49b 資源植物〈資源植物学研究方法への誘い1〉
 
〈資源植物のイベントリー研究〉
 
 イベントリーとは「財産目録」とか,「在庫品」という意味ですが,植物学上のイベ
ントリー研究とは,地球上の植物を野生・栽培植物の別を問わず,全体にわたり系統的
に調べ上げ,各植物に世界中で通用する学名をつけて記載し,形態,分布,細胞遺伝学
形質,成分,系統的類縁性から用途まで,あらゆる面を解析研究し,その結果を記録整
理して,将来の研究材料,農業育種材料,植物産業の資源原料など人生のあらゆる植物
利用の目的と,植物資源の再生産性の維持に役立てようとする研究です。
 イベントリー研究の具体的な手法としては,
 @現在栽培されている植物の起原種をたどっていく植物起原論的研究方法
 A上記の逆の方法で,発展途上地域,未開発地,原住民などの間で用いられている野
生有用植物と,開発中の資源植物を調べ上げ,それらの栽培化を含む開発利用の研究を
進める民俗植物学的及び引き続く育種学的研究法
 B前二つの方法によって突き止められた植物の近縁種,関連種をモノグラフなどを使
って調べ上げ,より完全な遺伝子プールを把握するとともに,将来の有用植物の予測と
保存を考えていく,植物系統学的研究
の三つに大別できます。
 
 △栽培植物起原論的研究法
 栽培植物の起原の研究は,世界中の植物を科別に分類し,さらに植物分類地理学的な
配慮を加えています。
 栽培植物の野生原種がなぜ品種改良に重きをなすかといえば,栽培植物はその植物の
変異が最も大きいほか,関連近縁植物の数も多く,関連遺伝子が最も多く存在します。
すなわち,対象植物の最大の遺伝子プールが存在しています。したがって強い優秀な遺
伝子が集積しているということです。
 栽培植物の起原種やその系統分化をたどることは,野生種の種の分化をたどることと
は異なり,単なる形態分類学的及び細胞遺伝学的研究のほかに,人的要素もあわせて考
えていかなければならず,民族植物学的研究,農業起原論,考古学などとも関与してき
ます。
 
 △未開発及び開発中の有用植物の探求
 未開発又は現在あまり用いられていない有用植物をできるだけ広く調査探求し,その
中から将来有用な作物に開発とうるものを見いだして,将来の多様化へ導いてゆく方法
で,この方法には,民族植物学的方法と,現在行われている植物の分類系を使って系統
的に考えていく分類学的方法の二つがあります。
 @民族植物学的研究法
 世界各地の原住民は,その地方に産する植物の利用法を知っています。民族植物学的
研究とは各地原住民の間で伝統的に利用されている植物を調査する方法で,主として食
用植物,薬用植物,油料植物などがその対象となります。
 利用されなくなって忘れられた地方的有用植物には,野生種や開発されていない半栽
培植物が多く,自然破壊などの要因で将来は消滅していく危険性もあるのです。
 例えば薬用植物についていえば,薬用植物の利用は世界各地で行われてきましたが,
記録として残っているのはインド亜大陸,中国,日本のみで,アフリカ,南北アメリカ,
東南アジア,太平洋諸島などではその地方の文化に文字がないので記録が残りません。
北米インディアンはもとより,ブラジル奥地のインディオの間に至るまで化学薬品が浸
透し,伝統的な薬用植物の利用は廃れていく一方です。
 A植物分類学的研究法
 現在の植物分類法は自然分類による分類系を採っているため,一つの有用植物が見い
だされたときには,その植物と同属の種を研究していくと近縁の種の中に同じ目的に利
用できる有用植物が見つかることがあります。
 
 △植物の収集(植物探検)と同定
 @植物探検
 大航海時代には高価なスパイスを求めることからはじまり,世界中を廻って植物を片
端から集めるものでしたが,現在では地域をしぼり,季節を変えて何回も出かけ,その
地域内の植物をくまなく集め,花期と果期の標本も集めるようにしています。
 A植物の同定
 集めた植物の同定は,植物分類学専門家は標本を通じて行います。同定は,科,属な
どの専門家が分類群単位で行い,そして植物誌研究,つまりその地域の植物の専門家に
おいて行います。
 B植物の学名
 現在知られている植物には,そのすべてに世界中の植物関係者の間で通用する共通の
名である学名がつけられています。学名は植物学者だけでなく,植物産業が国際化した
今日,それに伴う新品種の登録,特許,植物の生殖質や植物製品の輸入・輸出,雑草の
往来,帰化植物のことなどの間において共通に使用されています。
  A 植物の学名の略史と背景
    スェーデンの博物学者リンネによる植物の科,属,種などの分類法に準拠し,
    植物の種を示す方法について「小名」という名を用いる二名法によることが便
    宜的であり,また,世界共通の学名の付け方が必要とされてきたものです。
  B 一般の植物の学名の命名法
    学名はラテン語を用います。
    例
    門 :種子植物門
    亜門:被子植物亜門
    綱 :双子葉植物綱       単子葉植物綱
    亜綱:バラ亜綱         ユリ亜綱
    目 :バラ目          ユリ目
    科 :バラ科          ユリ科
    亜科:バラ亜科         ユリ亜科
    族 :バラ族 
         ユリ族
    属 :バラ属          ユリ属
    種 :ノイバラ         ヤマユリ
 
  C 栽培植物の命名法
    栽培植物についても野生植物と全く同じ理由で世界共通名としての学名が重要
    です。分類と命名にあたって特に栽培植物が関係してくる階級は属,種,栽培
    変種です。栽培変種は日本語では「栽培品種」と呼ばれることが多いです。
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