46a 植物の環境を再現する/環境作り
〈日陰〉
完全な日陰でないと夏越しできないという種類は,少ないです。日陰を好むものは,
やや樹冠の発達した木の下において,午前中の日が差し込み,午後の日を遮るところに
置いて下さい。また棚下に置いてもよいでしょう。棚下に置くときは,上の棚にビニー
ルシートなどを敷いて,上から水の落ちるのを防いで下さい。棚下は,場所や向きによ
っては,全面に西日が差し込むことがありますので,西側には大型で丈夫な鉢物を置い
たり,よしずなどで西日を防いで下さい。
日陰を好む植物は,一般に空中湿度を好む傾向があります。やむを得ず棚上に置くと
きは,寒冷紗カンレイシャの2枚重ねか,よしずで遮光します。棚上には,浅い箱などにビニ
ールを敷いて水を張り,それに空鉢などを伏せ,その上に置いたり,鉢の中程に置くと
きは,周りを他の鉢で囲んだりして,湿度を保つ工夫をします。
庭植えでは,強い風の当たらない常緑樹の下などで,午前中は半日陰となり,午後は
西日を遮るところを選んで植え付けます。
ベランダでは,よしずや不透明かグラスライトなどで遮光と風除けを作ったり,棚の
下や他の鉢の陰に置きます。
〈半日陰〉
日当たりのよいところに自生する植物も,夏は互いに陰になり,強い西日を遮ってい
ます。従って,種類によっては暑さを嫌うものもあります。また林内に生えるものでも,
春から日当たりの良い棚上に置いたもののうち,一部の種類を除いて,午後は半日陰の
ところに移しましょう。西日を防ぎ,木漏れ日の差し込む適当な木陰あれば理想的です。
棚上に寒冷紗などを張って半日陰にするときでも,側面からの西日を防いで下さい。種
類によっては,棚上で西側に大型の鉢を置いただけでも夏越しできます。棚下を利用す
るときは,午前中の日がよく当たる位置に置き,西日は避けて下さい。ベランダ,テラ
スで西の開けたところにおいては,よしずなどで遮光したり,鉢陰に移動させたりしま
す。庭植えでは,樹木の下などに植え込んで西日を避けて下さい。
〈風通し〉
地形,建物の配置などによって,風の流れが悪かったり,また風が強く当たったりし
ます。風の方向,風道などに注意して,風通しと日当たりがよく,しかも強い風の当た
らないところが理想的です。立木の枝を間引いたり防風樹を植えるなどの対策も必要と
なります。
棚は,管理に不便でない限り高くして下さい。高い程風通しはよくなり,光も強く当
たります。セッコク,フウランなどは庭木に吊るして程よく風に当てますと,少し位日
が強くても,見違えるようによく育ちます。
●風の効用:風がありませんと植物の葉の表面を取り巻く空気は薄い層となり,炭酸
ガスが葉の中に拡散するのが妨げられます。風が吹きますとこの層が少なくなって炭酸
ガスが葉に入りやすくなります。従って光合成は活発に行われます。人の顔に風を感じ
木の葉の動く程度の風,つまり秒速1.5m位の風が理想的で,これ以上風が強くなります
と光合成の速度は高まりません。
また一方,日刺しが強くて風がありませんと,葉の蒸散速度が低下します。そこで,
葉の温度は異常に高くなり,呼吸は促進されます。呼吸速度が増せばそれだけ消耗が多
くなり,見掛けの光合成は低下します。風は植物の葉へ炭酸ガスを供給し,蒸散速度を
変え,葉の温度上昇を抑えてくれます。成る可く風通しの良いところを選ぶ理由はここ
にあるのです。
●風の害:肌に快い程度の風が理想的ですが,その程度の風でも,水分状態のよくな
いときは生育を抑制します。根の傷んだものや植え替えなどで根を切ったものなどは,
吸水能力が回復するまでは風に当てないようにして下さい。
林下に自生するものや湿原に生育する食虫植物などは,空中湿度を好み,乾いた風を
嫌いますので,適当に風から守る工夫が必要です。
更に風が強くなりますと葉擦れハズレを起こすなどの機械的な障害を受けます。同時に,
葉面からの蒸散が多くなり過ぎますので,植物は気孔を閉じます。こうなりますと炭酸
ガスの供給は少なくなり,光合成は低下します。
台風時には鉢を棚から下ろしたり,寒冷紗などが吹き飛ばされないようにします。ま
た風台風のときは,内陸部まで塩分を運んできますので,室内に取り込むか,12時間以
内に水洗いをして下さい。
△ベランダ・テラスの利用
