04b こんにちは昆虫たちよ〈害虫防除〉
 
 △殺虫剤の選択毒性
 殺虫剤の選択毒性に関する要因は生態学的因子と生理学的因子とに分けられますが,
目的害虫以外の生物への作用の低いことが重要です。
 △殺虫剤抵抗性
 害虫防除が害虫の淘汰を基本とする限り,どんな防除手段に対しても抵抗性が発達す
る可能性があります。したがって対策は極めて困難なことですので,抵抗性の発達程度
を正確に測定して予測すること,新しい防除法(殺虫剤)を組み込んだただ一つの防除
法(殺虫剤)のみに頼らないことが必要です。
 △混用,薬害,毒性
 薬剤を単用せずに他の殺虫剤や殺菌剤その他の薬剤とか肥料などと混用して両者の効
果を同時に得たり,相互作用を期待したりして混用する例はすこぶる多いですが,薬害
を生ずることがあるので注意が必要です。
 薬剤を施用した後に,作物や人畜などに生ずる損害を広義の薬害といいますが,狭義
には作物に対するもののみを薬害といい,人畜に対するものは毒性といいます。農薬は
野外において使用され,自然環境に放出される化学物質ですので,その毒性を考察する
際には,人畜,作物以外に野生生物に対する配慮を怠ってはなりません。
 △生物検定
 殺虫剤の生理活性を調べるのに生物を用いて検定することを生物検定(bioassay)とい
います。試験の方法には,局所施用法,注射法,フィルム法,濾紙法,侵漬法,噴霧法,
散粉法,摂食法,燻蒸試験法などがあります。
 △薬剤施用器具
 噴霧機,ミスト機,スピードスプレーヤー,煙霧機,散粉機,注入機などがあります。
                                                                              
〈機械的・物理的防除〉
 機械的・物理的防除とは,害虫を機械的に捕らえ,あるいはその移動を阻止し,また
光線,音波,超音波,熱線,高圧電流,放射線など物理的エネルギーにより害虫を誘引
・忌避,抑圧・撹乱するなどの害虫の行動を制御し,あるいは害虫の生殖能力を奪った
り,殺虫するなどの防除法を指します。また放射線による不妊虫放飼法も含めることも
あります。
                                                                              
〈耕種的防除〉
 耕種的防除とは,作物の栽培法,環境条件,あるいは品種の適切選択・改変によって
害虫個体群の定着・生存・増殖を抑制し,被害の回避・軽減の実をあげることをいいま
す。農耕の歴史とともに発達してきたものともいえる「古くて新しい」防除法であり,
次の生物的防除とならんで環境の撹乱や人畜に対する害などの副作用のない,無理のな
い方法であるところから,害虫防除の計画に当たってまず第一に考慮・検討すべき技術
といえましょう。
 耕種的防除の範疇に入る技術には,@環境を害虫が生息・繁殖しにくい条件に保つと
いう栽培環境の整備,A作物の作期をずらしてその出現最期に被害感受期の作物が存在
しないようにするという栽培時期の調節,Bおよそ考えうる害虫防除法のうちで最も理
想的な方策は害虫がつかない作物を作り出すということで,耐性又は抵抗性のある耐虫
性品種の利用などです。
                                                                              
〈生物的防除〉
 △生物的防除とは
 あらゆる生物には,その無限の繁殖を抑制する環境抵抗が働いていますので,その中
でも重要なものに生物的因子があります。ある種の個体群の死亡要因となる生物的因子
には捕食者,寄生者と病原微生物があります。これを総称して天敵といいます。この天
敵を害虫防除に利用することを害虫の生物的防除といいます。
 生物的防除とは,天敵が欠如したときよりも対象害虫の個体群を低い平衡密度に保た
せる行為と定義されています。具体的には,特定の天敵の導入又は操作によって,害虫
密度を経済的被害水準以下に落とし,なおかつこの低いレベルでの害虫と天敵の平衡状
態を長期的に維持させることにあります。
 古代中国の柑橘栽培者は,害虫を駆除するのにツムギアリを利用していたといわれて
います。「虫をもって虫を制す」です。
 生物防除における害虫と天敵の組み合わせは,@侵入害虫と導入天敵,A侵入害虫と
土着天敵,B土着害虫と導入天敵,C土着害虫と土着天敵に分けられます。
 △天敵の種類:生物的防除因子
 捕食虫は自分自身で餌をさがし,その生存期間中に1匹以上の餌を食べるのが特徴的
で,幼虫期に捕食性を示すものは,成虫になっても施食活動を続けるものが多いです(
ベダリアテントウなど)。生物的防除に利用される捕食虫は,鞘翅類(テントウムシ,
ハネカクシ,オサムシほか),脈翅類(クサカゲロウほか),膜翅類(アカヤマアリほ
か),半翅類(メクラカメムシ,ハナカメムシほか),双翅類(ヒラタアブほか)など
があります。
 捕食寄生虫は,寄生蜂や寄生蝿のように,幼虫期には他の昆虫に寄生し,成虫になる
と自由生活者となる特殊な生活様式をもつ昆虫の一群です。捕食寄生虫は膜翅目(ヒメ
バチ科,コバチ上科,クロバチ上科,ツチバチ上科ほか)に圧倒的に多く,次いで双翅
目(ヤドリバエ科ほか)に多いです。
 寄生蜂や寄生蝿の寄主は多種多様で,膜翅目,鱗翅目,鞘翅目,半翅目,双翅目,直
翅目ほか,ほとんどの昆虫やクモあるいは陸貝にも寄生します。寄生する寄主の発育ス
テージにも変化が多く,そのステージに応じて卵寄生蜂,幼虫寄生蜂(蝿),蛹寄生蜂
(蝿)などと呼ばれています。
 内部捕食寄生虫とは,寄主の体内にいて栄養を摂取し,生育するものです。
 外部捕食寄生虫とは,寄主の体外にいて栄養を摂取し,生育するものです。
 単捕食寄生虫とは,内部寄生・外部寄生ともただ1匹の寄生虫が育つものです。
 多捕食寄生虫とは,1匹以上の同種個体が1匹の寄主で育つもので,アオムシコマユ
バチはその好例です(内部寄生・外部寄生の別があります。)。
 第1次捕食寄生虫とは,非寄生虫(例えば食植性昆虫)に寄生するものです。
 重寄生(高次寄生)とは,ある捕食寄生虫が他の捕食寄生虫に寄生することをいい,
2次寄生,3次寄生〜などが生じ,また第2次捕食寄生虫,第3次捕食寄生虫〜などと
呼ばれます。
 非寄生とは,1匹の寄主に2種以上の捕食寄生虫が同時に寄生することをいいます。
多くの場合,種間競争の結果1種のみが生育を完了します。
 過寄生とは,1匹の寄主の体内に,正常に育ちうる範囲を超えた数の同種個体が寄生
することです。種内競争の結果1匹の優勢な個体が生き残るか,又は寄主が死んで全部
が滅びるかです。
 同胞寄生とは,ツヤコバチ科にみられる特殊な寄生様式で,雄は常に同種の雌に寄生
して生育します。
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