03 森林の土を掌に〈土壌のでき方〉
 
         森林の土を掌に〈土壌のでき方〉
                                       
〈土壌のでき方〉
 土壌の進化のありさまは氷河の後退あとや新しい火山放出物堆積地などで観察できま
すが,土壌は母材,気候,地形,生物,時間等々の因子が相互に働き合ってつくられま
すので,これらの因子の働きかけの強さが異なればつくられた土壌の状態も異なってき
ます。これらの因子を土壌生成因子と呼び,また因子が相互に働き合う作用を土壌生成
作用と呼びます。したがって場所が異なれば各因子の働きかけの強さは異なってくるの
で,生成される土壌は場所によって異なるといえましょう。
 
〈土壌生成因子〉
 △母材
 ・土壌の母材
 
  岩    石:火山岩・深成岩・変成岩・堆積岩
  非固結堆積物:河川堆積物・火山放出物・氷河堆積物・風積物
 
 △風化作用
 ・岩石の物理的風化
 
          岩石名    破砕量   *散水と凍結を繰り返し80回行った
          流紋岩      120.28g   ときの破砕された量
          安山岩        2.71
          玄武岩        2.02
          花崗岩        5.98
          閃緑岩        0.74
          斑栃岩        1.56
          石灰岩        2.18
          中性頁岩       3.72
          第三系頁岩  1,000.00
          同 凝灰岩  1,000.00
          黒色片岩      45.11
                                                                              
 ・化学的風化
                                                                              
 純水に溶けやすいもの
 ナトリウム・カリウム,塩化物,硝酸塩,硫酸塩,2価鉄,2価マンガンなど
                                                                              
 炭酸を含んだ水に溶けるもの
 カルシウム・マグネシウム,一部の鉄・マンガン
 
 有機物酸性溶液に溶けるもの
 アルミニウム・鉄など,リン酸塩
 
 アルカリ溶液に溶けるもの
 アルミニウム,ケイ素
 
 △地形
 斜面の上部から水と,風化作用の結果岩石から離れて水に溶けこんだ成分,及び森林
から供給されたいろいろな養分が下部へと流れてきます。そこで斜面上部では乾いたタ
イプの土壌ができ,下部には湿ったタイプの土壌ができます。また土壌中の成分の種類
も斜面の位置で変わるため,動物や植物の作用も当然変わってきます。季節風などの気
流も脊梁山脈などの地形の影響により,豪雪地帯や雲霧帯などをまねいて土壌の生成に
変化を与えます。
 
 △生物
 植物は土壌に有機物を供給し,また植物の根は土壌を掘り起こします。供給された有
機物は土壌表層に堆積し微生物や土壌動物と呼ばれる小生物によって分解されます。と
ころが有機物は完全に分解されるまでには時間を要することが多く,地表にたまり,一
部は土壌の中へ浸透していきます。また根もかなりの量の有機物を土壌に放出し,この
有機物も土壌中に残されます。このようにして土壌に特徴ある層ができてきます。これ
らの層を土層と呼びます。
 北日本や標高の高いところはモミやツガ,トウヒの林が広がっていますが,こうした
森林はこれらの樹種が供給する有機物が微生物などよる分解がしにくいこと,寒い地方
であるため微生物などの種類が限られているなどのため,落葉落枝が厚くたまって表層
は白くぬけ,下層は赤褐色の有機物がたまったポドゾルの層ができます。ブナ林の伐跡
地にヒバを植えると,もともとの森林褐色土からポドゾルに変わります。
 動物も植物に劣らず土壌の生成とかかわりが深いです。ブナ林などの肥沃な林地には
必ずといっていいほどミミズが棲んでいます。ミミズは大量の土を食べることによって
土を耕してくれています。またいろいろな土壌動物が落葉や土を食べ,うまく土を耕し
ていることが分かります。また土を耕すばかりでなく,落葉を分解し,植物が利用しや
すいように養分を放出します。土壌微生物も落葉の分解者として大きな働きをします。
と同時に植物に必要な窒素を固定する能力を持ったものであり,また鉄やマンガンを還
元し水に溶けるように替える能力を持つ微生物も存在します。このような微生物は地下
水土壌の生成に関与することがあります。
 このように動植物は土壌の発達と関係が深いですが,無論生物のみで土壌をつくるわ
けではなく,その他の地形や気象条件などと深く関係しながら土壌をつくってゆくので
す。
 
 △気候
 南極やヒマラヤ,砂漠や湿潤熱帯などそれらの気象条件は植物の生育や土壌の生成と
関連が深く,特に気温,降水量と降水の種類及び降水の様式などが関連します。
 例えば気温においては,普通の化学反応の速さは,温度が10℃上昇すると2倍になり
ます。大ざっぱには気温が30℃のとき25年かかる化学反応は,10℃のところでは100年
かかることになります。
 雨水の大部分は地表を落下し,一部は地中に留まります。植物は土壌中の水分を吸収
して,大気に放出します。例えば雨期と乾期をもつ半乾燥地帯では,乾期になると植物
は地下水を吸い上げ,必要な量の成分を吸収しますが,動きやすいナトリウムやカリウ
ム,硫酸塩,塩化物が表層に集まります。と同時に土壌がアルカリ性となり,珪酸が動
きやすくなります。降雨があるとナトリウムが洗い流され,炭酸水に溶け込んだカルシ
ウムやマグネシウムが集結することになります。
 降雪地帯の急斜地では雪崩によって土壌表層が押し流されますが,平坦地では消雪が
遅く土壌が湿潤状態となって有機物がたまりやすく酸性の水溶性有機物が生産されてポ
ドゾル土壌がつくられやすくなります。
 尾根など風の当たりやすいところでは蒸発散作用が促進されて乾いた土壌がつくられ
やすいです。
 
 △時間
 黒色土は,成熟したものになるには約3千年を必要とすると考えられており,ポドゾ
ルでは数百年,グライなどでは条件さえ合致すれば数年で生成されます。このように土
壌生成に要する時間は土壌の種類によって異なり,また同じ種類の土壌であっても他の
土壌生成因子の働きかけの強さによっても異なります。
 
 △その他の因子
 人為による土壌への影響は,農耕,林地の伐採や植林,薪の採取や過放牧などがあり
ます。わが国の自然植生は森林であり,これは林地を度重なる火入れその他によって草
地化したことが黒色土化作用を促進したものと考えられています。
 また一方,わが国の赤色土は過去の気象条件下生成されたもので,現在では赤色土生
成作用は日本の気象条件下では働いていないとも考えられています。
 このことは,生成作用が植物の生理作用と関連が深いとする観点からみれば問題とな
ります。したがって何が現在の土壌生成作用であるかを明らかにするためには,常に細
心の注意を必要とします。
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