14 キチン・キトサンとは
キチン・キトサンとは AFF 1993 12
「キチン・キトサン」トハ,カブトムシ,クワガタムシ,カミキリムシ,スズムシ,
コオロギ,ゴキブリ,カマキリ,セミ,トンボ,チョウなど,またアリやカイコなども
持っている化学物質です。これは有機化合物の一種で,特に甲虫類の固い外皮を作って
いる成分として知られています。
このキチン・キトサンが,人間のための医療・医薬品・農薬・食品,繊維・衣料とい
った様々な分野における有用物質として,最近になって大きく注目されてきました。
エビやカニなどの甲殻類にも大量に含まれているため,「地球上で最大の未利用資源
」とまでいわれるようになっています。
正確にいいますとキチンとキトサンは異なる物質ですが,化学的に近い関係にあるた
め,処理によって相互に変身させることができます。また,前述の生物の体内では両者
が混在しているため,このようにひとまとめで呼ばれることが多いです。
大きな特徴の一つが,植物繊維の主成分であるセルロースとよく似た直鎖構造を持っ
てる点です。セルロースを溶かしてセロファン・テープや布地をつくるように,キチン
・キトサン製のフィルムなどがつくれることになります。
それだけでなく,セルロースにはみられない特有のメリットが,つぎつぎと発見され
つつあります。
アメリカ医学誌に発表されて有名になったのが,キチン・キトサンをベース素材とし
た軟膏を使いますと,傷口の治りが早いという研究データです。うまいことには,もと
もと生物の身体をつくっている物質のせいでしょうか,人間の身体との馴染みもよくて
拒絶反応も起きにくいとのことです。
こんなことから,ヤケドしたときの傷口をカバーにするなど,医療に使われる人工皮
膚として考えられるようになり,実際に開発されました。
さらに,キチンは長い時間にわたって生体に触れていますと,体内から出る酵素によ
って分解・吸収されるという性質まであります。この便利な特徴を利用して,人工皮膚
を縫い合わせたりするための,縫合糸も開発されました。
医療・医薬品の関係では他にも,免疫力をあげてウイルスに対抗する効果があり,ガ
ンの活性を弱める働きがある,といった動物実験での結果が得られています。
同じ効用・効果は,農業への応用も可能だと気がつくかもしれません。例えば実際に,
植物の病原菌に対抗する抗菌剤や,家畜の飼料への添加剤として開発されています。
セルロースによく似た性質のために,「親水性のゲルを作る」という特徴も利用価値
があります。つまり,細かい穴を沢山持った寒天かゼリーのようになるわけです。
前述のように,キチン・キトサンは生体へダメージを与えることもありませんので,
化粧品やシャンプー・リンスなどに加える保湿剤として,既に製品化を終えています。
また,物質を絡め取ったり・漉し取ったりという働きなど利用の範囲が広いです。廃
液や汚水の処理システムへの利用をはじめ,国によっては放射性物質の回収法への使用
も考えているといわれています。
微生物をキチン・キトサンのゲルに閉じ込め,例えばアルコール発酵をさせるなどの,
バイオ・リアクターに使ったらどうでしょうか。海水中から有用金属を集める,一種の
フィルターに利用できないでしょうか。このようなアイデアにも,こと欠きません。
耳慣れませんと,昆虫や甲殻類の身体を資源と呼ぶことに,抵抗があるかもしれませ
ん。まして,身体をつくっている物質を利用するという考えには,ピンとこないかもし
れません。
ところが,キノコの細胞壁の主な成分はキチンですし,チーズをつくるカビもやはり
キチンの持ち主です。
生糸はカイコの体内でつくられた物質であり,なによりもわれわれは動物食や菌食に
よって生命を保ってきています。
こうしてみますと,古くから繊維に代表される植物資源を利用してきたのに比べて,
昆虫を動物資源として考えなさすぎた,ともいえるのではないでしょうか。
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