46 植物の環境を再現する/環境作り
 
           植物の環境を再現する/環境作り
 
                  参考:世界文化社発行「世界文化生物大図鑑」
 
 △環境を作る前に
 山野草の栽培では,次のことが重要となります。まず自生地の環境と生育の実態を自
分の目で確かめます。その上で,自生地の環境について,分布,群落,棲み分け,生活
形などの面から細部に亘って分析します。次に生態的特性や環境分析の結果を検討し,
無理なく管理できる栽培の方法を決めます。方法の決まったところで,庭先やベランダ
という立地条件の中で,それぞれの植物が要求する生育環境を新たに作り出す工夫をし
ます。
 植物を取り巻く環境要因のうち,土,水,養分などは,栽培に当たって,その調節は
比較的容易です。しかし光や温度要因になりますと,栽培するところの立地上の制約を
受けることが多いです。特に高温を避ける対策は簡単ではありません。例えば風通しを
良くしたり,遮光してその場所の温度上昇を防ぐことになりますが,それにも限界があ
ります。まして気温そのものを下げることは不可能に近いです。そこで,これら調節困
難な要因は,土,水などの調節に拠って間接的にコントロールすることになります。
 新しい環境を作り出すため,日本の気候を温度別に分け,環境の概要と其処に自生す
る植物の育成上のポイントを挙げてみましょう。
(1)亜熱帯
 奄美大島より南の沖縄,小笠原がこれに入ります。平均温度は16〜18℃です。本州で
は見られないヒルギ類,アダンなど,熱帯地方と同じ仲間が自生します。沖縄の八重山
諸島には多くのラン植物が自生します。ツルラン,トクサラン,ナリヤラン,リュウキ
ュウセッコクなどがあります。
 この地方に自生する植物は,何れも寒さに弱いです。冬に凍る地方では温室が必要と
なります。春と秋には比較的多く日に当て,夏は半日陰にします。冬は最低5℃位の温
度を保って下さい。
(2)暖帯
 屋久島から東北地方の仙台辺りまで,中部地方を基準としますと500〜600mまでの低山
までで,平均温度14〜16℃です。古くから田や畑に開墾され,天然林は少ないです。こ
の地帯を代表する樹種は,シイノキやカシで,一名カシ帯ともいいます。そのほかツバ
キ,クスノキ,タブノキの常緑闊葉カツヨウ樹が見られます。
 この地方に自生する植物は,冬の寒さに対する抵抗性が大きく,また,夏の暑さに耐
える力も大きいです。エビネ,セッコク,フウラン,シャガ,カンアオイなどが自生し
ます。何れも身近なもので,北地での栽培を除いて温度管理は容易です。自生地の環境
に合った水と光の管理が必要となります。
(3)温帯
 宮城県以北と北海道の西半分,中部地方では600〜700mから1,400〜1,500mまでの間で,
平均温度は6〜14℃,冬は0℃以下になります。
 ブナが代表的な樹種であることから,ブナ帯ともいいます。そのほか,カエデ,トチ
ノキ,ミズナラ,ナナカマドなどが自生します。
 この地帯の植物は落葉樹と多年草が多く,冬の寒さに耐えています。夏の暑さには弱
いものが多いです。ジロボウエンゴサク,マツムシソウ,フクジュソウ,ラショウモン
カズラ,ソバナなどが自生します。また,大きな落葉樹の下では,上木の芽を出す前の
早春にいち早く葉を広げ,間もなく花をつけ,葉などが茂って辺りが暗くなる頃には1
年分を稼いで姿を消すものもあります。ニリンソウ,カタクリ,アズマイチゲ,エイザ
ンスミレ,スミレサイシンなどです。
 この地帯のものは,早春から初夏までは十分に日に当てます。光の強くなる夏には半
日陰に移します。自生地は比較的明るいところと,そうでないところがありますが,日
陰に移す時期を調節して下さい。何れにしても夏の西日は避けて下さい。水切れに注意
し,冬は乾風を防ぎ,特に地上部に芽の出るものは保護して下さい。ニリンソウなど早
春季節物は,葉のある間の肥培が重要となります。
(4)亜高山・亜寒帯
 北海道の東部,中部地方では1,500〜2,500mの間,多くの落葉樹は冬の寒さに耐えられ
ません。シラビソ,トウヒ,コメツガなどの針葉樹が大半を占めます。冬の寒さ厳しい
です。針葉樹林の下には,コケ,コミヤマカタバミ,ツバメオモト,コバノイチヤクソ
ウなどが自生します。一方,この地帯から温帯にかけての草原には,比較的大型の多年
草群落があります。エゾカワラナデシコ,マルバダケブキ,ヤナギラン,ニッコウキス
ゲなど花の美しいものが見られます。
 この地帯の植物は,北地を除き,関東以西での夏越しが困難です。用土に砂を多くし,
できるだけ涼しい環境で夏を越させて下さい。春から初夏までと秋にはよく日に当てま
す。過湿を避け,鉢土の温度上昇を防ぎます。林下のものには空中湿度を高める工夫が
必要です。
(5)高山帯
 中部地方の2,500mより高いところです。ハイマツが代表で,キバナシャクナゲ,ガン
コウランなどの低木林から成り,高くなるにつれて低木と多年草となります。この間に,
いわゆるお花畑という草本群落が出現します。雪が消えますと直ぐに生長を始め,美し
さを競うように一斉に開花します。8,9月一杯で実を結び,再び長い眠りに就きます。
 この地帯には,コマクサ,クロユリ,ツガザクラ,イワウメ,イワギキョウ,ミヤマ
オダマキなど可憐な植物が多く,何れも採種禁止になっています。
 この地帯に生える植物の栽培は,北に行けば行く程容易となります。関東以西の平地
においては夏越しと冬越しの工夫が必要です。砂植えにして,早春には風通しの良いと
ころでよく日を当てます。夏は半日陰,秋はよく日に当てて株の充実を図ります。地上
に芽や葉の残るものは室ムロなどに取り込み,乾いた寒風に当てないようにします。
 高山植物は自然公園法によって採種が禁止されています。そこで,山野草の栽培は,
もっと身近なものを見直して,一粒の種子から育てるようにしたいものです。
 以上は,植生帯別にみた植物の種類と栽培の要点です。これを自生地の立地条件から
大まかにまとめますと,次のようになります。
 〈草原の草〉
 日当たりと風通しの良いところに置き,暑さを嫌うものは西日を避けます。
 〈林下の草〉
 自生地は日陰であっても,春と秋には十分日に当てます。よく当てますと草姿が締ま
ります。夏は葉が日焼けしやすいものがありますので半日陰に移します。地上部に露出
する冬芽は乾燥から守ります。
 〈池や湿原の草〉
 とにかく日当たりの良いところに置きます。異常な水温の上昇を防ぎます。湿原のも
のは風に当てない方が良いでしょう。
 
