49c 資源植物〈資源植物学研究方法への誘い1〉
 
 △植物標本と標本館
 @標本の意義と世界の標本館
 植物の標本は普通,乾かした押し葉式のもので,それが台紙に貼られ,種々のデータ
を記入した記名箋(ラベルのこと)を貼付して,標本庫のケース(キャビネット)の中
に系統的に分類整理して保存し,必要な時にはいつでもどの標本ても取り出して研究に
利用できるようになっています。この押し葉式標本は永久的なもので,植物に関するデ
ータを永久保存する手段です。このような標本にできない果実とか多肉植物などは,ア
ルコールとかホルマリンなどの保存液につけた液漬標本にしますが,ときどき保存液を
補充する必要があります。
 同定に関して最も重要な標本は基準標本(模式標本ともいう)です。基準標本とは植
物分類学者が植物の種や変種,品種等をはじめて記載発表したときに使った標本で,そ
の種なり品種なりの基準となる標本です。その種なり品種なりの発表後は,基準標本に
一致する植物がその種とか品種として同定されるのです。基準標本は原則として1枚で,
基準標本の副標本(基準標本と同じ植物で,同時に,同じところで,同じ採集者によっ
て採集された標本,木や株立ちの植物では同一植物から採集された副品です)が存在す
る場合にも,その数に限りがありますので,基準標本というものは限られた標本館にし
か見られない貴重な標本です。
 このほか植物標本からは,その植物の生育地,開花結実の時期,採集者,同定者など
の情報を得て,資源植物の研究計画の参考資料とすることができます。
 A標本館の機能
 世界の優秀な標本館では,サービス機能,研究機能,収蔵機能があります。
 サービス機能とは,標本を受け入れてから,台紙に貼ったりして調整する仕事から,
他の研究機関へ標本の交換,貸与などのため送り出したり,標本を収蔵庫へ納めたりし
ます。
 研究機能は博士級などを配置し,第一線での研究と後継者の育成等を行っています。
 標本収蔵機能は標本庫として,標本ファイル,取り出し,移動,ファイルカバーの取
り替えなどの綿密な作業を行っています。
 
                          参考「資源植物学」講談社

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