04c こんにちは昆虫たちよ〈害虫防除〉
 
      作物(アルファルファ)をめぐる食物連鎖の一例
 
    第3次寄生者        Asaphes californicus        第4次消費者
   (高次寄生者)       コガネコバチの1種         (肉食動物)
                 ↓
    第2次寄生者        Alloxysta victrix           第3次消費者
   (高次寄生者)       ヤドリタマバチの1種        (肉食動物)
                 ↓
    第1次寄生者        Aphidius smithi             第2次消費者
   (生物的防除因子)   アブラバチ1種           (肉食動物)
                 ↓
    害虫            Acyrthosiphon pisum         第1次消費者
            エンドウヒゲナガアブラムシ   (草食動物)
                 ↓
  作物          アルファルファ           第1次生産者
                          (植物)
                                                                              
 昆虫と線虫との関係には,共生,半寄生,寄生等の諸相があり,かなり多くの昆虫が
線虫の寄生をうけています。線虫は,近年オーストラリアの侵入森林害虫キバチの防除
に利用されています。
 昆虫の伝染性の病気の病原体はすべて微生物です。昆虫病原微生物を利用して害虫を
防除する方法を微生物的防除といい,それに用いられる微生物が病原微生物(天敵微生
物)で,製剤を微生物殺虫剤といいます。微生物とは,ウイルス,リケッチア,細菌,
マイコプラズマ,糸状菌,原生動物(原虫)などの総称です。
 天敵微生物としてのウイルス(昆虫ウイルス病)の例として,マツカレハを対象とす
る細胞質多角病ウイルス製剤マツケミン(日本)などがあります。
 細菌では,マメコガネの幼虫に寄生して乳化病を起こさせる例などがあります。
 糸状菌によって死亡した昆虫は硬い死体となるので,この病気を硬化病といいます。
 △天敵の有効的利用
 永続的利用を目的とした導入天敵の放飼(伝統的生物的防除)には,@ミカンの大害
虫ルビーロウカイガラムシに寄生するルビーアカヤドリコバチのような理想的な寄生蜂
の利用,A寄主に適合した,又は気候に適合した生態品種(バイオタイプ)の利用,B
生態的同位種による置き換え,C共寄生を利用した寄生蜂の調和的利用,D北米トウヒ
の侵入害虫マツハバチへの導入寄生蜂(ヒメコバチの1種)の例にみられる寄生蜂とウ
イルスの調和的利用などがあります。
 潜在的に有効性をもつ天敵を直接間接に操作して,その働きを最大限に引き出すこと
は生物的防除を成功に導く要素の一つです。@接種的放飼法は被害を早く軽減させるた
めに,害虫の発生拡大の最前線に接種的に放飼,A生物農業的利用(大量放飼法)は微
生物殺虫剤と同様に生物殺虫剤として利用,B自らの個体群の全滅を防ぐための過剰捕
食の回避,C関東地方高尾山のモミ林に6,7年ごとに大発生するハラアカマイマイに
対する微生物(核多角体病ウイルス)天敵の操作例,D北米トウヒの害虫ハマキガに対
する細菌と酵母(キチナーゼ)の併用の例などがあります。
 天敵が棲みよく働きやすい生息環境を作り出すなど,環境を操作することによって天
敵を保全し,その有効性を高めることも生物的防除の重要なテーマであるばかりでなく,
害虫の総合管理の戦略の一つです。
 雑草も有害生物にもなり得えすので,雑草の生物的防除としては昆虫のほか,魚類,
甲殻類,ダニ,線虫,病原菌などがあります。
 
〈法令による防除〉
 △植物防疫法
 本法は「輸出入植物及び国内植物を検疫し,並びに植物に有害な動植物を駆除し,及
びこの蔓延を防止し,もって農業生産の安定及び助長を図ること」を目的としています。
 国際植物検疫においては,@チチュウカイミバエなどの有害動植物の恒常的発生地域
からの寄生植物等,有害動植物そのもの,及び土,土の付着しているものの輸入の禁止,
A罹病か否か判別しにくいものは,一定期間隔離栽培,B木材や穀類に対する病害虫検
査,C輸出植物の検査などです。
 国内植物検疫においては,新たに国内に侵入し,あるいは既に国内の一部に存在して
いる有害動植物の蔓延を防止します。
 緊急防除は,侵入種あるいは既存種が蔓延し,緊急に防除を必要とする場合に行いま
すが,アメリカシロヒトリなどは阻止できませんでした。
 有害動植物は,イネのウンカ類など20種の動物,いねいもち病菌など21種の植物で,
農林水産省令において指定されています。
 これらの指定有害動植物について国と都道府県は,発生予察をして防除計画を立て,
防除を実行します。
 △森林病害虫等防除法
 本法は「森林病害虫を早期に,かつ,徹底的に駆除し,及びその蔓延を防止し,もっ
て森林の保全を図ること」を目的としています。
                                                                              
            森林病害虫
                                                                              
   (政令指定森林病害虫)
        松くい虫その他樹木に付着してその生育を害するせん孔虫類
        松毛虫
        まつのたまばえ
        すぎたまばえ
        まいまいが
        すぎはだに
        くりたまばち
        のねずみ
        からまつ先枯病菌
                                                                              
   (省告示指定種苗)
        すぎ,ひのき,あかまつ,くろまつ,からまつ,えぞまつ,
        とどまつ,やちだも,やしゃぶし,ひめやしゃぶし,にせあかしや,
        あぶらぎり,つばき,くるみ,きり
                                                                              
 △松くい虫被害対策特別措置法
 第二次世界大戦中や戦後の乱伐などによりわが国の森林は,各種穿孔虫類の大被害を
受けましたが,1970年頃から特にあか松林がマツノマダラカミキリとザイノセンチュウ
の共生による激害を受けるようになりました。
 そこでこの法律により,高度公益機能松林と被害拡大防止松林を対象として,虫害状
況に応じてそれぞれの対応策が定められています。
 
               引用 「新応用昆虫学 -改定版-」 朝倉書店発行

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