45a 植物の環境を再現する/環境分析
 
 △植物の群落
 植物は,ある特定の環境の元に幾つかの種類が集まり,一つの集団として生育するこ
とが多いです。似たもの同士が似た環境下に生育し,更に大きな木は日陰を作り,その
下に陰生植物が生育するといったように,その組合せも複雑になっていきます。こうし
た植物の集団を群落といいます。
 この群落は,一見雑然と生えているように見えますが,よく見ますと,種類によって
水気の多いところや乾燥したところだけに生育するものや,また同じようなところには
決まった何種類かの植物が集団となって生活することが多いです。
 森林や草原と呼んでいるものも,一つの植物群落としての呼び名です。同じ森林でも,
クヌギなどの雑木林,カシ林,ブナ林などがあります。また草原にも,ススキ草原から
高山の草原まで様々な形のものがあります。
 〈群落内の棲み分け〉
 森林や草原は,一つの複合的な群系です。其処では多くの植物が幾つかの層となって
生活しています。これらの層は,また何種類かの植物で構成され,それぞれの空間的配
列によって,光をうまく利用しています。本州中部地方の亜高山針葉樹林にその例を採
りますと,コメツガ,シラベなどの高木層,その下にナナカマド,コメツガなどの亜高
木層,更にその下には,クロウスゴ,ヨウラクツツジなどの低木層,林床はゴゼンタチ
バナ,コケモモ,ツバメオモトなどの草本層となります。よく発達した森林の群落にお
いては,到達した光のうち,10〜20%は反射されます。残りの大部分,70〜80%位は樹
冠ジュカン層(高木層)で吸収され,林床に達する光は僅か2〜3%位となります。一方,
草地では,中央や下層で吸収される割合が非常に多くなります。このように,多くの植
物は群落の中で光に適応して棲み分けています。
 また植物の中には,時間的に棲み分けをするものがあります。温帯の広葉樹林の下に
生えるニリンソウ,カタクリなどがその例です。上木が葉を開く前の僅かの期間に十分
な光を受けて生長し,いち早く実を結び,樹木の葉が開き終わる頃には早々と姿を消し
てしまいます。これらは,早春季植物の一つで,葉を開いている期間の光要因が生育を
大きく支配します。草原,林下に空間的,時間的に棲み分ける植物の栽培では,それぞ
れの植物が持つ光に対する要求を程良く満たすことが大切です。
 〈気候と植物〉
 日本の気候は温和な海洋性ですが,南北に長く,地勢も複雑なため,地域の気候は多
様に変化しています。関東,中部地方に限ってみても,太平洋の冬は連日からからの天
気が続き,日本海側では深い雪に埋まってしまいます。更に山の高さも富士山から海岸
までという訳で,驚く程日本の気候は変化に富んでいます。
 こうした地域による気候の変化は,其処に自生する植物の種類を多くさせ,また,そ
の分布にも複雑な影響を与えることになります。
 〈環境と生活形〉
 植物は,葉や根などの栄養器官,又は生活様式など形を変えて環境に適応しています。
この適応の形は,一定の環境に生活するものには,たとえ種類が違っていても,よく似
た傾向を示します。砂漠の植物や着生ランなどがその例です。
 水環境に適応する型として,水生,湿生,中性,乾生植物に分けられます。水生植物
は,水の多いところに適応した生活形を示し,乾生植物は,水分の不足に耐える体制を
整えます。中性植物は,乾生,湿生の何れにも適応する生活形を示しますが,冬期の低
温と乾燥には,それぞれ種類によって異なった適応形を示します。
 ●海岸の植物:砂浜,潟,磯などに生育します。何れも耐塩性を持つ植物で,その種
類は少ないです。日がよく当たり風が強いところにも適応します。
 ●水辺の植物:多年草が多く,ヒツジグサ,ヒシ,マツモなど,水の深さで種類が違
います。湿原には高層(ミズゴケ),中層(サギソウ),低層(ガマ)などがあります。
低層を除き養分が少ないです。日照,空中湿度,水が多いです。
 ●人里植物:人間との深い関わり合いを持ちます。日当たりと肥えた土を好みます。
 ●草原の植物:刈り取り,火入れされるところは,大型のススキ草原,リンドウ,キ
キョウなどの生息地です。放牧場などは草丈の低いシバ草原,ネジバナ,ゲンノショウ
コの住処です。日当たりと風通しがよいです。
 ●雑木林の植物:自然林の伐採跡に再生した二次林です。関東地方ではクヌギ,コナ
ラ,東北地方ではクリ,ミズナラ,関西以西ではコナラ,アカガシと,その構成種は地
方により異なります。林の下には多くの山草が自生します。林床の水,光,養分は,地
形や構成種によって異なります。
 ●高山・亜高山の植物:ブナ林の上はモミ層などの針葉樹林,その上はハイマツなど
の針葉低木林,更に高くなりますと矮性ワイセイの低木や草原となります。山草でいうとこ
ろの高山植物の自生地です。高木林の下を除いて,日当たりと風通しがよく,乾燥しま
す。冬は雪によって寒風から守られます。
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