03a 森林の土を掌に〈土壌のでき方〉
 
〈土壌生成作用〉
 土壌がつくられるためには,地形,気候,母材など数多くの土壌生成因子が相互に働
くことは既に述べました。この際に働きかける各種の土壌生成因子の質的並びに量的な
相違によって,多種多様な土壌が生成されると同時に,土壌生成作用も多岐にわたりま
す。
 
 △塩類集積作用
 シルクロードの沿線に塩の吹きだした土地や湖があります。このような塩類集積は,
砂漠地帯では地表からの蒸発散作用が優先しているために,毛管作用による地下水の吸
い上げによって生ずるもので,塩類植物はその働きを助けます。地下水位が高いかある
いは地下水が停滞しているところに多く見られます。砂漠を持たない日本では見られま
せん。
 
 △石灰集積作用
 熱帯や亜熱帯地域では,植物根による水の吸い上げにおいて,動きやすいナトリウム
や塩化物は洗い流されますが,乾期にはカルシウムなどが上昇してくる土壌水とともに
地表に持ち上げられ地表近くに沈積します。一度沈積したカルシウムやマグネシウムな
どはなかなか溶出しませんので,結果として残留します。日本では雨が多いのでこのよ
うな作用は起こりにくいです。
 
 △ラテライト化作用
 ラテライト化作用とは,土壌中の珪酸が何らかの働きによって洗い流された結果,鉄
やアルミニウム化合物が残される作用をいいます。この生成作用は主に熱帯地方で行わ
れます。
 熱帯では母材や有機物に含まれていた塩基類の分解遊離が活発に行われるため,土壌
は中性〜微アルカリ性になります。そして珪酸は水ガラスとなって水に溶けやすくなり,
鉄やアルミニウムに富む赤色〜黄色の土壌が生成されるという考え方です。
 
 △粘土の移動集積作用(レシベ作用)
 この作用は固体状態の粘土フラクションが水に分散し,土壌中の空隙を通り下方へと
移動し,集積する作用をいいます。
 ある種の有機物(低分子の有機物)が金属元素を介在して粘土に吸着されますと,粘
土分子が動きやすくなります。ナトリウムやカリウムが多量にくっついた粘土は動きや
すいです。また粘土を下方へ移動させるためには,土壌中に空隙が多ければ多い方が都
合がよいとされています。日本では南西諸島でこの生成作用の結果つくられたと考えら
れるかもしれないような土壌があります。
 
 △ポドゾル化作用
 この作用は,現象的には表層の鉄やアルミニウムが水溶性の有機物に溶かし出されて,
下層に有機物などとともに集積する作用として観察されます。これは寒冷多湿な条件の
もとで典型的に行われる作用で,水は下降しますので塩類の上方への移動はなく,また
植物から供給される有機物の分解が進まず,したがって土壌表層に厚く堆積した有機物
層ができます。また分解しきっていない水溶性の有機物が鉄やアルミニウムを包み込ん
で(キレート作用といいます。)下層へ移動します。
 表層でつくられた鉄・アルミニウム/有機物複合体は,有機物,鉄,アルミニウムの
順に,下層の酸性の弱いところに沈着します。このことによって表層は珪酸質となり,
鉄,アルミニウム,塩基類に乏しくなって灰白色を示し,その直下に暗褐色の腐植集積
層,次いで赤褐色の鉄やアルミニウムに富む層がつくられます。
 雨がある程度多く,周囲から水の供給のない凸状地のところにつくられやすいですが,
ヒバなどの分解されにくい有機物,特にクチクラ層の発達した革質の葉を持ったものが
供給された場合につくられやすいです。
 
 △グライ化作用
 鉄は普通酸素が多いところでは3価の形で存在(いわゆる鉄サビ色)しますが,酸素
が不足した水溶液中では電子が加わって2価となり淡青色(還元される)になります。
この過程をグライ化作用といいます。地下水が停滞し,微生物活動等によって利用し得
る酸素が消費し尽くされた欠乏状態となった場合に生じます。この作用によって生じた
2価の鉄は水に溶けやすいので,徐々に移動し,根のまわりなどの酸化的なところで3
価の褐色の鉄となり沈着します。グライ化作用は凹状で水が集まりやすく,また水が停
滞しやすいところで生じ,普通は土壌中には無機養分がかなり含まれていますので,酸
性は弱いです。
 
 △表層還元作用
 多湿な,地形が穏やかなところには時としてポドゾルに似た,表層がやや青みがかっ
た灰白色で,その下に鮮やかな橙色〜赤褐色の鉄の層をもつ土壌が見られます。また時
としてこの鉄の層は硬い盤状の層となっていることがあります。このような土壌は下層
がちみつで粘土質であることが多く,穏やかな地形とあわせ,水が排除されにくいです。
したがって,グライ化作用と同様に停滞水による還元作用が生じやすいのです。さらに
この土壌が発達するところはむしろ台地状地形であるため,停滞水の給源はグライの生
成におけるような無機成分を含んだ地下水というより,むしろほとんど無機成分を含ま
ない雨水と考えられること及び還元作用の結果,生じた2価鉄は徐々にではあるが主に
水平方向に水とともに排除されます。この結果表層部に灰白色の還元層が生じたもので
あり,また酸化的な下層と接触することによって鉄が沈積したものと考えられています。
ちなみにこの鉄の層の鉄結晶はレピドクローサイトという3価の鉄で最も還元的な結晶
であることが多いです。このような土壌は日本では豪雪地帯や多雨地帯に多く見られ,
また熱帯降雨林気候の平坦地には広く分布しています。
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