ベランダやテラスは,居住室の内と外とを繋ぐ重要な位置を占めており,その活用が
大きな課題となっています。
〈ベランダの環境〉
一般住宅のベランダは建物に隣接するため,やや光が一方に片寄る傾向にありますが,
テラスと同様,ほぼ庭に近い環境とみてよいでしょう。暖地やマンションなどの集合住
宅においては,建物構造,立地条件,向きなどで複雑に変化します。そのうちの幾つか
を採り上げ,その対策に触れてみます。
●日照:年間を通して最も日当たりの良い南向きでも,夏は半日以上も日陰となりま
す。東や西に面していますと,年間を通しても半日位しか日が当たらず,一方では夏は
半日も強い光をまともに受けます。太陽の低い秋から春にかけては,南や南東,南西向
きでは,よく日が差し込みますが,一方からの光のため,奥の方の鉢には日が当たりま
せん。鉢の向きや前後の位置を変え,全面的に日を当てるようにして下さい。日陰を好
む植物は部分的に遮光したところに移します。棚の上段には日当たりを好むもの,下段
には日陰を好むものや耐陰力の強いものを置きましょう。
●風:周りの状況によって風当たりの程度は違います。一般には,上階になる程強く
なります。手摺などによしずを張るなどしますが,日照との関係でその高さを調節しま
す。アクリル,ファイロンですと光がよく差し込みます。風による鉢の倒伏や階下への
落下を防ぎ,潮風から守ることも大切です。
●温度:夏は,昼は強光と壁や床からの照り返し,夜は建物からの放熱,またクーラ
ーからの排熱などで高温となります。日中は遮光や散水などをして暑さを和らげて下さ
い。散水するときは,排水,防水,勾配や,下階などに配慮して下さい。
冬は,日中は日溜まりとなります。夜は建物からの放熱,庇ヒサシによって寒気の沈降が
防がれて比較的暖かいです。気温が下がるようでしたら,ヒーター付きフレームを利用
したり,鉢にビニールを被せたりします。日のあるうちに毛布などを被せますと保温に
効果的です。
●湿度:日射,風などで乾燥しやすくなります。また雨や露に当たることがありませ
んので,水切れに注意しましょう。
●病害虫:ハダニ,カイガラムシ,ウドンコ病などの発生が多くなります。早期に防
除して下さい。
〈ベランダを有効に使う〉
1)床に簀の子や人工芝を張って,夏の照り返しを防ぎ,部屋と屋外を繋ぐ接点として
の趣を活かします。
2)何段かに利用できる棚を作ったり,手摺にプラントボックスを取り付けたり,パイ
プの棚に蔓性植物を絡ませたり,天井から吊るしたりなどして,立体的に利用します。
この場合,植物の種類や人の動きを考えて,位置や高さを決めます。
3)壁に棚を作ったり,金網を張ったりなどして壁面を利用する。
△庭を利用する
植物栽培に利用する庭は,鉢棚,池,ロックガーデン,ウォールガーデン,温室,半
地下式のフレームや室ムロ,又は菜園などです。
●池:庭の一隅に壁泉を採り入れ,小さな流れを作って護岸石の間から水が染み出る
工夫をしますと,水湿を好む植物の地植えが可能になります。また,日当たりの良いと
ころには水草用の池も楽しいものです。
●ロックガーデン:岩石の持つ渋い味が野草とよく合います。高さ1m位のところで
も,その斜面を活用して立体的に利用できます。日当たりと風通しがよく,西日の当た
らないところが良いでしょう。野キク類,ギボウシ,ホトトギス,ユリ類,ナデシコ,
オミナエシ,シャガ,イカリソウ,エビネ,フシグロセンノウ,ヒトリシズカ,フタリ
シズカ,イワタバコ,シモツケ,ヤブコウジなどいろいろ楽しめます。
●ウォールガーデン:石垣を造り,その石と石の間や目地メジの間に植えるもので,向
きによっていろいろな山野草が楽しめます。
●温室:山野草の栽培において,北地以外は特に温室は必要ありませんが,温室があ
れば暖地性野草の栽培が容易となり,また熱帯植物の栽培も可能になります。
●半地下式フレームや室:半地下をブロックで囲い,空中ケーブル線などで加温しま
すと,利用範囲がぐっと広くなります。日中は蒸れないように注意して下さい。なお,
屋根を太陽を背にするようにしますと,温度の上昇を防ぎ,凍らない程度に保護される
ので,山野草の冬越しに向いています。
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