壌構造などの土壌型の区分に用いた特徴によってさらに区分したものです。
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