 △栽培場所の工夫
 植物を育てる環境作りとは,できるだけ自生地に似た環境を再現することです。とこ
ろで,山野草を実際に栽培できるところといいますと,当然,住環境の一部を利用する
ことになります。従って,望ましい環境作りとは,植物の生育を支配する外界要因とし
ての環境と,育成管理の面からみた環境の両方を整えることです。そのためには,各人
の置かれた条件の中で,独自の工夫が要求されることになります。
 植物の棲み良い,しかも無理なく楽しく育てられる環境作りを目指したいものです。
 〈日向ヒナタ〉
 草原や池沼は,日当たりと風通しが良いです。従ってこのような環境下に自生する植
物は,できるだけ日の当たるところで管理します。また,林下に生えるものでも,自生
地の環境によっては,夏を除いて十分に日に当てたいものが多いです。
 日当たりの良い環境作りとして次のことが考えられます。庭の中において東南の開け
た,年間を通して最も長時間の日照が得られますところに棚を作って下さい。少なくと
も,午前中は十分に日の当たるところを選んで下さい。
 棚は高い程,日当たりと風通しがよくなります。人が立った姿勢で棚上の管理ができ
る高さとします。屋根上の物干し場などが利用できますと申し分ありませんが,この場
合は強風に注意して下さい。
 庭植えにおいては,山野草は下草として植え込むことが多いです。日当たりを好むも
のはできるだけ樹木から離し,少しでも日の当たるところに植えて下さい。場合によっ
ては,立木の枝を間引いて下さい。水生植物の小鉢作りは棚上に置きます。大鉢は地上
に置き,日当たりをみて移動させます。ベランダでは,日当たりを好むものは外側か棚
の最上段に置き,ときどき鉢の向きを変えて下さい。
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