13 害虫を退治するガードマン〈天敵昆虫〉
 
          害虫を退治するガードマン〈天敵昆虫〉
                                        
                             参考 AFF199311
 
〈農業に代わって害虫退治をするガードマン「天敵昆虫」〉
 この昆虫は益虫か害虫か ・・・・・・ かつてほど頻繁にいわれなくなりました。これは,
昆虫自身の性質というより,人間の都合が優先する区分基準ですので,その時代によっ
て"線引き"が変わったり,曖昧になったりするためもあるのでしょう。
 例えば,優雅な光の舞いを見せてくれるホタルは,幼虫時代には淡水の中に棲んで,
ミヤイリ貝などの巻き貝をよく食べます。これらの巻き貝類は,人に感染する寄生虫で
ある日本住血吸虫の宿主となります。それをホタルが食べてしまうことから,「ホタル
は風土病を防ぐ益虫」といわれ続けてきました。
 しかし,淡水性の巻き貝の数が激減して昨今では,日本住血吸虫の驚異そのものが減
少しましたので,ホタルはいまや益虫というよりも,観賞用の昆虫というイメージの方
がより一般的になりました。
 イナゴやザザムシといったかつての食用昆虫も,今では嗜好品として利用されている
だけです。テグスサンというカイコの一種の絹糸腺から採った丈夫な生糸といえるテグ
スも,ナイロンなどの合成繊維に代わられています。
 では,いわゆる益虫として昆虫たちの能力を利用する機会は,どのように推移してい
くのでしょうか。
 能力利用の一つとして,益虫作用による「天敵昆虫」の働きがあります。周知のよう
に"天敵"とは,ある動物を重点的に襲って食べる敵のことです。いいかえれば獲物を狩
るハンターですから,その能力を大いに発揮して,我々の農業などの生産アップに貢献
してもらおうというわけです。その代表的な例が「アブラムシ(アリマキ)を精力的に
食べるテントウムシ」の利用です。わが国だけで200種類近いというアブラムシの類の
多くは,植物に寄生してダメージを与える害虫です。特にハウス栽培が普及してからは,
アブラムシ類は敵のいない環境のなかで大繁殖するために,作物に大きな被害を与える
ようになりました。
 アブラムシの駆除には農薬を散布すればいいわけですが,そうしますと,ハウス内で
受粉に活躍しているミツバチなどを殺害したり,作物に農薬が残留するおそれなども考
えられます。
 このようなことから,農薬に代わって害虫キラーとして,アブラムシの天敵であるテ
ントウムシの類が注目されてきました。
 テントウムシ類は国内だけで約100種類を数え,幼虫のときからアブラムシを捕食し
ますし,同様に植物に寄生するハダニの類もよく食べます。その性質を自然任せにする
だけではなく,より積極的に育てて利用しようというわけです。
 肉食性昆虫のテントウムシの人工飼育は従前は難しいとされてきましたが,最近では
ミツバチのオスやカイコの蛹サナギなどを餌として,成虫まで育てる技術も開発されてい
ます。ナナホシテントウムシなどが,ハウスの中だけでなく,果樹園などにも放されア
ブラムシやハダニの退治に活躍しています。
 ウドンゲと呼ばれる長い柄のついた卵で知られています,クサカゲロウと総称される
昆虫もアブラムシやハダニの天敵です。クサカゲロウは,わが国には十数種類が確認さ
れ,その幼虫も成虫も天敵として活躍します。そこで,テントウムシと同様に人工飼育
の方法が開発されて,作物の"ガードマン"として働いてくれています。
 このように,一度は農薬など人工的な方法で行ってきた害虫駆除は,改めて自然の持
つ能力の方を評価して応用していこうということが注目されるようになりました、
 特に昆虫類は,動物の全種類のうち4分の3を占めるといわれるだけに,その秘めら
れた可能性には測り知れないものがあります。
 速効性や過激さといった点では,化学製品などに劣っておりますが,地球という環境
の中で生き続ける彼らの能力や,智恵を借りないという手はないのです。
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