12 大いなる可能性と能力を秘めた「ミツバチ」
大いなる可能性と能力を秘めた「ミツバチ」
参考 AFF199310
〈ミツバチ〉
「ハチミツの歴史は人類の歴史である」,こんな言葉がイギリスにあるほど,人間と
ミツバチとの付き合いの歴史は長いです。
スペインで発見された紀元前6千年ころの洞窟壁面には,ハチの巣からハチミツを採
取する風景が描かれています。古代エジプトでは,養蜂業も誕生し,ハチミツを利用す
るだけでなく,プロポリスというミツバチの生産物を,ミイラなどの防腐剤として使っ
ています。
わが国の歴史に養蜂が具体的に登場してくるのは,江戸時代に入ってからのことです。
わが国の在来種で小柄なニホンミツバチ(現在の主流はセイヨウミツバチ)が,紀州の
熊野地方を中心に飼育され,ハチミツを漢方の丸薬としても使っていたといわれていま
す。
養蜂技術を大きく進めたのは,19世紀の半ばにアメリカで発明された人工巣箱です。
巣が木枠に入っているため,1枚ずつ取り出すことができるようになり,近代養蜂の基
礎をつくったといわれます。
ローヤルゼリーが本格的に利用されるようになったのは,意外に最近で20世紀に入っ
てからのことです。働きバチが花粉を食べて体内で作る,タンパク質に富んだ育児用の
分泌液が,ヨーロッパで医薬品・栄養剤として扱われたのが始まりです。
ほかにも,蜂蝋ロウ(蜜蜂から分泌され,蜜蜂の巣の主成分を成す蝋で,化粧品や艶だ
し剤などの原料),花粉だんご,蜂児などのメーカーとなっています。刺されると痛む
蜂毒でさえ,蜂針療法として一部に取り入れられてきています。
こうして,いまでは便利で有用な"家畜"として世界的に活躍,年間で100万tを超える
ハチミツを生産しているといわれています。わが国では,農林水産省に飼育者から蜂群
(1群は1万~多いときで4万匹くらい)が報告されていますが,その数は20数万群と
いう数です。
では,ハチミツ,ローヤルゼリーに代表される生産物ではなく,彼らの"仕事場"とし
て最も広がりつつあるのは,温室栽培における「花粉媒介」,つまり人工栽培をしてい
る植物の受粉を促進する役です。
その代表的な例が,昭和30年頃から始まったイチゴのビニルハウス栽培です。周りが
囲まれた状態で花が咲くために,自然に受粉する率が低いのが問題となっていました。
ところが,そこにミツバチを入れてやりますと,彼らの活動によって受粉する率が高ま
りました。ミツバチの群れがいるだけで受粉率にして平均2倍ほど,実の重さでは2~
3倍という成績を示すようになり,収穫量が大幅にアップし,特に早期栽培のハウスイ
チゴには,ミツバチの導入が欠かせないものとなったのです。
アメリカ濃務省の統計によりますと,ミツバチによる100種類を超える植物への"花粉
媒介の経済的価値"は,ハチミツと蜂蝋の生産高の100倍以上になるといわれています。
これだけみても,近代農業からみてミツバチの働きが如何に期待されいるか,よく理解
できるでしょう。
人間との関係が長いといっても,まだまだミツバチには未知の能力や可能性がありま
す。
例えば前出のプロポリスという物質は,巣の充填物や殺菌消毒剤として,ミツバチが
各種の植物から集めて作るものですし,ヨーロッパでは人間用の民間薬としても利用さ
れてきました。
そのプロポリスの中から,最近になって抗ガン作用がある物質が見つかったと,国立
予防衛生研究所の研究者から発表されています。
「プロポリスそのものがガンに効くと考えるのは短絡すぎるが,新しい抗ガン剤のヒ
ントを与えてくれたのは確実」というのが,その研究者の説明です。もともとミツバチ
の生産物は人間の健康との関連が深かったわけですが,もう一つ加わったことになりま
す。
身近な昆虫として,動物行動学の研究に大きく寄与してきたことも,忘れるわけには
いきません。
ミツがある場所を巣の仲間に教える,「ミツバチ・ダンス」の解明でドイツのフォン
・フリッシュがノーベル賞を受賞しています。ほかにも,自然環境の中で動物が,どの
ように情報を捉えて如何に振る舞うか,といった研究のモデルになり続けてきました。
このようなことから,ミツバチの能力によって,大気や水質などの環境変化をキャッ
チしてもらう,などの考え方も出てきています。
いずれにせよ今後とも,私たちがミツバチに期待できることは,数多くあるのです。
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