11 バイオで注目を集める「カイコ」
 
           バイオで注目を集める「カイコ」
                                        
                             参考 AFF19939
 
〈カイコ〉
 「カイコを使って遺伝子組み換え/ネコ用のインターフェロンを製造」旨の記事が,
平成5年8月上旬の新聞に掲載されました。
 ウイルスが感染したときに,細胞から分泌される"対抗物質"がインターフェロンで,
ウイルスの繁殖を抑える働きを持っています。
 ヒトの細胞からも,このインターフェロンを作る遺伝子が発見されています。バイオ
テクノロジーによって,人工的に増殖させる技術も見つかって,一部のガンなどウイル
ス病の治療薬にもなっています。
 この記事の場合は,ネコの細胞が出すインターフェロンを人工的に増やして,ネコ用
の治療薬を作る技術を開発しようという話です。
 細胞からインターフェロンを作らせる遺伝子の部分を取り出して,まず,カイコに感
染する核多角体ウイルスと呼ばれるウイルスの体内(遺伝子)に組み込んでやります。
 これをカイコに植え付ける(感染させる)と,幼虫として成長していくうちに,体内
でウイルスを持った細胞も増殖されていきます。同時に,インターフェロンも増えてい
きます。
 カイコが大きく育ったところで,生産物を体内から取り出して精製しますと,大量の
インターフェロンが得られます・・・・・・。これが,ごく大まかな仕組みです。
 いってみれば,カイコを"生きている工場"として使おうというわけです。この技術を
開発した会社(東レ)では,「インターフェロンを大量生産するための物質生産工場と
して,カイコを活用する計画」とマスコミでは伝えています。
 それにしても,生糸づくりの専門家と考えられていたカイコが,なぜ登場するのでし
ょうか。
 幾つか理由がある中で,大きな要素は「早く大きくなって大量の糸を吐く」という独
特の性質です。
 カイコはカイコガの幼虫ですが,孵化してからマユを作るまでの,幼虫の期間が数十
日ほどです。その間に体重は約1万倍にもなるという,大変な成長ぶりをみせます。そ
してマユを作るために,千数百mにも及ぶ長さをもった,タンパク質でできた糸を吐き
ます。
 つまり,急激に成長しながら,体内の絹糸腺ではタンパク質を大量生産するという極
めて効率の良い製造システムというわけです。
 バイオテクノロジーの話題では,よく「大腸菌に遺伝子を組み込んで増やす」という
説明があります。組み込まれた遺伝子の命令によって,大腸菌の中に特定のタンパク質
を作らせようという技術ですから,基本的な仕組みはカイコでも変わりはありません。
 それでいて,カイコの方が大量生産に適している,というメリットを持っていること
になります。
 この性質を応用しますと,カイコは「生糸を吐く生物」から「様々な有用物質を生産
してくれる生物」へと変貌するのが分かってきます。
 また,生糸の生産技術の面でも,高品質な"細く長い糸を吐く品種"や,変わった風合
いの糸を出すカイコなどが誕生して,絹の再評価のための技術も,着々と進んでいます。
 ひと昔前に活躍していました古いタイプの昆虫というイメージは間違いで,バイテク
時代を担うスター的な存在になる可能性が高いのです。
 その一方で,カイコの将来性を支えているのは,「人間との付き合いの長さ」という
歴史であることも,忘れるわけにはいきません。
 三千年以上も前の中国で,既に生糸を生産していたというほど,カイコの生態や飼育
法が工夫されてきています。
 それだけ時間をかけて品質改良も進められ,遺伝的な特徴も詳しく研究されてきまし
た。今世紀の始めには,多くの固定した品種に分けられるほど,遺伝の管理もできるよ
うになりました。
 異なった品種を"かけあわせる"ことで,優れた特質だけを引き出す"一代雑種"という
技術も,早くから開発されています。
 こうした遺伝子レベルまでのデータが豊富なことが,カイコが"生きている工場"の有
力候補となる,大きな支えとなっているのです。
 ところで,「カイコは桑の葉しか食べない」と思っている人が,まだ多いのではない
でしょうか。
 ところが,リンゴなどを食べる雑食性の幼虫が見つかったりと,常識も覆りそうにな
っています。いろいろなものを食べる"広食性"を身につけたカイコが誕生しますと,ま
すます活躍の舞台が広がるに違いありません。
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