50 資源植物〈資源植物学研究方法への誘い2〉
 
         資源植物〈資源植物学研究方法への誘い2〉
 
〈資源植物の保存〉
 
 △植物の保存法の概略
 野生植物の保存法には大別して植物を自然の生育状態のまま保存する生育地保存と,
それを他へ移植して栽培保存する二方法があります。野生植物の生育地保存ということ
は,目的の植物を含めて,他の構成要素・動植物の相互関係で保たれている生体系の保
存ということで,自然保護の領域に属する問題です。自然保護地域には国立公園,演習
林などの保護林,植生保護区,また動物を主目的とした鳥獣保護区などがあります。
 他へ移植して栽培保存する場合,最も普通には植物園で生きた標本として栽培するこ
とになります。農業試験所,林業試験所,大学などの研究機関,種苗企業関係の見本園,
植物園など種々あります。
 栽培保存をするには,大きな用地,栽培に携わる人手,温室やクリマトロンのような
特殊な設備,また自然におけるより病菌やウイルスに侵されやすいための植物病理学の
問題などが出てきますので,休眠保存する方法が研究されています。種子は従来からこ
の方法で保存されていますが,枝や苗の冷蔵,細胞や組織の凍結保存が最近研究されつ
つあります。
[生育中植物の保存]
 @生育地保存(生態系)保存・・・・・・野生保存・・・・自然保護区域
 A栽培保存・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・野生植物・・・・植物園・大学等
              ・・・・・・栽培植物・・・・植物園・大学
                     ・・・・農林業試験所
                     ・・・・種苗見本園
      ・・・・植物移住・・・・野生・栽培植物・・・・農林業試験所
                     ・・・・種苗見本園
 
[休眠中植物の保存]
 @凍結保存・・・・・・・・種子保存・・・・・・野生・栽培植物・・・・種子貯蔵庫
        ・・・・細胞・組織・・・・野生・栽培植物・・・・(試験研究中)
 A冷蔵保存・・・・器官(枝・苗等)・・野生・栽培植物・・・・(試験研究中)
 
 △植物の生育地保存・・・・自然保護
 植物を生育地で保存する唯一の方法は生態系の保護です。地域生物誌的研究を参考に
するなどして設定地域の大きさを決めますが,保護区はもはや大自然の一部ではなく,
人為的環境に囲まれている一区画ですので,水源の保守,地下水位の保守,水や空気の
汚染の防御,病菌やウイルスの進入を防止するなどの人手を加えなければなりません。
群落構造に明るい生態学者や,種についての知識をもった分類学者や資源植物学者等が
一緒になって,遺伝子源保護のための調査研究をする必要があります。
 
 △植物移住(植物導入)
 人類が1万年前に農業を営みはじめて以来,植物の移住は行われてきました。
 植物移住は,植物の原産地以外の人に好まれるため,栽培植物の種なり品種なりの多
様化を図るため,ある作物は原産地よりも他の地域で栽培するほうが適するため,原産
地より種・品種の分化や大量生産が容易であるためなどにより行われます。
 植物の遺伝子保存の立場から考えてみますと,植物はある地点で分化しますと,そこ
の環境条件に支配されながら長時間をかけて分布を広げます。また環境が変化して適応
できなくなると,徐々に分布域が狭くなって稀な種となって生き残ります。したがって
現在ある植物の生えている地域が,必ずしもその植物にとって優良の環境の地であると
はいえません。こういう場合,もしその植物がそれによってよりよい環境の地へ移され
ると活発に増殖をはじめ,ときによっては変異をおこして新しい遺伝子型の変種や品種
などに分化することもあります。
 植物を他の地域に移入するときは,病菌や寄生虫の予防が第一です。移入後数年間は
隔離栽培し,原則として新芽が十分に入手できたときは,原植物は焼却する必要があり
ます。次は既にその地に栽培されている優良な品種と交雑して,より劣悪な品種や雑種
を形成するか否かの遺伝学研究も必要です。
 また,移入植物の雑草化が問題となります。米に移入したクズ,南米にイネに混じっ
て移入したコゴメガヤツリ,ヒデリコのほか,インドが原産地と考えられ,水田の雑草
であるサギゴケ,ホタルイ,クマガヤツリ,コゴメガヤツリ,ヒデリコ,ホシクサなど
の例があります。
 
 △植物園と生きた植物の保存
 植物園の機能は,生きた植物を集めて栽培,保存をするほか,植物の研究を行い,植
物科学の発展と普及を図り,それらの活動を通じて人生への貢献をすることと定義され
ています。
 @植物園の略史
 ギリシャのアリストテレス,漢(中国)の武帝などにはじまりますが,薬草園を起点
としては,大航海時代のスパイスその他の有用植物収集やヨーロッパ各国の植民政策の
植物産業振興の目的として植物園が発達してきました。
 ヨーロッパの植物園はキリスト教修道院の薬草園,東大小石川植物園は徳川幕府の白
山の御薬園でした。
 A植物園の役割と種類
 植物資源の喪失に直面した現代の植物園の第一義的な機能の一つは,勿論生きた植物
を生きた標本として遺伝子と種の保存及び広い研究目的をもって継続的に栽培をしてい
くことです。
 遺伝子保存の目的で生きた植物を栽培保存する植物園内の1区画をプロパゲーション
・レンジ(増殖保存区画)といいます。ここには圃場,フレーム,温室などがあって,
植物は栽培条件にあった方法で植えられ,一般には解放しません。
 植物に関するデータを登録保存しておくことも必要です。そして園内で栽培している
植物は可能なかぎり押し葉標本を証拠標本として残しておく必要があります。
 植物園内での適した研究は,植物分類学,植物形態及び解剖学,資源植物学,植物細
胞遺伝学,植物育種学,園芸植物学などです。生きた植物材料を必要とし,特にそれら
の栽培を要する分野の研究です。実験室,研究室,標本庫,図書室などを備えています。
第二義的には,植物というものは元来美的にものですので,観賞用植物も展示し,緑の
憩いの場のほか,展示用の温室もあるようなものは植物公園と呼ばれます。
 植物の栽培,保存,開発,研究,観賞などの全機能を備えた有意義で楽しいものを総
合植物園,植物園が薬用植物のみであったり,樹木のみのものは特殊植物園と呼ばれま
す。
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